決闘祭
魔導士
教室のウォールボード……教壇の後ろに設置された、文字を書き込める壁に名前を書き込んだウェニディは生徒たちを見上げた。
「では、ウェニディクラスの代表はミーレス・ネモでよろしいですか」
ウェニディはメガネを指で押し上げなら、問う。異論を唱える者はいなかった。
「……よろしいですね。なら決闘祭にはミーレス・ネモに出ていただきます」
何も、決闘祭は学生・ミーレスの全員が参加できるわけではないらしい。それぞれのクラスで代表を決め、代表がトーナメントで争う。
学年ごとに四クラスずつ。計十二名が選出され、頂点を競うのだ。
「今回、二連覇しているユファ・テンペストは優勝者とのエキシビションマッチとなります」
ネモはフリートに耳打ちする。
「つまり、なんだ?」
「勝てば最終的に戦えるってこと」
「ならいいか」
ユファと全力で戦える機会があるのならそれでいい。
「ミーレス・ネモ」
「はい」
名前を呼ばれ、姿勢を正す。
「あなたは魔導士対策を学ぶこと」
「魔導士?」
「魔法をメインにして戦うスタイルのことです。あなたは今まで剣士としか戦っていないでしょう」
記憶を振り返る。確かに、モンスターを除けば、剣士としか戦っていない。魔法攻撃をメインとする相手がいるのであれば、ネモにとっては完全未知の存在になるだろう。
「フリート令嬢、彼はあなたのミーレス。魔導士について教えること、できますね?」
「はい、お任せください」
「では、皆様。今日はここまでです。解散」
ウェニディは手を叩いた。
広場でフリートは杖を持っていた。サーベルを装備したネモと向き合っている。
フリートは杖を向け、その先に魔力を集中させる。フリートのイメージとしては足の底から杖の先まで沸き上がった魔力が流れていくイメージだ。
そして杖の先の魔力で風を起こし、放つ。
エアロバイトと呼ばれる二つの風の魔弾を飛ばす魔法だった。この魔法を選んだのは、単純に小規模で撃ちやすいというのもあるが、風ということだ。盗賊騎士が使っていた炎や斬撃を飛ばす魔法と違って、見えない攻撃だ。
「ふっ」
ネモは弧を描くように走り出し、フリートの懐に入り込んだ。無論、真っ直ぐ飛んでいった魔法は外れている。
鞘に手をかけたと思った途端、首筋にサーベルの刃が当てられていた。
「どう、魔法は」
「避ければいいな」
肩にサーベルを担ぎ、ネモは言う。風魔法は見えづらさを利用して不意打ちに使われたりするのだが、全く問題ないようだった。
「魔導士相手だとそう単純にはいかないわ」
例えば、と。フリートは杖でネモの爪先をつつく。
「魔法を仕込まれていて踏んだ途端に発動とか、今は単発だったけど絨毯攻撃してきたりだとか」
「絨毯攻撃ぃ?」
「無差別に一定範囲を全て魔法で攻撃するの。魔導士ほど熟練してないとできないわ」
ネモは顎に手を当てた。左頬の傷を親指でなぞる。
「それに対抗できねえと魔導士には勝てねえってか」
「そうなるわね」
「お嬢サマはできないのか」
フリートは首を振る。
「ワタシは別に魔導騎士も騎士も目指しているわけではないもの。あぁ、魔導士の騎士のことを魔導騎士と呼ぶわ。本当は騎士に変わりはないのだけれど、便宜上ね」
「ってえなるとぶっつけ本番になるわけか」
「耐えればいいって発想は持たないことね。学園内では腕輪が命みたいなものよ。自分の体で耐えられるからと言って突っ込んだら負け」
「ちなみにユファはできんのか。その絨毯攻撃とやらは」
フリートの記憶にある限りではそんな話は聞いた事はない。ただ、以前のネモとの模擬戦で魔力量も桁外れなのはわかる。
「わからないけど近いことはできると思うわ。範囲の広い大規模魔法だったり」
言えるのは漠然とした予想だった。
「そうか。ならやれるだけやるかねぇ」
「優秀な魔導士の相手をさせらればいい経験になるでしょうけど」
しかし、そんな人間に心当たりはない。
「あっ、いたいた。おーい! フリートさんにネモぉ」
ハスキーな声が響く。目を向けると、ユファがいた。ぶんぶんと手を振りながら近づいてくる。
「ユファさんどうされました?」
「いやぁ、噂をアテにするとさ。たぶんネモは魔導士と戦った事ないんじゃないかって」
ユファはウィンクをした。
「さすがに強い魔導士と戦わせられないけど、今決闘するところだから見てかないかい?」
ネモと顔を見合わせる。
「見せていただけるのであれば願ったり叶ったりですけど」
「なら一緒に行こう。ボクのライバル、リヒト・ヴァンゼンの決闘だ」
レッツゴー、と。
ユファは元気よく拳を突き上げた。
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