14:お礼
──【神器】を造るというラルフ君との約束から三日後。
「終わったー! 疲れたー!」
俺はついに、やり遂げた。
ラルフ君がこれまでサボりまくった訓練用の武器の手入れ……。三日目にしてようやく全部の【
もちろん、新規での依頼もバリバリこなしていた。というか、かなり多忙なんだな。憲兵団の錬金術師は……。
ラルフ君がどれだけサボっていたのかは分からないが、まだ学生のような錬金術しかできないラルフ君には荷が重かっただろう。
だからといって、職務放棄はあり得ないんだけどな。仕事をなんだと思ってるんだ……。
工房のドアが、ぎぃ、と開くので振り向くと、アナが赤髪のツインテをひっさげて、ぴょこんと顔を出した。
「ダイアお兄ちゃん? いる?」
「アナか。どうした?」
「えへへ。遊びに来ただけー」
アナは俺の所在を確認すると、嬉しそうにタタッと駆け寄ってきた。
やれやれ、可愛い奴め。と思っていたら、アナは俺が仕上げた剣を見て、目を丸くさせて呟く。
「うわ……すごい剣だね。さすがお兄ちゃんだ……」
「え?」
アナに言われ、改めて、自分で【
刃は鈍い輝きを放ち、レンガ造りの薄暗い工房の中で、異様に存在感を放っていた。そしてそれは、木箱に詰められた、今日仕上げた分の武器たちも同様である。
……いや別段、変わった様子はないけど。
だがそういえば、ラーシアも俺の【
なんかちょっと、嬉しい気分。
「もしかして、これが【神器】?」
「違う違う。これからこれから」
「え!? だって期限は一週間でしょ? なるべく成長する日数は確保しなきゃだよ!」
俺も最初はそう思った。【神器】が成長することで真価を発揮するなら、確かに、成長するための実績を積む期間は欲しい。
でもなあ。本当にわからんのだよ。
何をどうやったら成長する武器が出来上がるのか。
なにせ冒険者時代はそんなことあり得なかった。
だとするなら、冒険者時代と同じような【アップデート】では無意味だということだ。
かといって修行時代。あの頃に、なにか特別な方法で錬金術を行使していたかと問われれば、別にそんなことはないわけで……。
それに、憲兵団での仕事も山積みだった。
工房を使わせてもらっている以上、それを疎かにはできない。
そんなわけで、なんやかんや、今まで【神器】製造に手を付けられないでいたのだ。
うん、出来なかったものはしゃーない。切り替えていこう。
「でもさー! 本当にムカツクよね、そのラルフってやつ! 私の【神器】見びらかしてやればよかったのに! ていうか、お兄ちゃんも【神器】持ってるじゃん! なんで黙ってたのさ!」
「まあまあ。どうせ見せたって信用しない奴だよ」
「ふーん。ムカツク!」
そして、そんなやり取りを見て、俺の背後で監視していた一人の少女が口を開いた。
引き気味で。
「ヤバくない? あけすけなさ過ぎるんですケド?」
振り向くと、褐色の肌に金髪ロングヘアーのギャルがそこにいた。
引いてるところ悪いが、相変わらずのギャルなので、こちらとしてもちょっと絡みづらい。
アナも会うのはこれで三回目だが、ギャルという生物に、彼女も戸惑っている様子だった。
こいつ、こう見えて、ラルフ君が置いていった監視役なんだよなあ。
人選正気か? いや、俺程度の監視など、ギャルで十分という考えなのかもしれない。
実際、特に不正を働くつもりもないからそもそも監視すら不要なわけで、役割としては居るだけで十分過ぎるわけだけど。
それに、もう一つ。
「おいギャル。香水クサいんですケド」
「ギャルなんて名前じゃねーし! ラビッツ・ワラビーナ! マジ変なあだ名つけるのやめてほしーんですケド! あとクサくなくない!?」
そうは言っても、口調に対してそこまで意に返さない様子だ。ギャル強えぇ……。
こいつの凄さはそこだけじゃない。
三日前、ラルフ君が出て行った後、しばらくして彼女は現れた。
「ちょりーっす! うち、ラビッツ・ワラビーナ! ラビちゃんって呼んでいいよー! ラルフっちからの命令で、ダイアさんってゆー錬金術師の監視を任されて来たんですケド! 好きなものは権力者と実力者! 嫌いなものは愛のないセックス! とりま、ヨロ!」
あまりの破天荒ぶりに感心すらした。
ラーシアは、いかに領主の関係者だとはいえ、憲兵団が客人として招き入れた人物を監視するなど言語道断として部外者を追い出そうとしていたが、面白いから、俺自身が彼女の監視の許可を出した。
「あざまるー! ちょー嬉しいんですケド!」
それで、作業の合間に話をするのだが、俺の情報を聞き出そうなんてことはなく、普通に自分のトークばかり展開してきて……普通に面白かった。作業しながら、ラジオ感覚でギャルに話させていた。
「ラルフっちはさー。ああ見えて意外とビビリで、うちをかどわそーとしてきた時あんだけど、ちょっと侮蔑しながら拒否ったら捨て台詞吐いてどっか行っちゃったんだよねー」
「それはウケる」
「うち貧乏だったけど、パパが拾ってくれてー。あ、パパってのはブックエンド辺境伯様のことなんだケドー」
「パパ活やん」
話の合間に俺も相槌だったりツッコミだったりも入れて、なんだかんだ、作業的な業務ばかりでも、飽きない三日間だった。口調もちょっとうつっちゃうくらいにはギャルのことがわりと気に入ったんですケド。
あ、そうだ。
ギャルはそんな退屈しない日々を提供してくれたんだ。
お礼をしないとな。
「そうだ。おいギャル。何か【アップデート】してやるよ。できれば金属だと助かるけど、何か持ってないか?」
「えーマジ!? ちょー嬉しいんですケド! じゃあパパから貰った護身用のナイフとかでもいい感じ?」
「いい感じですケド?」
「じゃ、ヨロ!」
差し出されたナイフは、装飾とかもなく、黒く光を反射させにくい加工を施したものだった。護身用というか、暗殺用じゃね? めちゃくちゃ実践向きだな……。悪いがギャルには似合わない感じがする。
だが、ナイフ自体はいいものだな。錬金術は施されてないが、良質な鋼が使用されているのがわかる。切れ味も抜群だろう。
うーむ。ただ……素人が持つ分には、やはりどれも過剰な機能だな。切れ味が良すぎて、このナイフで果物剝くにも指を切る心配が付きまとう。いやギャルが果物を剝くなんて無いか。でも危ないから、もうちょい切れ味落とすか。
その代わり、雷属性を付与して、護身としての使い道の強化だ。
スタンガンよろしく、触れた瞬間バチ!っと感電。
ナイフだと、着衣した状態の相手に切りかかってもダメージにはなりにくいからな。突き刺す動作は避けられやすいし、腕を振り回しながら、当たれば感電。うん、なかなか護身として優れている気がしてきた。
用意するのは雷属性の魔石。魔力を電力に変換してくれる意味わからん物体だ。
それから、変換した電力を充電できるバッテリーも内蔵させておこう。魔力が切れても安心設計。
そうだ。ギャル的な要素で、柄にハートマークでもワンポイント入れておこう。そこをバッテリー機関として、ハートを見れば魔力の残量がわかるようにして……。
考えながらも手を動かし錬成陣を書き上げる。
わざと複雑に書いてみたり、一見脈絡がない破綻した構築のように見せつつ、しっかり纏めるアドリブ構築でつなぎ合わせ……。
最後に、錬成陣に、俺の名前も刻む。刻む意味は何一つないが、ついつい隠れたところに自己主張しちゃうものだ。これって錬金術師あるある……だと思う。
雷が走るような錬成光の後、ギャルのナイフは、青雷を宿した。
「よし。こんなもんだな。完成ー!」
「うわぁ……ありがと……」
ギャルは今までのおちゃらけた感じとは違い、目を輝かせて、頬を桃色に染めて、恥ずかしそうにお礼をぽつりとつぶやいたのだった。
よせやい。俺まで照れちゃうんですケド。
さあ、約束の期限まであと四日。
……どうすっかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます