スパイ同士の恋は叶わぬ恋なんですか?

空野そら

第一章【プロローグ】

 パンッ! という一つの銃声が建物の中に響き渡ると俺の背中に電気が走ったかのように激痛が走り、背中が熱くなる。

 そしてベチャッというドロッとした液体が地面に落下した時のような音が銃声に続いて響く。すると俺からでは暗く何も見えていなかったところからある一つの影が出現する。


「フフフ、や~っと追い詰めた」

「っ......なんで、俺だけ......」

「それはぁ~......ってもう聞いてない」


 気づけば俺の意識は暗闇の底へと落ちてしまっていた。それはもう五感が一切感じないほどに深く。ずっぷりと......




 どれほどの時が経ったのか、今自分がどこにいるのか分からなくなっていたその時、徐々に五感が復活する感覚がし、無意識に瞼を少し開く。すると眩しいぐらいの暖色系の光が網膜を強く刺激する。

 網膜を刺激されたことで少し開けていた瞼はほぼ閉じていると言ってもいいほどに狭まってしまう。

 するとここで嗅覚が復活したのか甘い、非常に甘ったるい匂いが網膜と同じように鼻腔が刺激される。

 次の瞬間俺の鼓膜に一つの声が届く。


「あ~起きた~?」

「...っ...ここ、は......?」

「ここはね~、ブイガッテン王国だよ~」

「......は? え? はあああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?」」

「うそだろ? なあ!」

「正真正銘、ブイガッテン王国よ。ようこそ我が国へ」


 目の前に現れたのは月明りを反射させる黒髪のロング、そして紅色あかいろの瞳、スラッと、華奢な体をした女だった。その女にここはどこかのか疑問を飛ばすと、女は俺に予想外の言葉を飛ばす。それは......

 他国だった。もう一度言う違う国だった。さらに言えばそのブイガッテン王国という国と俺が暮らしていた国は敵国同士、そして戦争中でもあった。

 そんな敵地にいるということを言われたら驚くことは当然で、信じたくもなかった。しかし目の前に脚を組んで立っている女は、凛とした表情でもう一度ここがブイガッテン王国と告げる。そして女はブイガッテン国民なのか、客人をもてなす言葉を俺に掛けてくる。

 そんな表情で伝えてきては真実だと思うことしかできなくなり、俺はどうするべきなのか、勝手に敵国地に足を運んでしまったことに焦りを覚え、冷や汗をかく。


「と、というか、お前は誰なんだ!」

「私~? 私はぁ~、オリビア・ディアロよ」

「ディアロ、さんは、なんで俺がここにいるか知ってます?」

「えぇもちろん、だって、私が連れてきたんですから」

「......は? 連れて来たって......あの時俺を撃ったのはあなた......?」

「えぇ」


 オリビアと名乗った女に何故俺がここにいるのか質問を飛ばすと、先ほどまでの甘ったるい口調から変わってそこらへんにいる女性と大差がない口調でその理由を述べる。

 その理由を耳にした俺は自分の耳を疑い、確認を取るかのようにぎこちなく疑問を見せる。その疑問にオリビアは端的に答える。

 そこで俺は頭がパンクしてしまい考えることができなくなってしまった。




 私は目の前で頭からシューという音を立てながら白煙を上げる男、ヒイロ・ソレル・ランベールをここ、ブイガッテン王国に連れてきた。ヒイロはブイガッテン王国私の国の敵国、ラティアン共和国のスパイ......という噂だ。そしてこの私、オリビア・ディアロもヒイロと同業、ブイガッテン王国のスパイだ。

 なんで敵国のスパイを生かして自国へ連れて帰って来たのは情報を吐かせるためではない。

 じゃあ何なのか、それはヒイロを利用するため、そのために私はヒイロをこの国まで連れて帰って来た。


「はあ、もしもしウィスター? 対象をC《チャーリー》地点まで移送したわ」

『了解した。今そっちにマラリを向かわせた、今度は拠点まで連れてきてくれ。もちろん途中で休憩してくれても構わない』

「分かったわ」


 無線で仲間に現状報告をすると、新たな行動を命令されたためそれを了承し、その行動のための準備を始める。

 その準備段階で私は一つのアタッシュケースの中から薬を取り出す。その薬を白煙を上げながらグダ~っと倒れこんでいるヒイロに飲ませる。するとヒイロは頭から出していた白煙を止め、さっきよりもさらにグダ~となり、寝息を立てはじめる。

 それを見届けた私は別のアタッシュケースから拳銃を取り出し、弾が込められた弾倉を入れる。そしてスライドを引いて拳銃内に銃弾を装填する。


「さて、まだかしらあの子......」

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