第32話 グラリス・バルコットの絶品肉料理!

 余った大量の肉を受け取り、綺麗にしたばかりのキッチンに俺は急いだ。


 足や腕はパンパンだったが、自分にムチを打ち料理を始めた。


「グラリスお前肉も料理出来るのか?」


「はい。昔色々あってたくさん料理の勉強したり魔法を習得したりしてましたから」


 そう。エイミーのおかげでここまで来れたのだ。

 エイミー……ありがとうな……


 そうだ。家に帰ったらエイミーにちゃんと料理を教えてあげよう。


 エイミーが美味しいご飯を作れるようになったらお母さんもきっと楽になるだろう。


 お母さんも趣味とは言えまだ身体は良くないから毎日大変そうだったしな。




 ……何考えてんだ俺。


 まだ修行が始まってから2日目。家が恋しすぎる。


 師匠は嫌いじゃない。むしろ尊敬してるしどちらかと言えば好きだ。


 でもやっぱり……


「そうじゃったのか!? ワイは肉の調理法がわからんくて毎回そこら辺の動物にあげておったわ!」


 目をきらきらさせた師匠がキッチンに飛んできた。


「……はははは!! じゃぁ今度教えてあげますね師匠」


「な、何を笑っておるんじゃーー!!」


「笑ってませんよ!!」



 良かったこの人で。

 俺が色々考えている時に邪魔してくる師匠は俺のもうひとつの居場所になった。


 あれ、毎回そこら辺の動物にあげてたって言った?

 このクエスト初めてじゃない?

 なのに余分に……やめておこう。


「てか、この量一気に料理するのか?」


「はい。保存系の魔法も使えるので作り置きし放題です」


 俺は肉を色んな方法で料理しながら師匠に答えた。


「え、これはなんじゃ? んでもって……これは?」


「あーもう集中出来ないんで座って待っててください!」


「す、すまんなのじゃ……」



 しょんぼりとした師匠はとぼとぼとリビングへと戻って言った。


 ちょっと強く言いすぎたかな、とも思ったけれど出来てからのお楽しみだ。


──────


「うわ〜〜美味そうなのじゃ〜〜」


 俺は小さな丸机の上にたくさんの料理を並べた。


 ステーキにハンバーグ。角煮に唐揚げ。その他もろもろ前世で暮らしてた世界にあった料理をたくさん作った。


 グラリス・バルコット特製! 絶品肉料理だ!


「早く食べたいなグラリス!」


「今お米が炊けたので先に食べてていいですよ師匠」


 こっちの世界にもお米はあった。これはとても嬉しいことだ。

 味も悪くない。前世よりも甘いお米だ。


 お米を茶碗に2つ盛り、両手に持ち師匠のいるとこに持って行く。


「どうですか……ってあれ、まだ食べてないんですか?」


 ヨダレを我慢できてない師匠は両手に俺の分までフォークを持ち、食べずに待っていた。


 師匠の前に茶碗を置くと「遅いのじゃ!」と怒り始めた。


「食べていいって言ったじゃないですか!」


「ダメじゃ! 一緒に食べるのじゃよ! 作ってくれたのにワイだけ1人で食べるなんで出来ん! てか早く食べるぞ! いただきますなのじゃ!!」


「いただきます」と俺も遅れて言った。


 師匠はこういうところがある。まだほんとに2日しか経ってないのだがなんて言うか、うーん、言葉では表せないような綺麗な性格だ。


 まぁ家事は出来ないんだけどな。


 でも、ちょっと嬉しかった。自分のことをちゃんと認めて貰えてるみたいで。


「ウンマーーーーーーイ!!!」


 師匠はバクバクと両手に持ったフォークで俺の手作り肉料理を頬張っていた。


 俺の分のフォークを取られていたので新しいものを持ってきて俺も食べ始めた。


 我ながら上手いなこれ。全部美味い。


 ん? こんなに色んな料理あったら胃もたれしちゃうって?


 チッチッチッ。分かってないなぁ。胃もたれ対策バッチリの魔法もかけてるんだぜ。


 ある程度机の上のご飯が減ってきた頃、師匠が久しぶりに話しかけてきた。


「そういえばあの魔剣誰から貰ったんじゃ?」


「あー、亡くなったお父さんの形見なんです。初めは魔力も全くなかったんですけど今ではすごい量の魔力なんですよ」


 俺は手を伸ばし料理前に手入れをした魔剣を自信満々に見せた。


「それってどうやって手に入れたんじゃ? 父ちゃんはダンジョンで亡くなったんじゃろ?」


「はい。でも警察の人たちがこの魔剣だけ見つかったって言って届けてくれたんです」


「ほー、それは良かったのう。父ちゃんはソロだったのか?」


「いえ。パーティを組んでましたよ」


「あー、そうじゃったな。ルーちゃんに確か聞いた気がしたわ。だとしたらその魔剣しか見つからんかったってのはおかしいと思うけど考えすぎじゃよな」


 警察の人たちが家に来た時確かにこの魔剣だけ見つかったと言っていた。


 パーティ全滅ならほかの人たちの武器が落ちていてもおかしくない。むしろそっちの方が普通なのではないか。


 でも、もしそうだとしたらどうして見つからなかったのだろう。


 壊れて消えてしまったのかそれともダンジョンのモンスターが持って逃げたのか。


 考えすぎかもしれないけど引っかかるところが沢山あった。


 お父さんのパーティは一応最強と謳われていた。

 それなのに簡単にダンジョンで負けるのか?


 そして魔王になったあのディボルという男。

 お父さんの死に偶然重なってなったの言うのか? あの男も最強と謳われていた1人だ。


 なにか関係するのかもしれない。

 今は全く分からないけど、二人の間に面識は必ずあったはずだ。


 俺はまだ謎の死を信じていない。きっと裏があるはず。


 それを見つけるために今は師匠の元で強くなるしかない。

 このお父さんの魔剣でもっともっと強くなるんだ。今の俺はみんなを守る力があるんだ。


 考えることに疲れた俺は残りのお米をかきこみ、洗い物をキッチンへと運んで行った。


「はぁ〜〜美味かったのう〜〜」


 バタンとベットに倒れ込む師匠を横目に俺は今日の家事を済ませた。

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