水がいつか海となるように、咲いた花が枯れるように。それは、思い出となる。
@mohoumono
写真立ては、風に吹かれても
男は、気怠そうにパソコンを開きネットショッピングを始める。生活用品から嗜好品まで男は、全てをネットで揃えることにしていた。今日は、大した事のない生活用品の買い物だった。けれど、男は溜息をつき項垂れる。回線が切れたという訳ではなかった。ただ、買い物をする事自体が嫌だったのだ。男は立ち上がり、いつの間にか倒れていた写真立てを直す。そして、それをしばらく見てから、パソコンの前に座った。男は、カレーが好きだった。よく、台所で女性と共にカレーを作り楽しんでいた。男は、空になったカレーの缶を転がしながら、何度も中を見る。そして、暗そうな自分の顔を見て、溜息をつく。
「三年も保たなかった。5年は絶対保つって笑ってた癖に。笑い話も一人でしたら虚しいだけだよ。」男は、溢すように呟いた。パソコンの画面を見て、カレー缶の購入のボタンを押そうと何度もクリックしようと試みるが、男は押す事が出来ずにいた。けれど、インターホンが鳴り、荷物を受け取り中身を見た後、男はカレー缶を購入していた。男は、そうした後全身が力が抜けるように、床に倒れ込んだ。天井を見上げ、「蛍光灯もLEDで良かったよなぁ。あれも、これも、残ってるのは、箒くらいか?あれももう替え時だよな。」そしたら、男はその後の言葉を歯を噛み締めて、押し殺した。それ以上、形にしてしまうと、戻って来れそうになかったから。そして、カレー缶の写真を撮り現像し壁に飾り、それを捨てた。そのような写真は、カレー缶を含め32枚あった。男は、それが増えていくたび苦虫を噛み潰したような顔をする。突如、開けていた窓から風が入り込み、カーテンがなびいた。男は、窓を閉めるため立ち上がる。そして、不安になり写真立てを見た。けれど、写真立ては風に吹かれても倒れずに、男の方を見ていた。男は、優しく微笑み写真立てに背中を向け、陽が昇る方を見た。
水がいつか海となるように、咲いた花が枯れるように。それは、思い出となる。 @mohoumono
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