第27話 食糧供給
釣り糸も釣竿も有機物の塊なので、どこのハードウェアショップでも消滅していたから、地下室で釣具セットを見た時は懐かしさとその有用性に興奮が抑えられなかった。
砕いた乾パンと、オイルサーディンの残り油を練り合わせた餌で針を包み、護岸から静かに糸を垂らす。釣りを最後にしたのは子供の頃で、確か釣り堀の養殖マスだった。こんな拙い罠で本当に野生の魚が引っかかるのか。残されたテクニックを記したと思われる書籍に図解はなく、おまけに非常用漢字だらけで日本人でも読めるかどうか怪しい代物だ。
1時間ほど経っても反応がなく、どんな工夫を試せばいいのかと思案したその時、糸が張り詰めた。引き上げると拳大の平たい魚だった。暴れるので金槌で頭を叩き沈黙させる。正しいやり方なのかはわからない。「毒のある魚」の図鑑には似たものがない。腹を切り裂き内臓を削ぎ、流れ出る体液ごと缶に貯める。ミミズや昆虫がいなくなった地上で釣り餌を探すのは困難なので再利用するのだ。
串に刺してガス火で炙ると脂の焼ける良い匂いが漂う。破滅以前は魚がその臭いのために好きではなかった自分が信じられないほど、なんて食欲をそそる匂いなのだろうか。
名前も知らない魚の肉を噛み締めるほどに生きる意欲が湧いてくるようだった。
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