番外編 新しい家族リューネ・ストラス①

 私の名前はリューネ・ストラス。

 訳あってバルコット家の家族となった。その訳も正直あんまり覚えていない。うっすらとした記憶しか。


 家の第一印象は、愛想の良いお父さん、優しいお母さん、気の利くメイドと言った感じで割と好印象だった。

 ──彼が現れるまで。


「エイミー説明ありがとう。俺の名前はグラリス。今年で五歳だ。魔力属性は……あんまり使いこなせてなくて言いたくはないが【全属性】だ。とりあえずこれからよろしくね」


 彼が私に向かって手を伸ばし握手を求めてきた。


 こんな時間まで寝てて【全属性】? こんなポンコツ見たいな男が? 信じられない。私なんか……


「こんな時間に起きるなんてその【全属性】が勿体ないわね」


 気が付いたら私はこんなことを言ってしまっていた。

 でも、本当に思っている。


 多分街の人に私と彼が二人で「私たちどっちかが【全属性】なんです! どっちだと思いますか?」見たいな街頭インタビューをしたらぜっっっっったいに! 私が全ての票を勝ち取るはずだわ。


 なのに私は【風属性】。本当に彼と取り替えて欲しいくらいだわ。


「ま、まぁリューネちゃん。うちは部屋が少なくてグラリスの部屋とエイミーの部屋どっちかに2人で寝てもらおうと思うんだけど……」


「エイミーさんでお願いします」


 私は即答した。誰がなんと言おうとこれは即答だ。


 それからなんやかんやあって、私は一人でエイミーさんの部屋で寝ることになった。


 あのポンコツの彼はとても悲しそうな顔をして居たが、正直何も思うことは無かった。


 ──────


 ──これは……夢?


 私の目の前には1人の女性がいた。その女性の表情は暗かった。


 なぜだろう。とても不安になった。悲しくなった。そして、怖くなった。


 どんどん離れていくその女性に手を伸ばした。でも届かない。さらに離れていく。


 その女性は微笑みながら泣いていた。そして、何か話していた。


 だめ……待って……行っちゃだめ!


 お母さ───


「……! 良かった……夢……」


 最近になって同じ夢を何回も見るようになった。

 夢を見ている時は夢だとは気付かない。でも、目を覚ますとまたこれか、となる。


 でも、夢に出てくる女性が誰なのかは未だに分からない。


 私の中に眠る古い記憶──


 ……まぁ、でも、こんな出来事あったことないし、女性も誰か覚えていない。


 私は両親が亡くなったことを覚えていない。ショックで記憶を失ってしまったと伝えられ、両親の死もその時知った。


 ……あんまり思い出そうとしても良くないかな。


 今の時刻は6時半。あーあ、今日もあまり眠れなかったわ。


 ──────


 私は今、グラディウスさんに剣術を習っている。

 私は【風属性】。普通の魔法使いになんてなれやしない。


 だから私は魔剣士を目指すことにした。


「よ〜し。まず剣術からだな。グラリス、リューネ2人で実力を確かめ合ってみろ」


「……と言いますと?」


「2人で決闘だ!!」


「決闘……? ですか?」


 決闘……いいじゃない。このポンコツに格の違いを見せつけてやるわ。

 けちょんけちょんにしてやるわ。


「いいですよ。いい機会です。分からせてあげます」


 こうして決闘は始まった。

 始まって直ぐに、彼はなにか仕掛けようとしていた。


 木刀での試合で魔力を発生させようとしている?

 彼は一体何を……!


「おりゃぁぁぁあ!!」


 私が考えていると、彼は【風属性】の魔法を駆使し、ものすごいスピードで私に近付いてきた。


 私は咄嗟に木刀で彼の攻撃を受け流した。


 今のは少し危なかったわ。でもそんなことができるなんで……くそっ! 知らなかったじゃない! 悔しいわ!!


 彼は「す、すまん」と、何故か謝ってきたがもうそんなのどうでもいい!


「……あなた思ったよりもやるみたいね」


 私よりのは初めて見た。だから、その分悔しかった。


 彼はさっき【風属性】の魔法を足元に発生させていた。

 ……やってみる価値しかないわ。


 私は彼の見よう見まねで足元に魔力を発生させた。

 すると、彼は何か話していたが、ものすごいスピードで一発、仕返しをすることに成功した。


「……なるほど。こうやってあなたは使ったのね」


 私の攻撃をもろに受け、みぞおちを抑えながら彼は立ち上がった。


「ちょ、ちょっといきなり過ぎませんか?」


「なによ、あなただってそうだったでしょ。つくづくあなたには勿体ない魔力属性だわ」


 その力があれば私だって……今そんなこと考えても仕方がない!


 今私……少し……楽しんでる!!


 私は興奮していた。そして、また、足元に魔力を発生させる。さっきよりもたくさんの魔力を。


 私は彼の周りを猛スピードでまわり続けた。


 これで……終わりよ!!


 猛スピードで後ろから彼に近付き、木刀を振り下ろした……が、彼は私が近付くと、それと同時に振り返り、私の木刀に彼の木刀が振り下ろされた。


 その時、ガコンッ!! っと大きな音が鳴り響いた。


「この決闘、武器破損により、グラリスの負け。勝者リューネ!!」


 ……危ないところだった。


 完全に私の攻撃は読まれていた。あのスピードを読まれるなんて……彼、本当は……


 私は心の中でガッツポーズをしてしまっていた。

 多分笑っていたと思う。何年ぶりに笑っただろうか。そんなの数えてないから分からない。


「あなた、本当に少しだけ意外とやるじゃない。褒めてあげるわ。ふふ」


 ──グラリス・バルコット

 彼はとんでもない実力を持っているわ。


 ──────


 次はエイミーさんに魔法を教えて貰っていた。


 私はそこで現実を思い出す。そう、私の魔力属性は

【風属性】なのだ。


「分かってるわ……さっき見たもの。でも、そーゆー使い方があるなんて気付けなかったのが悔しいの。こんなポンコツ見たいなやつに負けた気分だったわ」


 悔しくて、でもどうな風に言えばいいのか分からなくて。

 私はこんなことを言ってしまった。


「リューネ様!! ポンコツは言い過ぎですよ!! リューネ様もとっても優秀でございますが!! 魔法ならうちのグラリス様も負けてません!! そこまで言うなら勝負です!!」


 分かってるわよ!! グラリスが十分凄いのなんて!!


「リューネ。俺と魔法での勝負、受けてくれるのか?」


「……いいわ。やってあげる」


 こんなのどっちが勝つかやる前から決まってる。

 絶対にグラリスだ。


 あの底知れない魔力。私が勝てるわけない。


 案の定、私の魔法は負けてしまった。完敗だった。


「リューネ! これで一体一だな」


「……そうね……で、でも……まだ私はあなたを認めたわけじゃないから!」


 いーや? そんなことありませんよリューネさん?

 私はまたこんな嘘をついてしまった。


 私の前に一つとても大きな目標が現れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る