山田太郎の復讐
平沢ヌル@低速中
1.
この話を始める前に、一つ君にも理解してもらいたい。
これは、僕の復讐の物語だ。
「眞壁さんは、福井のご出身でしたよね。福井の地酒が美味いんですよ、この店」
それから、僕は店員に声を掛ける。
「これとこれ。こっちは燗をつけてくれ。眞壁さんはどうしますか?」
「……なんだっていいぜ、俺は」
目の前の男、眞壁俊樹は低い声で答えると、ぎょろついた目をさらにぎょろつかせる。斜めに腰掛けて、座布団の上で足を投げ出しているその男は、今年で四十三歳になるというが、そんな年齢には見えなかった。五十、いや、五十五と言っても通るかもしれない。
僕はにこやかな笑みを絶やさないまま、言葉を続ける。
「この店、燗のつけかたが絶妙なんですよ。最近の居酒屋は困ります。熱燗を頼むと、火傷しそうに加熱した銚子に、香りの飛びかかった酒を入れてくる。その点この店は全て、わきまえたものです」
僕の言葉に、眞壁が落ち着かなげに辺りを眺める。
「驚いたぜ、あんな安居酒屋の地下が、こんな風になってる、なんてな」
この部屋は畳張りの和室だが、黒壁に金箔が散らされていて、上座の背後には大きな鉢に花が活けられて、その上からスポットライトが当たっている。まあ言ってみれば成金趣味の趣向を凝らした室内で、安居酒屋の個室としては意外性のある設えだ。
「ちょいとした、隠れ家的名店なんですよ、ここは。もちろん、味は折り紙つきです。何か、注文されますか」
アジフライ、ポテトサラダ、なめろう、イカの塩辛。そんな庶民的なラインナップが並んでいるお品書きを、僕は手のひらで一度撫でる。
「そんなことより、俺の話を聞いてもらいたいねえ」
それから、眞壁は話し始めた。
それは、彼の物語、というよりは、僕たちの物語だった。
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