殺人欲
non
第1話
私には殺人欲があります。
誰かの腹にゆっくりとナイフを刺して、ズブズブと入っていく感触を想像したりして興奮していました。快感を感じていました。でも、想像していただけでした。実際に殺人を犯すと罪になりますし、捕まることは避けたかったので。それに、他人の権利を侵害することはできません。まあ、想像だけで本当に私に殺人などできるはずがないと思っていました。いざ、人を前にすると勇気が出なくて怖くなるだろうと思いました。それに、私には殺したいと思うほど憎む相手はいませんでした。...幸運なんでしょうね。それでも殺人欲は消えることはありませんでした。社会的に考えると相当、狂っていると思われるのでしょう。いや、実際に狂っていたのかもしれません。どこからがおかしいのか、どこまでが普通なのか。考えるのはもう面倒になりました。人それぞれだ、と言われればそれまでかもしれませんが、私の普通はどうやら他の人とはかなり違うみたいでした。
例えば、私は好きな人ができたことがありません。正確に言うと、“恋”をしたことがないのです。しかし、愛することを知らないわけではありません。友達や家族を大切にしたいと思うことはありますから。ただ、恋をするという心持ちが私には分かりませんでした。学生時代、友達から、そういう人に出会ったことがないだけだ、と言われていましたが、その時に、私にはそういう感情はないのだろうな、と思いながら、そうだね、と言っていました。しかし、私はそういうこともあるだろう、と特に傷つくことはありませんでした。恋は強制的にしないといけないものでもないので。何か、他の人と違う方があっても私はその人を否定することはありません。それはその人の立派な意見であるし、私は私だ、と思うようになりました。
しかし、殺人欲は別です。これは、社会的に認められていないのです。それに、きっと誰かに言うと、気味悪がられるでしょうから誰にも話したことはありませんでした。ただ、いつまでも私の胸中でくすぶり続けていました。
そんな時でした。私はインターネットの書き込みで、あるコメントを見つけました。「死にたい」。そのコメントには、誰も返信していませんでした。私はそのコメントに私が作った掲示板のURLを載せました。その人が入ったらすぐに消しましたけどね。もともと、ブログを書いていたんです。私だけが見られるブログ。すぐに更新しなくなりましたけど。そこでやり取りを始めました。初め、私は「どうしたんですか。話を聞きますよ。」と送信しました。そうしたら、相手はどうして死にたいと思ったかの経緯を書き込んでくれました。そして、「もう疲れたんです」と締めくくられていました。私は「本当に死にたいんですか」と聞きました。すると相手は「はい」と答えました。そして私は思ったんです。ああ、人を殺せるかもしれない。そしてこうも思いました。私の殺人欲はきっとこのような人を助けるためにあるのだと。そんなもの、ただの思い上がりだと思われるかもしれませんが、なかなか人を殺せる人って少ないと思うんです。そんな願望を持つ人も。だったら、お互いが望む場で願いを叶えられるはずだと。それに、死にたいと言っている人を生かし続けることは、殺すことよりも残酷だと私は思うんです。毎日、地獄よりひどいものを味わっているような気分でしょうから。
そして私はその人に会う約束をしました。日付と時間、場所を指定してもらいました。こちらからの要望はなるべく人に見られないところがいい、というものです。それ以外は全て相手に決めてもらいました。これから死ぬんです。相手の最後の願いを私には断る権利などありませんから。
私は指定されたところへ行きました。そこには女性が立っていました。しかし、やはり死ぬ直前に気持ちが変わることもあるでしょう。だから私は聞きました。「本当に、死にたいですか」と。女性は小さな声で「はい」と言いました。私は麻酔薬と薬物を注射しました。
そして、脈が弱まったことを確認してからナイフでゆっくりと腹を刺しました。やはり、快感でした。ゆっくりと刃が入っていく感触は素晴らしいものでした。私は何回も刺しました。ゆっくりと。脈はないので血が飛び散ったりすることはありませんでした。私は欲が満たされると彼女を埋めました。そして手を合わせて、その場を立ち去りました。感謝と冥福を祈って。
私は私の殺人欲を理解して欲しいとは思いません。私にも理解できないことはありますし、みんなが同じ意見を持っているわけではないので。でも、死にたい、という人を生きていれば良いことがある、と励ますのはどうでしょうか。その人はその人なりに考え抜いて、悩んで苦しんで、決断したのです。きっと、逃げ道があったのなら死以外の方法を考えたのかもしれません。しかし、それ以上の方法が見つからなかった。そんな人を蔑み、軽蔑し、侮辱したりする。私には到底理解ができません。したくもありません。人を殺した奴が何をいうか、と思われるかもしれませんが、私にはそのような人たちが彼らを死に追いやったのだと思います。そして、死にたいと言ったら死ぬな、と言う。あまりに身勝手で傲慢だ。
私は私のしたことが社会的に許されないことだと知っています。でも、私の罪が殺人なら、あなたたちの罪は一体何なのでしょうか。私には、あなたたちの方が、狂った殺人者に見えるのですが。
殺人欲 non @Kanon20051001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます