13:口は災いの元
「ダイア様、申し訳ありません。あの者の無礼をお詫びいたします。彼は、城塞都市トランを統べるブックエンド辺境伯の第三子にして、待望の長男ということで、こんなに甘ったれに育ってしまい……」
「聞こえてるぞラーシア!?」
おお、すげえな、この女。
本人を目の前にして、よくズケズケとそこまで言えるな……。
ラルフ君もまさか、こんなにも堂々と陰口を言われるとは思いもしなかったようで、酷く狼狽えていた。
また怒り狂ったラルフ君に権力振りかざすような事を言われても面倒なので、さっさと話を切り替える。
「ラーシア隊長が謝ることじゃない。それに、『造ってみろ』と言うからには、この工房を貸してもらえるんだろ? それじゃあ早速、作業に取り掛かっていいか?」
「ふん……、まあ、いいだろう! ただし! ここの仕事はお前が肩代わりしろよ! なにせ俺は、邪魔者がいると集中できないタチなんでな! その間、ゴールデンウィークを満喫させてもらうぞ! はーっははははは!」
さらっと業務まで押し付けて、ラルフ君は工房を出ていってしまった。
「あ、待ちなさい!」
ラーシアの静止など気にもせず、入口のドアを閉めていなくなる。横柄な奴だ。
それから、気が付けば、いつの間にか工房には憲兵団の兵士たちが、何事かと集まっていたようで。
すぐに辺りはざわめき出した。
「よく言うよ。いつもサボって、遊び歩いてばかりいるくせに……」
「仕事も雑だしな……」
「たまに剣がひんやりしてるのあれなんなん?」
なるほど。
典型的な、嫌われ貴族ってわけか。むしろこいつを好きな奴どこにいるってんだよってくらいの逸材だよほんとに……。
こいつは悠長にナージャの到着を待っているのもあれだな。
この親が権力者ってこと以外なんの取柄もなさそうな坊ちゃんの鼻を明かしてやりたいものだな。
いいや、絶対に明かさねばなるまい!
なぜなら人を打ち負かした時ほど、ご飯がおいしく食べられるってもんだ。
「ダイア様、ここにある素材はこれだけです」
「お、助かる」
ということで、俺は工房にある素材を確かめていた。
ラーシアも手伝ってくれて、魔石や鉱石が大テーブルにずらりと並べられた。
他の兵士たちは、ラーシアが訓練を続けるように指示を出したので、いま工房内は俺とラーシアの二人だけだ。
ラーシアも戻っていいと言ったのだが、今回の件は憲兵団のいざこざに巻き込んでしまったようなものなので、責任を持って、俺の手伝いをしてくれるとのこと。
律儀だなあ。
「しかし……、どれもただの石ころにしか見えませんね。ダイア様には判断が付きますか?」
「もちろん。大体は冒険者時代にお世話になった顔ぶれだ。知らない子もいるが、流石は憲兵団の錬金術工房だ。ここには書庫もある。調べながら、特徴を捉えていくよ」
ラーシアがが倉庫から持ってきてくれた素材は種類も多く、なかなか良質なものばかりだった。
冒険者として現場で働く錬金術師は、こういった素材を持ち運び、用途に応じて使い分ける。
武器が曲がったり変形したり程度は素材なんていらないが、ポッキリと折れてしまうような状況の【
素材を見ると、テンションが上がってくる。
冒険者として、モンスターと対峙してきた経験が、血をはやらせる。
それと同時に、母さんから錬金術の基礎を学んでいた幼き日々が思い起こされる。
こんなに素材に囲まれて、工房に腰を据えるなんて、修行以来だもんな。
修行時代。
実践時代。
俺という人間を構成する、二つの時代が交錯する。
いや俺にはさらに、前世の時代もあるわけだが……。うん、そうだな。
前世でファンタジーに触れてきた経験があるからこそ、この世界で、こんなにもワクワクしてる自分がいるのだ。
ああ、楽しいな。
さてそれじゃあ、どんな武器にしようかな。
とはいえ、一週間……。知らない素材も書庫も気になるが、調べていたら時間が足りない。
それに、それ以外にも、やらなきゃいけないことがある。
「ラーシア隊長。一応言っておくが、俺を気にかけて、【
「え、ですが……本当に、いいんですか?」
「ああ、そうしてくれたほうが、俺も気兼ねせずにこの工房を好き勝手できるしな。頼んだよ」
「……ふふ。わかりました」
おや。ようやく見れた。
ラーシアの笑顔。
なかなか愛嬌があるじゃ──。
「では、早速ですが、これらの【
ラーシアは、倉庫の奥から、大量の木箱をいそいそと運び出して、そう言ってのけた。
木箱の中身は、ボロボロの剣、槍に斧にハルバードに、ダガーから弓矢から……もう、いっぱいだ。
「あっ……はい」
ええい、男に二言はない。
二言はないが……こんなことになるなら、そもそも口にしませんでした!
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