👹鬼畜お題短編オムニバス😈
空夜風あきら
第一話 お題①[ワンピースならぬ、ワンホールを求めて……]
さあ、準備オッケー。
頼むっ、次こそ上手くいってくれよ〜。
私は頭の中でそう祈りながら、目の前の状況を見つめる。
私がいる桜並木の道のすぐ横の道路上には、一心不乱に何かをぺちゃぺちゃやっている猫ちゃんがいた。
そこがどこなのか気にもしないで、ひたすら地面にぶち撒けられたブツに夢中になっている。
と、微動だにしない猫ちゃんの元に、猛然と接近していく物体が。
デカいトラックだ。
まあ、そこは車道なのだから、トラックが通っても何もおかしくはない。
とはいえ、猫ちゃんがいるのは、トラックが進行している車線のど真ん中だった。
なので、このままいけば、あのトラックにより、猫ちゃんは地面に引き伸ばされた赤いシミになることだろう。
私は今か今かとその時を待ち望む。——頭の中でタイミングを測りながら。
早くても遅くてもいけない。ベストなタイミングを見極める必要がある。
だけど、これまでの幾多もの試行により、私はすでにそのタイミングを体で覚えていた。
トラックがグングン近寄ってくる。
猫ちゃんとの間の距離が、どんどん無くなっていく。
そして、ついに、その時がくる——。
いよいよ猫ちゃんがトラックに轢き潰される——その直前。
私はその場を飛び出した。
道路上の猫ちゃんに向け一直線に突っ込みつつ——まるで側転をするかのように——勢いよく手から地面に飛び込む。
片手を地面につけて、もう片方の手で猫ちゃんを
同時に振り上がった両足を、勢いのまま向こう側に振り抜く。
足が地面につき、反動で持ち上がった上半身が、直立体勢に戻る頃には——間一髪、目の前を勢いよくトラックが通り過ぎていった。
うひょっ、ドンピシャ!
——や、ちょっとギリギリ過ぎたかな〜。
まあいいや。
やっぱりこのやり方が、一番ギリギリでいける。
まあ、今回はちょっとギリギリ過ぎたけど。もう少し早くても良かったな。次はそうしよう。
さて、それはともかく、今回はどうなんだ……?
アクロバットに猫を助けた私は、とはいえ息一つ乱すこともなく、桜並木の道に歩いて戻った。
助けた猫を腕の中に抱えながら、私は桜の木に寄りかかる。
そのまま、しばしの時が経ち——。
……来ないな。
しゃーない、ならまた次いくか……。
私がそう思った、まさにその時、横から待ち望んでいた声が掛かる。
「き、君、見ていたよ。君がその猫を助けてくれたところを。実はその猫は、僕の飼い猫なんだ」
「へぇ、そーなんですね」
「ああ、本当にありがとう! 君がいなければ、僕の最愛の三毛猫ミーちゃんが、真っ赤なミンチちゃんになっちゃうところだった……!」
「はいはい、そーですね」
「その、是非ともお礼をさせて欲しい。どうだろう、君さえ良ければ——」
「あー、じゃあピザください。デリバリーのピザ」
「おっと、忙しいんだね。じゃあ……そうだな、ピザを頼むよ、デリバリーの。それでどうだい?」
「ええ、ええ、それがいいです」
「大丈夫、すぐに届くから。時間は取らせないよ。——じゃあ、注文するね。そうだ、種類は何がいい?」
「ミート以外に何かあるんですか?」
「おっと残念、ミートピザしかないみたい。じゃあ、ミートを頼むよ」
「ありがとうございまーす。——まあ、8ピースまるごとくれたら、もっと嬉しいんですけどねー」
その——誰とも知らない、まるっきり初対面の——男の人が電話をかけると……本当に、あっという間にピザのデリバリーがやってきた。
ブブゥン、と目の前まで突っ込んできて止まったデリバリーピザのバイクの運転手から、箱入りのピザを受け取る男の人。
「はい、どうぞ」
差し出されてパカリと開けられた箱から、私はピザを1ピース受け取った。
「どうも」
これで通算5ピース目。やっとあと3ピースか。
私が手の中のピザを見つめている間に、デリバリーのバイクはさっさとその場を反転してブブゥンと走り去り、男の人も悠然とその場を歩いて離れていった。
その途中で、ぴょん——と、彼の腕の中に抱えられていた猫が飛び出す。
猫はそのまま車道の方に突っ込んでいき——ちょうどそこに車が通りかかった。
あ、
今から全力ダッシュで向かえば間に合うかもしれないが……ついさっき助けたのだから、もうここで猫を助ける意味はない。
私は手に持ったままのピザをしまう。
そんな動作をしている内に——車が猫の上を通り過ぎた。
そんな光景を視界に収めつつも、私はまるで気にすることなく、頭の中ではすでに別のことを考えていた。
さーて、次はどの辺りで猫を道路に配置しようかな〜。
◆
桜並木道より移動した私は、まずはその辺をうろついて猫を探す。
その私の手には、とあるアイテムが握られていた。なんとなく、これを持っている方が、気持ち猫との遭遇率が上がる気がするので。
程なくして猫を見つけた。
猫ちゃんは私が手に持っているブツに気がつくと、興味津々といった様子でこちらに近寄ってくる。——よし、次の
猫ちゃんはにゃーにゃーとカワイイ声を出しながら、私の持つ“にゃんちゅ〜る——猫まっしぐら”を夢中でペロペロしている。
私はその猫ちゃんの首を右手でむんずと掴んで持ち上げると、近くの車道の上まで移動する。
そこまできたら、私は左手に持っていた“にゃんちゅ〜る”を地面に落とす。——そして踏んづける。
ビチャ——とアスファルトの地面に広がる、猫ちゃんが大好きなペースト状のオヤツ。
上手く広がったことを確認すると、私は猫ちゃんをそばに下ろす。
すぐに猫ちゃんは、文字通りまっしぐらに、地面のペーストをペロペロし始めた。
よしよし。これで準備完了。
何度もやったから、もう慣れたもんだぜ。
私はすぐさま車道の脇に取って返すと、車が来るのを今か今かと待ち構える。
そして、待ち望んでいた車が来ると……。
先ほど同様、タイミングを見計らって道路に飛び出すのだった。
◆
早過ぎたら私に反応して車が止まるし、遅いと普通に猫ちゃんが轢き殺される。
だから、ギリギリのところを見極めて突っ込まないといけない。
まあ、さすがに目の前で猫ちゃんが轢かれるのを見るのはアレだし、死んだら新しい猫をまた探さないといけない。——それに、あんまり遅いと猫ちゃんどころか私まで轢かれる。
なので、私は基本的に早めに飛び出すようにした。
助けるやり方も色々試した。
やってみたら分かるけど、地面に伏せてる猫ちゃんを走りながらかっさらうってのは、これが意外と難しい。
あのアクロバットなやり方は、色々試した中で、最終的に私がたどり着いた究極形態だった。
なんやかんや、あれが一番やりやすかったんだよねー。
それに、アレだとマジでギリギリを攻められるから、スリル的な意味でも楽しいし。
何度もやらなきゃいけないから、その辺の楽しさも意外と重要な要素だ。途中で飽きないためにもね。
もちろん、うまいタイミングで助けられたからといって、毎回飼い主が出てきてお礼をしてくれるわけでもない。
でもそこはもう、根気よく何度もチャレンジするしかない。
最初の頃こそ何度か失敗して猫を死なせたけど、慣れてきてからは失敗しても死なせずに次にトライできるようになったし。
そうなってからは、だいぶ効率よく進められるようになった。
◆
とまあ、そんな感じで。
それからも猫助けに励んだ私は、なんとか目的のブツを目標の数だけ集めることに成功した。
ようやく集め終わったところで、時刻を確認したら、「22:56」となっていた。
おお、わりとギリギリだ。すぐに準備して連絡しないと。——間に合えよ……!
それからすぐに、私は
そして手早く準備を終わらせると、彼女に連絡する。
『ねぇ、今から私の
『今から? いいけど、ちょっと待ってて』
『なるだけ急いでね!』
『えー、まあ、善処する』
うわー、間に合うかなー?
あー、もっと早くに連絡しとけばよかったかなー……。
なんて思いつつも、待つこと数分——日付が変わる直前に、彼女は“私の部屋”にやってきた。
「うい〜」
「お、ギリギリ間に合った! ほら、早く座って!」
「んー、なんじゃなんじゃ?」
彼女を迎える机の上には——私が今日のために用意しておいたものがズラリと並んでいた。
立派なケーキに、ジュースに、お菓子に、色々なご馳走。そして、その中には……8ピースのミートピザもあった。
「おっ、これは……ケーキじゃん」
「そうだよ。——お誕生日、おめでとう!」
「うわ、マジか、え、サプライズ?」
「そうだよ〜。いや〜、ギリギリで間に合ってよかった〜」
「へぇ〜、まさかこんなの用意してくれるなんて……」
「どうどう? 嬉しい?」
「うん……嬉しい」
「えへへ、よかった」
喜んでくれる彼女の様子を見て、私も大満足だ。
うんうん、その顔が見れただけでも、苦労した甲斐があったってもんだ……。
「あれ、このピザって……」
「あ、気づいた?」
「いやそりゃ、気づくけど。——ん、でも待って、ピザなんてアイテムあったっけ?」
「そうそう、それを集めるのが一番苦労したんだよ〜」
「えー、なになに、どういうことー?」
「詳しく聞きたい?」
「うん、聞かせてよ」
「いいよ〜。——まあ、まずそもそも、ピザなんてアイテムは普通には売ってないわけですよ」
「だよねぇ、私も見たことないし」
「でもね、とある方法で入手できるってのを、私は知っていたのさ」
「とある方法?」
「まあ、知ったのは偶然なんだけどね。——いや、いつだったか、道路の上で轢かれそうな猫がいたから、たまたま助けたことがあったんだよ」
「ほうほう」
「そしたらさ、なんか
「へぇー?」
「したらソイツがさ、それは自分の飼い猫だ、猫を助けてくれてありがとう、お礼をしたいから来てくれ——みたいな」
「ふぅん。じゃあ、それでピザがもらえるの?」
「いや、私そん時、別のクエスト進めてたから、断ろうとしたんだよねー。どうせ大した報酬じゃないと思って」
「あらら」
「でもね、断ろうとしたら反応が変わって、デリバリーのピザをすぐに呼ぶから、それを受け取ってくれって感じになったんだよ」
「へぇ、断ると報酬が変わるんだ」
「そうそう、それでピザがもらえるの」
「なーる」
「まあ、このピザも、普通の食事系回復アイテムの一つだし、なんら特別なものではないけど……」
「でも、私のために集めてくれたんだ」
「まあね……」
「大変だったんじゃない? 轢かれそうな猫とか、そうそういないだろうし」
「まあ、大変は大変だったけど……」
「けど?」
「まあ、そこはほら、工夫しだいでどうとでもなるというか」
「……というと?」
「いや、まあ……轢かれそうな猫がなかなかいないなら、轢かれそうな猫を作ればいいというか」
「は?」
「いや、普通にその辺の猫を捕まえて、道路に配置したというか」
「おい」
「だって、その方が確実だし」
「それはそうかもだけど……いや、でもさ、猫も普通に移動するよね? たしか、動物とかも普通に車に反応してたと思うけど」
「うん。まあ、だから……これを使ったよ」
「それは……猫にあげるオヤツ?」
「そうそう。これを、道路にぶち撒けるの」
「え」
「したら猫はそこから動かなくなるから——」
「おいおいおい……?」
「あとは、車が来るのを待って、助け出す、と」
「鬼畜の所業か? つーかマッチポンプが過ぎる」
「まあ、そんな感じで……あとはそれをひたすら、飼い主が発生するまで繰り返すってわけ」
「マジかよ……」
「アンタを喜ばせようと思って、私も頑張ったんだよ。ピザ、好きだったでしょ?」
「いや、うん、まあ、好きだけど……」
「嬉しいかい?」
「あんたが私のためにわさわざ集めてくれたってのは、そりゃ嬉しいけど……でもそのやり方がね」
「それ気にするとこ?」
「そりゃまあ、気にするくない? もっと別の苦労なら素直に喜べたかもだけど、そんなわざわざ、猫をさ……」
「でも、喜んでくれないと、死んだ猫が報われないんだけど」
「は、猫死んだの?」
「そうだね。まあ、何匹か」
「……」
「いやー、だってこれ、やってみたら結構難しいんだよ? タイミングとかさー」
「……」
「それに、一回のクエストでもらえるピザってなぜか1ピースだけだから、八回もやるハメになったし」
「え、マジ、一回で1ピースなの?」
「そうだよー? だからホント、集めるの大変だったんだよ……。でも、アンタの喜ぶ顔が見たくて、私は頑張ったんだよ」
「そうか、私のためを思って……」
「うん……」
「それで……あんたは猫を、道路の上に配置して、車に轢かせようとしたんだ?」
「……、まあ、そう、ね」
「……」
「……」
「ハッピーバースデー! さあ、ピザ食べよ! ケーキもあるよ!」
「……はいはい、まあ、ありがとね」
さて、のっけからちょっと微妙な空気になってしまったけど……。
でも、それからの誕生日パーティーは、普通に盛り上がった。
まあ、私と彼女の間では、この程度はいつもの事というか……このくらいは実際、アクシデントの内にも入らない。
それどころか、むしろ話のネタとして、パーティーを盛り上げる役割を果たしたと言っていいくらいだろう。
実際、私が、助けた猫がその後すぐに道路に飛び出して車に轢かれた話をしたら——案の定、彼女は爆笑していた。
ほーらね、そうなんだよ、コイツもこーいうやつだから。
とまあ、そんな感じで……。
私たちの楽しい時間は、あっという間に過ぎていくのだった……。
。
。
。
◆
「——ふぅ……」
私は自宅の部屋で、VRゲーム用のヘッドセットを外した。
時刻を確認したら、すでに夜中の三時を回っていた。
ああ、もうこんな時間か。早く寝なくちゃ。
ああ、でも、その前に……。
私は、彼女との誕生日パーティーを大いに盛り上げてくれる一助となった、電子データの猫たち——その中でも、不幸にも車に轢かれて犠牲となってしまった面々——に対して、目を
(完)
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