第1幕 しあわせ

story1 し あ わ せ



「じゃ、行ってきまーす‼」

「行ってらっしゃい。あ、あと今日の午後、楽しみにね」

「うん‼もいろん」

そう、今日はわたしの誕生日なの。

学校から帰ったら、誕生日ケーキとプレゼントが待ってる……!

誕生日プレゼントはずっと欲しかった――――。

「おーい!」

「あ、まゆ」

私の思考をさえぎったのは、髪を横で結んだ親友のまゆ。

本名は室井真結花むろいまゆかっていうんだ。

すっごい優しいから、すぐ親友になれたの!

「ふふっ!今日は輪廻の誕生日♪放課後りんねの家でプレゼントあげるからねっ♪」

彼女はさっきからそのことしか口にしていない。

でも、そんな相手想いの優しい性格が、親友になれた1つのきっかけでもあるから私も横で騒ぐまゆに笑みがこぼれる。

「ありがとう」




「「りんね、お誕生日おめでとーう‼」」

教室に入ると、クラス中が派手なお祝いをしてくれた。

このクラスは……というかこの学校は、生徒の数が合計100人くらいで、ひとクラス十数人しかいないから、誰かの誕生日があると毎回お祝いをする、仲良し学校だ。

「りんねの誕生日のことだし、1時間目は誕生日祝いだぞ!」

「「やったーっ‼」」

周りを見渡すと、みんなが手を合わせて笑顔を見せている。

隣から軽く肩を叩かれて、そちらに目を向けると、まゆがこちらに手を伸ばせていた。

「「いぇーい!」」

みんな優しくて、みんな仲良しで、もちろん一切不満がなかった。

嘘偽りなく、本当に幸せな日々だった。



―――――逆に、不安になるくらいにね。



「わたしは将来絶っっっ対にアイドルのマネージャーになるの‼」

あっという間に終わった学校の帰り道、まゆが将来について熱く語っていた。

「りんねは、将来の夢とか……ある?」

「えっ……わたし!?」

まゆに真剣な目で急に問いかけられて、あわあわと戸惑う。

言われてみればだけど……。

特になりたいもの……って言うのもないし、すぐに思いつくものもない。

でも。

曖昧な答えなのはわかっているけれど、やっぱりわたしは……。

「今みたいにずーっと幸せになりたい。子供を産んで、寿命が尽きるまで精一杯幸せになるよ!」

「ははっ。まあ長年の付き合いだから、最初からそうなると思ってたけど!りんねらしいいい考えだよねーっ♪」

「ありがとう!」

「じゃあ、放課後またりんねの家で!」

交差点についたところで、ふたりとも立ち止まり、まゆだけは交差点を渡らず、そのままその道を歩いて行った。

「ばいばーい‼」



ピー...ピー...



規則的な機械音が耳に響く。

まさか、こんなことになるなんてね。

一番幸せと感じた日に全てを失うという絶望感が……というよりかは、頭の中で状況が追い付かずにいる。

笑顔の行き先は、運命だけが知っているように、誰もが運命だけには逆らえない。

今はもう、何もない赤と黒の不気味な境界線に立ち尽くすだけだった。







「きゃああああああああああああああああああッ‼」


ピ――――ッ。




[9/26 死没者名簿]


田村英子 竹内結 富山一江 山本有奈 ...


〈 蓬莱輪廻 〉

生年月日 : 20**/9/26

午後3時42分 交通事故により死亡








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