これからきっと

@rabbit090

第1話

 ためらいは無かった。

 別に気にすることもないと思っていた。

 だって、僕は今手を負傷していて、動ける状態じゃない。だから彼女が死のうが何をしようが、無視をしていることができた。

 けれど、彼は違う。

 彼は、あの子をそのままにしておくことができない。

 彼女の癇癪は度を越していた。

 妹だけど、もう辟易としてしまって、言葉にすることすら面倒くさい。

 でも、

 「あの子を、見捨てないで。」

 お母さんが、どうしても里香りかのことを気にしているから、僕も、有理ゆうりも離れることができない。

 「里香、行こう。」

 黙ってついてくる妹は可愛かった。

 有理も僕も、なんだかんだ言ってこの子のことが好きだった。

 決して、血がつながっていなくても、妹だった。

 僕と有理は母の姉の子供だった。

 そして、里香は正真正銘母の子供、しかし父親はいない。誰が父親かという事すら母は口を割っていない。

 ただ、母の姉が死んで、身寄りがいなかった僕らを引き取ってくれた若い母に、本当の自分の子供ができたことは喜ばしかった。

 僕も有理も、とても喜んで歓迎した。

 しかし6歳になり、小学校に入学した里香は、暴れるようになった。

 学校では大人しくできるのに、なぜか家に帰ると猛烈に興奮してしまう。

 有利と僕はすでに中学生になっていて、そんな里香のことだって二人でかかればお手の物、可愛いとか言いながらあやせるはずだったのに、もう、どうしてだよ。

 母がいなくなった。

 最初は、探し回ったけれど、全然見つからなかった。働き先にも行ってみたけれど、もう辞めている、という。

 そして、僕らは遠縁の親戚に預けられることになって、けれどもちろん、と言って良いのかは分からないけれど、すでに大きくなっていた僕と有理、そして癇癪のひどい里香は、彼らに受け入れられることは無かった。

 しかし、僕も有理も要領は良かったから、食べ物は学校で分けてもらえば良かったし、離れで生活していたから、里香にご飯を食べさせて、そして僕らで世話をして、そんな感じで仲良くやれていたのだと思う。


 「祥平しょうへい君。」

 「何?里香。」

 「あのさ、お金欲しい。」

 「何に使うの?」

 「化粧品。」

 「分かった、良いよ。」

 「やった、ありがとう。」

 僕は、朴訥になっていた。しかしそれよりさらに里香は、寡黙だった。

 僕らはもう社会人になっていて、しかし相変わらず三人での暮らしは続いている。

 里香は、まだ高校生だけど、大人に近づくにつれて、人を拒み僕らに懐く度合いが強くなった。

 しかし、それにしても里香は美しい女の子に成長したなあ、と思う。

 なのに、彼女には交友関係がない。

 人を拒んで、僕らだけを受け入れる。

 これが、ずっと続いていくのかもしれない。

 けれどいいのだ、三人だけなのだから。

 「有理、見て、祥平君に化粧品買ってもらえる。」

 「おお、良かったじゃん。」

 有理は、今絶賛彼女と交際中で、毎日浮かれている。

 そして、たまにいなくなってしまう。

 僕らの日常は変わっていないはず、ずっと三人で生きてきて、これからもそうなる、はず。

 けれど、本当にそうなのだろうか、という疑問が胸をかすめるようになっていた。

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