13.対策
ここまで来ると、イグルとヨナにも話を通しておかなければならない。
ロロが手紙を見つけた経緯をギギが説明する。
好奇心だけでここまで来てしまったが、こんなことになるなど誰が予測できただろうか。
情報を共有したあと、更なる説明をテレスに求める。
この魔法はどういう仕組みで発動するのか。
しかしこれを理解できる者はいなかった。
とても難しい魔力操作で発動条件の設定を組み込み、更に召喚魔術式を混ぜなければならないのだ。
これを理解して実際に成功させているテレスは、本当にレベルの高い魔術師であると同時に、剣術にも秀でており過酷なローデン要塞で生き抜く術を有していた。
言ってしまえば二刀流……。
魔剣士のようだ、とヨナは言った。
「間違ってはないな。先祖は剣術で成り上がったらしいが……」
「ファマリアル……ううーん、どこかで聞いたことが……」
「だろうな。テトリス・ファマリアルって知ってるか?」
「あっ! 魔王軍と戦ったローデン要塞の偉い人!」
「私はその末裔」
「へぇ……!」
意外な人物が出てきたことに、ヨナは感嘆の息をこぼす。
テトリス・ファマリアルは数百年前に魔王軍と最前線で戦ったことがあり、テトリスは勇者の弟子として活動していたが最終的にはローデン要塞を統治した人物だ。
魔王軍と戦った英雄たちの話は、意外と多く残されている。
多少脚色はあるかもしれないが、すごいことを成した人物だと言うことには変わらない。
テトリスの血が流れているテレスの実力は先祖譲りなのだろう。
魔法も剣術もできるなんてセンスの塊だ。
ヨナは少しだけ尊敬の目を向けた。
すると、ロロがおどおどしながらテレスに近づいてきた。
彼女は暫く口ごもっていたが、すぐに顔を上げる。
「えと、テレスさん……ごめんなさい。なんか……邪魔したみたいで」
「やめろやめろ謝るな! 悪いのは今こっちなんだから! まぁ……手紙を見つけなければこんな大事にはならなかったし」
「うっ」
「話を聞いてくれれば止められたし」
「うぐぐ」
「面白半分で首を突っ込まなければ良かったってのはあるけどな」
「ふぐぅ……」
今回の主犯はテレスかもしれないが、元凶は他でもないロロである。
これには誰もロロを庇うことはできず、苦笑いを浮かべる他なかった。
ギギですらそっぽを向いている。
だが過ぎた話をしていても仕方がない、とテレスが話を変えた。
「まず……私が手紙に施した魔法は過去の亡霊をレイスとして召喚するもの。今日はSランク冒険者のマルードだったけど、今度は別のSランク冒険者が出てくるはず」
「……もしかして毎日?」
「そうだ」
これはリヴァスプロ王国の使者が思いついた作戦だった。
二十三年前、キュリアス王国で発生した呪い、百鬼夜行で数多くの冒険者、騎士が犠牲となったのは有名な話だ。
呪いを発動させた術者を仕留めた後も呪いは尾を引いてキュリアス王国を苦しめた。
ギギはライキンス神父からこの話を聞いていたのでその後の内容をすぐに理解する。
死者の魂は武器に宿り、街中でレイスが出現して大きな騒ぎになった。
それを鎮めたのが当時の墓守だ。
彼は昼間に武器をかき集めさせ、墓地の一角にすべて集めてしまった。
それ以降、彼は誰も墓地の一角に近づけさせることなく毎晩毎晩出てくるレイスを狩り続けていた。
二十三年間レイスと戦っていても、マルードの様に強い個体が武器の中に宿っている。
それだけ長い間戦っていれば消えていそうなものだが……。
「あ? なに言ってんだ?」
「え?」
「墓守は聖魔法を使えないんだ」
「……え!?」
テレスの言葉に全員が驚く。
レイスを完全に倒すには聖魔法が必要だ。
物理でも攻撃する事は出来るが消滅させることは不可能。
と、いうことは……墓守は今の今まで、ずっと無意味な戦いを続けていたということになる。
イグルがテレスに詰め寄った。
「なんで聖魔法を使えないのにレイスを倒し続けてるんだ!?」
「そりゃあ……思い入れがあるからだろうさ」
「どんな思い入れだよ! 墓守がレイスを完全に倒してないなら、呪いは今も生きてるじゃないか!」
「おお、その通りだよ少年。そう、呪いは今も生きている」
まともな答えを聞けたのが心底嬉しかったのか、テレスは笑顔になって得意げになった。
そういえば屋台でそんなことを言っていたな、とロロは思い出す。
あの時は何の話か一切わからなかったが今なら理解できた。
墓守が何のためにレイスを聖魔法で殺さなかったかは分からない。
しかしその結果、今も呪いはこの国に燻っている。
もし墓守がこの秘密を抱えたまま亡くなれば、レイスは猛威を振るってこのキュリアス王国で暴れまわるだろう。
やらなければならないことが見えてきた。
墓守に話を聞かなければならない。
「ロロ、お前は留守番だ」
目をらんらんと輝かせてすぐにでも走り出しそうなロロに、ギギが釘を刺した。
ロロは一瞬何を言われているのか分からずきょとんとしていたが、頭の中で何度か言われた言葉をリピートして目を瞠る。
「……ええ!? なんでぇ!?」
「タリアナさん。貴方もです。二人とも、自分の身を守れないのにこんな所まで来てる。話はややこしいし、こうなった以上一般人を巻き込むわけにはいかない」
「そう、ですね」
「ええー! で、でも私が発端だし……私が動かないと駄目じゃないかなぁ!?」
「こじつけて捜査に参加しようとするんじゃない」
ぴしゃりとギギに言われて流石に押し黙る。
もう一介の郵便局員が出張っていい段階ではない所まで来ている。
これ以上関われば身を危険にさらしてしまう。
ギギは兄として、ロロをこの一件から外すことを決定した。
誰もその意見に反対の声は出ない。
タリアナはロロの肩を持ち、慰めるようにさすった。
あからさまにしょんぼりとしている姿を見るのは初めてだったのでギギは心を痛めたが、これでいいのだと胸の内で呟く。
「決まりだな。私は犯罪者みたいなもんだから大きく動き回れない。だからここで待つことにさせてもらうよ。戦力としてだけ数えてくれ」
「さっき蹴り飛ばされてたけど」
「少年、君もだろうが」
二人の間に火花が飛び散る。
ギギはイグルが負けず嫌いなのは知っていたが、恐らくテレスも同じようなタイプなんだなと思った。
「じゃ、私はロロちゃんとタリアナちゃん送ってくるにぇー」
「頼む」
ヨナは二人の喧嘩に突き合ってはいられない、とロロとタリアナを家に送り届けることにした。
ぐいぐいと二人を押して墓地から出る。
途中までロシュ・マヴォルのロンが後ろを付いてきていたが、墓地を抜けたところで踵を返した。
どうやら少し護衛をしてくれていたようだ。
人に慣れるとこんなことまでしてくれるのか、と三人は少し感心した様子でロンの後ろ姿を見送った。
そして夜の街を歩き、家へと戻る。
もう二人を追いかけるような野蛮な人はいなくなった。
これであれば二人を同じ家に閉じ込めておく必要もないだろう。
しかし女三人寄れば姦しいとはいうが、先ほどの一件もあって二人がロロを気遣い誰も口を開かなかった。
ただでさえ夜中の静かな時間なのに、それでさらに寂しく感じられる。
「「……」」
とぼとぼと歩くロロを見た後、ヨナとタリアナが目を合わせる。
どちらも対応に困っているようだったが、ヨナがようやく口を開いた。
「ロロちゃん、大丈夫?」
「え? ……あ、うん! 平気平気!」
「嘘つくの下手だにぇー」
「うう……」
がっくりと方を落として再びトボトボ歩く。
戦力外通告をされ、調査ができなくなったロロは罪悪感だけが残っていた。
興味本位で手紙をくすねなければここまでの大事にはならなかったのだ。
これを挽回するためにできる範囲で役に立とうと思っていたのだが……もうそれも叶わない。
しょぼくれているロロにため息をつきながら、タリアナが声をかける。
「とりあえず今日は寝ましょう。明日ゆっくり休んでから考えましょ」
「考えるって何を……?」
「決まってるじゃない」
彼女は得意気になって鼻を鳴らす。
「危なくない範囲で、調べものをするのよ」
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