魔王は地球に転生し、ダンジョンで迷惑系配信者を斬殺してバズる

年中麦茶太郎

第1話 かつて魔王になったスライムがいた

 かつて最強を目指したスライムがいた。

 雪のように真っ白なスライムだった。

 大勢が知っているように、スライムは最弱の魔物だ。最強の対極といえる。

 だが、その白いスライムは諦めなかった。

 たゆまず研鑚を続け、スライムの域を遙かに超えた強さを身につけた。

 勇者と呼ばれた人間さえも凌駕し、そして魔王に単身で挑む。

 壮絶な戦いの結果、スライムは王座を簒奪し、魔族の王となった。


 そこまで上り詰めても、最強を目指すスライムの戦いは終わらない。

 その星には神がいた。

 誰かが些細な間違いを犯しただけで町ごと洪水で押し流したり、むやみに生贄を求めたりする、ろくでもない神だ。邪神と称して差し支えない。

 スライムは魔王として神に挑み、これを滅する。


 邪神の滅びは、魔族だけでなく人間からも歓喜の声で迎え入れられた。

 スライムは万人にとっての英雄であり、その星で最強の存在となった。

 最強。

 それを目指して研鑚を積み、闘争を重ねてきた。

 そうなりたいと願っていた。

 なのに、もうこの先がないと思うと、無性に虚しかった。

 今日よりも明日強くなるという目標は、漠然すぎた。

 挑む相手が欲しかった。


 そんなスライムの前に、邪神よりも遙かに強い相手が、彼方から現れた。

 宇宙を渡り歩く、天体規模の化物。

 星喰いの獣スターイーターである。


 スライムは戦った。

 結果、倒せた。

 星が球体と呼べぬほど破壊され尽くし、スライム自身も瀕死になるダメージを負い、それでも辛うじてスターイーターを消滅させた。


「あなたの勝利です。魔王シルキス様」


 黒髪の美女が、スライムを太ももに乗せ、その名を呟く。

 彼女は人間ではないし、魔族でもない。

 正体は、魔王城に古くから眠っていた、魔剣セリューナ。

 今の姿は、契約者に随伴するための人間形体である。


「なにが勝か。私は間もなく死ぬ。どう控えめに表現しても、相打ちがいいところ……圧勝でなければ、勝ちではないのだ。もう一度、奴を倒せと言われても無理な話。十度に一度の幸運を拾ったにすぎない。こんな辛勝は、勝ちとは言わない」


「いいえ、勝ちは勝ちです。わたくしがそう断じます」


「……仮にそうだとしても、勝ではない。星は削り取られ、海は蒸発し、文明は滅び、生命は消えた。そこになどない。そもそも私は勝ちたいのではない。最強になりたいのだ。奇襲を仕掛けるとか、策を弄するとか、幸運を拾うとか、そういう勝ち方では相手より強いという証明にならんだろう。ああ、真正面からスターイーターに圧勝したい……私は最強になりたいんだ……」


「なんて欲深いシルキス様。それでこそ魔王です。それでこそ、わたくしの契約者です。いいでしょう。わたくしが必ず、あなたの魂と武器庫を新天地に運びましょう。そこで転生してください。スターイーターがあの一体のみとは思えません。他の星で待っていれば、いずれ現れるとわたくしは確信いたします。もっと強くなって、スターイーターと再戦し、圧勝し、己が最強であると納得してくださいな」


「頼む」


 そう答えてからスライムは一呼吸置き、言葉をつけたす。


「お前は私のものであり、私はお前のものだ。勝つにしろ負けるにしろ、そばにいてくれ。愛している。最強の座と同じくらい、痛烈に」


「ああ、シルキス様。その言葉だけで、わたくしは万年であろうと億年であろうと、あなたの転生を待ち続けることができます」


 魔剣の涙がスライムに落ちた。

 それを最後に視界が暗闇になる。

 死。

 それが全身を塗りつぶしていく。

 魔王の座まで上り詰めたスライムは、その生涯を終えた。

 そして――。

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