第1話 うつ病を発症する

 23歳の頃、私はクレジット会社のコールセンターで働いていました。私がやっていたのは電話の仕事ではなく、お客様の個人情報をパソコンに入力する、いわゆる「データ入力」の仕事。繁忙期と閑散期の差が非常に激しく、繁忙期には休みの日でも呼び出され、閑散期には「仕事がないから待機してて」と言われる始末。

 でも、この仕事が好きだ、と思っていました。休みの日に呼び出されるのが特に好きでした。必要とされている!と思っていたからです。ただ、開設されたばかりのセンターだったので仕事のやり方が定まっておらず、急に電話をかける仕事をさせられたり、閑散期に何もせず漫然と過ごしたりするのは本当に苦痛でした。


 そんな日々の中で、次第にひずみが生じてきました。確か、洗濯機が回せなくなったことが始まりだったと思います。私は実家暮らしで、家族みんなの洗濯物を洗う係をやっていたのですが、母が厳しい人で、洗濯物を干すのにさまざまなルールがあったんですね(ジーンズは竿に干すとか、ポケットは裏返すとかそういう)。それが突然、完璧にできないのでは……という強い不安感に襲われて、完璧にできないなら初めからやらないほうがいい、という気持ちになり、代わりに家族にお願いするようになりました。

 また、簡単な買い物ができなくなりました。仕事が終わって、ご褒美におやつでも買って帰ろうと思って近くのスーパーへ。でも、何を食べれば自分が満足できるのかさっぱり分からない。チョコレートはカロリーが高過ぎる気がするし、スナック菓子は体に悪い気がする。そんな感じでスーパーの中を20分くらいグルグルして、結局何も買わずに帰るか、手当たり次第目に付いたものをいくつも買うか、家族に電話して「今おやつに何を買うか迷ってるんだけど何を買えばいいと思う?」と相談する、というのをよくやるようになりました。これは、うつ病が判断力や思考力を低下させるためと思われます。

 次第に、仕事へ行く時に何を着ていけばいいのかも分からなくなり、すべての服に番号を割り振って、何曜日には何番と何番の服を着ていく、という一覧表を作ってなんとか対処したのが自分でも印象深いです。

 自分のそうした変化に、何かおかしい……と思いつつ何もできず。突然「自分は無価値だ」という強い気持ちに襲われて泣く、というのもあったと思います。

 友だちの一人に、最近こうしたことが多くて困っている、と相談したところ、「なんで病院に行かないの?」と言われて目から鱗でした。「ほんとだ! これ心療内科へ行ってもおかしくないくらいの症状だ!」とやっと気付いたのです。すぐ病院へ行き、うつ状態だと診断されました。


 正直なところ、なるべくしてなった、と思っていました。母がパニック障害を持っていて、私は顔も性格も母にそっくりだと言われていましたし、くそ真面目でストレスを溜め込みやすい性格をしている自覚があったからです。

 仕事は、上司から辞めるように勧められました。私は正社員でなくパートタイマーだったので、その当時は休職制度がなく。募集はいつでもかけてるから、元気になったらまた応募してきて、と言われました。


 それから何年も、仕事をせず寝込む毎日を過ごしました。何もする気にならず、ほとんど寝てばかりだったと思います。少しずつ、本当に少しずつ回復して、家の中で少し仕事をするようになり、そんな日々の中で、今の旦那に出会うことになります。

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