第10話 グラリスVSリューネ

 リューネが我が家に迎え入れられてから数日が経った。


 俺は今まで一度もグラリスと言う名前を呼ばれたことがない。悲しい限りだ。


 今日はお父さんが久しぶりに休みを取ったらしく、俺とリューネで合同練習的なのをやるらしい。


 一応リューネも魔剣士を目指しているらしく、お父さんに教えを頼んでいるのを盗み聞きしていた。


「よ〜し。まず剣術からだな。グラリス、リューネ2人で実力を確かめ合ってみろ!」


「……と、言いますと?」


「2人で……決闘だ!!」


 ……げ、嫌だ。


 何されるか分からないし、多分剣術はリューネの方が圧倒的に上だ。ワンチャン2度目の死、ここで来るか?


「決闘……? ですか?」


 いいぞ、その調子だ。そうだ! 今日はやっぱり個人練習にしよう!


「いいですよ。いい機会です。分からせてあげます」


 ……怖いよ……リューネ……


 そんなこんなで俺とリューネの決闘が始まった。

 ルールは簡単。相手への直接的な魔法の使用は禁止。


 自分に使う分にはOKだ。あとは木刀を振るのみ!!


 よし……先手必勝だ!!!


「おりゃぁぁぁあ!!」


 俺だって今までどれだけ辛い練習を乗り越えたと思ってるんだ! 行ける! 俺なら行ける!!


 俺は【風属性】の性質を生かし、足元に強力な風を起こし一気にリューネへと近付いた……が、


 あ、やばい!! 早すぎて止まんねぇ!! こんなスピードで殴っちまったらいくら木刀とは言え頭ふっとんじまう!!


 と思っていたのだが、


 カコンッ!!


「うわぁ! いててて」


 何が起きたんだ? 俺は今まなんで転けたんだ?


 俺はリューネの顔を見ると少し驚いたような顔をしていた。


 恐らくだがリューネの瞬発力が異常すぎて木刀を受け流されてしまった。


 でもなんだその表情!! 雑魚すぎてびっくりしたってか!?


 俺が立ち上がるまで何もしないリューネに俺は「す、すまん」と、一応行き過ぎた行為には謝罪をした。すると、


「……あなた思ったよりもやるみたいね」


 え? 今なんて? 認められた!? リューネに!? 名前はまだ呼ばれていないけども!?


「え、いや、ま、まぁ、それほどでも……い、いやぁグハッ!!!!!」


 くる……し……い……

 俺は一瞬何が起きたかわからなかった。みぞおちにものすごいスピードで何かが襲ってきた。

 ──リューネだ。


「……なるほど。こうやってあなたは使ったのね」


 そうか……リューネのやつ……俺の技を真似しやがったな!


 でもとんでもないスピードだった。俺よりも、いや、俺の何倍もの速さでこっちに向かっていた。

 みぞおちを抑えながら立ち上がる。


「ちょ、ちょっといきなり過ぎませんか?」


「なによ、あなただってそうだったでしょ。つくづくあなたには勿体ない魔力属性だわ」


 そう言ってリューネはもう一度さっきの速さでこちらに向かってくる。


 ……ここで負けたらダメだ……強くなんて……なれやしねぇ!!


 見ろ……探せ……感じろ……

「そこだ!!」

 俺は大きく木刀を振り下ろした。


 ガコンッ!! っと大きな音が鳴り響いた。

 お父さんが「おおぉ」と言っているのが聞こえる。

 俺はリューネの木刀を捉えていた……が、しかし、


「この決闘、武器破損により、グラリスの負け。勝者リューネ!!」


 俺の握っていた木刀はリューネのあのスピードから繰り出される振りに耐えることが出来ず、真っ二つに折れてしまった。


 ……ちくしょーーーーーー!!! 悔しいです!!!


 確実に的はとらえていたはずなのに……実力の差が出てしまったみたいだな……


 俺は落ち込みドサッと地面に座り込んだ。

 数メートル先で立っているリューネを見ると、その表情はまさに、笑顔、であった。


 リューネの笑顔は初めて見た。

 なんだよ……笑ってたら普通にやっぱり可愛いじゃんかよ!!


「あなた、本当に少しだけ意外とやるじゃない。褒めてあげるわ。ふふ」


 嬉しそうに俺を褒めてくれた……本当に少しだけ意外とやる男、と認められたが俺はなんとも言えない気持ちになった。


 それでも俺は名前を呼ばれ無かった。


──────


 お昼を挟み、次は魔法の練習へと変わった。

 講師はもちろんエイミーちゃん!!


「えーと……リューネ様は魔力属性【風属性】でお間違いないですよね?」


「……ええ……そうだけど」


 いかにも嫌そうな態度をとっているじゃないかこの小娘よ。

 うちのエイミー困らしたらただじゃおかぬぞ。


「ま、まぁ、そんな落ち込まないでください! あ、だってほら! グラリス様は【風属性】の上級魔法を使えるのですが、かなり汎用性が高く沢山使われておりますよ!」


 おーい! そこで俺に振るなーー!!!


 俺がなんて答えるか迷っていると俺より先に話し始めたのはリューネだった。


「分かってるわ……さっき見たもの。でも、そーゆー使い方があるなんて気付けなかったのが悔しいの。こんなポンコツ見たいなやつに負けた気分だったわ」


 ……おいおい! それは流石にないぜ!!??

 と反論しようとした時また俺より先に話した人がいた。それはエイミーだった。


「リューネ様!! ポンコツは言い過ぎですよ!! リューネ様もとっても優秀でございますが!! 魔法ならうちのグラリス様も負けてません!! そこまで言うなら勝負です!!」


 またその展開……でもエイミー……ありがとう……


「リューネ。俺と魔法での勝負、受けてくれるのか?」


「……いいわ。やってあげる」


 こうしてまたもや勝負が始まった。

 まぁ、勝負と言っても魔法の力比べみたいなものだ。


 両者向かい合い、距離をとる。そしたら同じ属性の魔法を発動して押し負けた方の負けだ。


「さて……用意はよろしいですか御二方!!」


「ああ」「いいわ」


「それでは……始めです!!」


 エイミーの合図と一緒に俺とリューネは右手を相手に伸ばした。


 全力で全力で全力で全力で!! 絶対に手を抜くな!!


 俺は全身全霊をかけて右手に【風属性】の魔法を溜め込んだ。そして俺は前方にいるリューネ目掛けて魔法をぶっ飛ばした。


 少しやりすぎたかとも思ったがさっきの試合でそんなことも無いってのを実感した。


 俺に合わせてリューネも魔法を発動する。

 家の庭は巨大な風ふたつに襲われ、草木はガサガサと揺れまくっていた。


 そしてふたつの風が衝突する――


 ブウォンッ!


 決着は一瞬で決まった。

「……し、勝者、グラリス様!!」


 一瞬にして俺の魔法がリューネのはなった魔法を吸収して用を終えたかのよに消えていったのだ。

 ……ふんっ! どうだ!!


「リューネ! これで一体一だな」


「……そうね……で、でも……まだ私はあなたを認めたわけじゃないから!」


 頬をふくらませ、ぷいっ! っと顔をそらし、そう言ったリューネを見てエイミーは、ふふふと笑っていた。


 なんて負けず嫌いなんだ。でも、そんなところが彼女のいい所なのかもしれないし、そもそも、そんな性格じゃないのかもしれない。


 それが分かるのはまだ、先のお話になるだろう。

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