第3章 少年期 修行編
第31話 ランド・ルーシャの夢
ここはケントルムから少し離れたところにある小さな小屋。
「えっとじゃな、ここに洗濯物を置いとくからな。ワイのも気にせず洗ってくれ。んでもって掃除は週に一回くらいで良いからな。あ、あとそれと料理って……」
「あーーー! もう師匠大丈夫ですから! 全部やりますから!!」
「お、それはありがたい限りじゃのう」
泊まり込み一日目の夜。
俺は事の重大さにやっと気が付いてしまったようだ。
本当にこの人家事全般出来ないんだな……
小さい子屋のような家の中は外見とは比べ物にならないほど……汚かった。
服は散らかりお皿は使ったまま置かれていた。埃も舞っている。
「どうしてこんなに汚いんですか!!」
綺麗にしていればおそらく2人で住むにはちょうどいいくらいの大きさの家なのだが、ものが散乱して足の踏み場もない状態だった。
「し、仕方ないじゃろ! ワイも忙しいんじゃ!」
「忙しいって何してるんですか普段!」
「ダンジョン潜ってお金稼いで貯金してるんじゃよ!! 空き時間に魔術と剣術の練習もしちょる!!」
そう言った師匠の目はいつにも増して本気だった。
「どうして師匠お金貯めてるんですか?」
「夢じゃ」
「夢?」
「そうじゃ」
師匠は少し大きめのベッドの上に大の字になって寝っ転がった。
「夢って……なんですか?」
「ルーちゃんじゃ!」
「アコイスさんが……夢?」
「んー、まぁ夢っていうか目標じゃな。ワイは魔剣学校の先生になるのが夢なんじゃ」
師匠は手を寝っ転がりながら前に伸ばした。
そのまま師匠は話し続ける。
「ルーちゃんはな、かっこいいんじゃ。グラリスが思ってる以上にな」
伸ばした手をグッと握りしめまだ続く。
「それを見てたらワイも……目指したくなったんじゃよ」
俺はその話を聞き少し師匠を見直した。
どんなに家事が出来なくても、夢を持つだけでこんなにおっきく見える。
バカにしてる訳じゃない。本気で俺にはおっきく見えた。
アコイスさんとの過去は知らない。でも、いつか聞ける日が来たら。その時は俺の話もしよう。
「師匠……見直しました!!」
「見直したってなんじゃ!? 今までどう思ってたんじゃよーー!!」
師匠は飛び上がって俺の方にダイブしてきた。
俺はそれを避けながらこう言った。
「昔の僕に似てるなって思いました。でも今は今の僕に似てますよ!」
脱ぎっぱなしの服の上にどてっと落ちた師匠は首を傾げながらこっちを向いた。
何が起きても何も出来なかった俺は今、こうして行動を起こせてる。
昔の俺じゃない。俺は師匠と一緒に強くなるんだ。
「まぁよく分からんが良い。それでほんとに稼ぎは折半で良いんじゃな?」
「え、逆に折半でいいんですか?」
「当たり前じゃ! 何事にも差別はいかん!」
師匠は腕を組みふん! っと鼻息を鳴らした。
「じゃぁ折半でよろしくお願いします!」
「明日からクエストバンバンこなしていくから今日はもう寝るぞ」
「わかりました」
そう言って修行一日目は終わりを迎えた。
「あ、洗濯物と洗い物だけはしといて欲しいかもじゃ」
……はぁ。
──────
俺と師匠はケントルムの中心街にある掲示板の前に来ていた。
「これって全部クエストですか?」
「そうじゃよ。ここには色んな人が色んな依頼を載せて、達成した事に報酬が貰えるんじゃ」
見た感じ簡単そうなものもあれば、命に関わりそうなものまで多種多様であった。
「今日は初めてじゃし……これにするか!」
師匠が指さした先にある紙を見てみると、
「オーク狩り……? 100匹まで……?」
「そうじゃ! 確か近くの森林にスポーンするらしいから早速行くぞ!」
そのまま俺と師匠はクエスト申請に行き、とりあえず師匠について行った。
──────
「うわぁ……たくさんいる……」
ここはさっき師匠が言っていた近くの森林。
見渡す限り木とオークしかいない。
「グラリス気を付けるんじゃぞ。舐めてると死ぬぞ」
師匠はケラケラと笑いながらそう言った。
でも、今のところオークがこちらに攻撃してくる気配は無い。1匹ずつこなしていけば余裕なのでは?
「師匠。僕はどうすればいいとかありますか?」
「とりあえずオークを狩るだけじゃな。オークを倒すと死体が消滅した時肉が落ちるんじゃ。そいつを100個まで硬貨に換金できるってわけじゃ」
この世界では死体は残らない。それを知った時俺はびっくりしてしまった。
流れ出す血も跡形も消えてしまう。
これじゃ殺されても証拠なんか残らないじゃないか……
なんてことも思ったが今そんなこと考えても仕方がない。
「とりあえずオーク狩りすればいいんですね!」
俺は近くを歩いていたオークを魔剣で切りつけた。
ブビィ!!
ブジャッと赤黒い血が流れだしオークは一撃で倒れてしまった。
しばらくするとサラサラと死体と血痕が宙に舞って行くように消えていき、そこには肉の塊が落ちていた。
「師匠、これでいいんですか?」
「そうじゃ。それを集めるだけの仕事じゃよ。肉はワイの異空間魔法に閉まっとくから適宜教えておくれ」
なんだ簡単じゃないか……結構これ換金率良かったよな?
穴場だ穴場……ぐふっ!!!
な、なんだ!?
俺のみぞおちになにかが突進してきた。
その衝撃で俺は吹き飛ばされてしまった。
ブヒブヒブヒブヒ!!
「わ、わぁ!! なんだこれ!!??」
「オークの習性じゃな! 1匹やると30匹は怒ってこっちにくるぞ!」
「さ、先にそれを言ってくださいよ師匠!!」
雪崩のようにこっちに向かってくるオーク達を俺と師匠は1時間ほど狩り続けた。
「……そろそろですかね……」
「そうじゃな……」
重たい足を動かし師匠とケントルムへと向かった。
──────
「ここは……なんですか?」
「換金所じゃよ。換金所って言っても他にも色んなことが出来るけどな。さっきのブースでも色んなことができるんじゃよ」
これもケントルムの中心街にある大きな建物。名前はセントラルと言うらしい。
さっきの掲示板の隣にあり、クエストもこの建物のほかのブースで受付ができる。
まぁ聞いた感じ建物の名称は無いがみんなこう呼んでるから冒険者の中でこのように広まったのだろう。
恐らくクエストやダンジョンにまつわること全般扱っているらしい。
15歳になれば自分のランクもここで調べることが出来そうだ。
依頼をすれば何歳でも調べられることができるらしいが、かなりのお金が必要になってくるらしいからやめだ。
「いらっしゃいませ。どちらのクエストでしょうか」
「さっき受付したオーク狩りのなんじゃが……」
「それですと残りオーク肉40個となります」
「……え? じゃぁ……100個取ってきた意味って……」
「申し訳ございません。上限がありまして」
そうか。俺ら以外にもオーク狩りをしてた人がいたってことか……
あんなに頑張ったのに!! すんごい疲れたのに!!
てか師匠そんなことも知らなかったの!?
……あ。でもいいこと思いついたぞ。
「そ、そうじゃったか……じゃぁとりあえず40個換金しておくれ……」
「40個ですと、銀貨8枚となります」
「ありがとうなのじゃ……」
露骨に落ち込む師匠を見て俺は急いで話しかけた。
「師匠! そんな落ち込まないで大丈夫ですよ!! 僕に任せてください!! 後悔はさせませんから!!」
「本当か?」
「はい!」
そう言って俺たちは泥だらけになりながら家へと向かっていった。
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