第29話 アーモンド

落ち着くんだ。240日前はまだ有機物があったかもしれない。なら「今から」240日後には必ず奴らは動かなくなる。その日が本当の「勝利の日」だ。前向きに考えて精神の安定を図る。


しかし、何かがおかしい。この机上の計算が実態に則している気がしない。何かを見落としている。そうでなくともSFの怪物のような連中なので、摂取した元素の質量をエネルギーに変換するような超常システムを持ってるなら遠大な兵糧攻めはこちらの負けだ。それにしては摂食行動が苛烈を極める。高効率のエネルギー獲得手段があるなら、なぜ有機物を食う必要がある。


思考の歯車を無理矢理動かすように、缶詰から塩煎りアーモンドを取り出す。夜が明け、感染者達がまた虚無の行進を始める。律儀なことだ。奴らの行進に概日リズムはなく、日光を追うように活動を始める。


何のためだ。


破滅してからかれこれ1年以上、疑問に思ったことがなかった。動物というのはそういうものだと思考の埒外にあった。動物は、獲物を探すか捕食者の接近を感知できるように昼間に動く。獲物もいない、天敵もいない奴らにとって朝とは何か。


アーモンドは、人間に食べられるために栄養を溜め込むのではない。種子の栄養は、胚珠が光合成を始めるまでの繋ぎの栄養だ。植物は、光合成を始めるまでは従属栄養生物なのだ。


二酸化炭素濃度は今どれほど下がっているのだろう。雪は止むのだろうか。

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