第21話 エイミーちゃん大号泣大作戦
ケントルムに行った日の夜。
「はぁ……ちょっと疲れたわグラリス……」
「だめだよリューネ。ここからが本題なんだから」
俺とリューネは何かを終えて今、部屋で何かをしようとしている。それは……
「今から手紙を書くんだよ!」
「手紙?」
「そう。名ずけて! エイミーちゃん大号泣大作戦だ!」
手紙。それはいちばん手っ取り早く感謝を伝えられる方法。
かと言って気持ちがこもってないわけじゃない。
むしろめっちゃこもる。
「……私、手紙書いたことないのよね……」
「大丈夫だよ。自分の思ってるエイミーへの気持ちを字にして表せばいいだけだから」
俺はこっちの世界に来てコソコソしていることがあった。
それは字の勉強だ。
話せても読めなかったり書けなかったりしたら意味が無い。
本を読み聞かせてもらっていた頃から俺は毎日コツコツ、独学で勉強していた。
最近ではリューネに教えることができるようにもなった。
リューネは物覚えが早く、俺より早く全ての字を読み書きできるようになってしまった。
え? 俺の教え方が上手いからって? そんな褒めないでくれよ。
「グラリス。ちょっと聞いてんの?」
「え、あ、な、なんだ?」
「……そんなに長くかける自信ないけど……それでもエイミーさんは喜んでくれるの……?」
「大丈夫。こういうのは気持ちが大事なんだ。リューネは……この前喜んでくれなかったのか?」
「すごい喜んだわよ……」
こうして疲れながらも俺たちは、エイミーへ送る手紙を便箋に書き連ねて行った。
──────
──翌日──
「「「「エイミー! 二十歳のお誕生日
おめでとう!!」」」」
エイミーのお誕生日パーティが始まった。
このことは一切エイミーには伝えておらず、夜ご飯の時、エイミーはポカンとした表情で頭にハテナを浮かべていた。
「あ、ありがとう……ございます……」
エイミーは並べられた豪華な食事を一通り眺める。
まだ、状況を掴めていない様子だった。
沈黙が続く中、エイミーがその沈黙を破った。
「……み、みなざん……あ、ありがどう……ございまず……」
エイミーは必死に涙をこらえて二度目のお礼を俺たちに向かって言った。
「エイミー泣くな! 今日はお前が主役だ! さぁ食べるぞ!」
お父さんがそう喝を入れ、みんなで各々のグラスを持った。
「じゃぁエイミー。乾杯の一言お願いね」
エイミーはこぼれ落ちそうな涙を拭い話し始めた。
「……はい。皆さん。このような機会を作ってください本当にありがとうございます! まだまだ未熟者ですが、日々精進しますので、これからもエイミーをよろしくお願いします!! 乾杯っ!!」
その合図に合わせて全員が「乾杯っ!!」と、グラスをカチンっと、ぶつかりあわせた。
エイミーの誕生日パーティと言っても正直俺も楽しみだったのだ。
なんでかって? それは……お母さんの手料理フルコースだからだ!!!
こうして家族五人で和気あいあいと、夜ご飯を楽しんだ。
一通りご飯を食べ終わり、上記の片付けが終わった頃、俺はエイミーを部屋に呼び出した。
「ごめんエイミー。夜遅くに」
「いえ、大丈夫ですよ。本当に今日はありがとうございましたお二人とも」
そう言いながら頭をエイミーは下げた。
「な、なんでエイミーさんが頭下げるのよ! 今日の主役はエイミーさんなのよ!」
そう言ってリューネがエイミーの元に近付く。
だが、一向にエイミーの頭が上がってこない。
どうしたんだ? ぎっくり腰か? いやいや二十歳でぎっくり腰はないでしょ〜……
「ごめんなざい……ちょっどざいぎん……るいぜんゆるぐで……」
「エ、エイミー! な、泣くのはまだ早いって!」
エイミーはまだ何もしていないのに感極まって泣いてしまっていた。
余程今回のパーティが嬉しかったのだろう。なら俺たちも企画したかいがあったと思える。
「ちょ、グラリス……あなた変なこと言わないの……」
リューネが小声で俺に向かってそう言った。
……ん? 俺なんか変なこと言ったか……?
「ま、まだはやいっで……どういうごどでずが?」
エイミーは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
……あ、しまった。
俺はまだサプライズがあることをエイミーに言っていなかった。てか気付かれていなかったのだ。
「あ、えっと、それは……とりあえず! 涙拭いて!」
それを聞いたエイミーは「わがりまじだ」と言って直ぐに泣き止んだ。
よしよし偉い子だ。
「じゃぁリューネ。昨日作ったやつ渡してあげて」
恥ずかしそうに斜め下を見ながらモジモジするリューネ。
多分こういうのは初めてだったのだろう。緊張しているのか。可愛いなもう。
「え、えっとエイミーさん。二十歳のお誕生日おめでとうございます」
そう言ってリューネはひとつの少し分厚い手紙入れをエイミーに渡した。
「こ、これは……?」
「僕とリューネからのお手紙です。あとはちょっとしたプレゼントも入ってます」
「……今……呼んでも……いいでずが?」
もう泣きそうになってる……なんか俺まで泣きそうになってきた……
「うん。いいよ」
エイミーはその封筒を開け、二枚の手紙を読んだ。
内容はちょっと恥ずかしいからカットだ。想像におまかせする。
「うわぁぁぁぁぁぁん! グラリス様ぁ! リューネ様ぁ! ありがとうございますぅぅぅ!!」
エイミーは大号泣しながら俺とリューネに抱きついた。
エイミーがこんなになって抱きついてくることは初めてだった。
エイミーの背中を擦りながら、俺はもう一言添える。
「中にもうひとつ入ってますよ。喜んでくれるかは分かりませんが」
「えっと……これですか?」
泣きすぎたのかすぐに涙が止まったエイミーは封筒の中からひとつ何かを取りだした。
「これって……ヘアゴム……ですか?」
そう。これが俺とリューネが作ったエイミーへの最高のプレゼントだ!
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