第54話
科学者の手がアンジュの首を掴み、力を入れる。右肘から先がないアンジュは、残っている左手でなんとか科学者の手を離そうと抵抗するが、力が強すぎてどうにもならない。
――マリカ!
アンジュが心の中で叫ぶと、ボンッ! と音がして、科学者のアンジュを掴んでいた腕が爆発して吹き飛んだ。
「アンジュに手を出すなんて、あんた最低! 絶対に許さないんだから!」
マリカの声がしたかと思うと、今度は科学者のもう片方の腕も音を立てて弾け飛んだ。
「くそっ!」
もはやこの研究所はマリカが制圧したようなものだった。彼女が全てのコンピューターを制御しているので、科学者の頭脳さえも操ることができた。しかし、科学者自身もマリカに乗っ取られる前に抵抗したことで体自体を爆破されずに、腕二本で済んだのだった。
「仕方ない、こうなったら!」
科学者は悪態をつくとアンジュから離れ、部屋の壁面に体当たりした。機械である体は、研究所の壁をいとも簡単に破壊する。
「はっはっは! 壁に穴を開けて逃げるつもり?」
マリカの声が天井から聞こえる。その言葉に反応を示すことなく、科学者は壁に体当たりを繰り返す。すると、崩れた壁の中から赤いボタンが姿を現した。普段なら目に見えるはずのない場所に設置された、明らかに怪しげなそれを見て、科学者はニヤリと笑った。
「何をするつもりなの! やめなさ――」
アンジュが言うより早く、科学者は自分の頭を赤いボタンに叩きつけた。何度も、何度も。ボタンもアンドロイドと同じ材質でできているのか、自分の頭が崩れようともお構いなしに頭突きを繰り返す。
やがて顔半分が崩れ去り、人工皮膚が剥がれ落ちて内部構造があらわになった顔で、科学者はアンジュを見た。半分人間、半分崩れた機械の科学者の顔を見て、アンジュはぞくっと寒気がした。
「なぜだ……なぜサドウ……しな……い」
科学者がもう一度赤いボタンに向かって頭をぶつける。しかし、科学者が期待しているような反応は一切見られなかった。マリカが言う。
「研究所を爆破しようたって、そうはいかないわ! 私が制御して、ボタンは無効にしてあります!」
「クソ……縺オ雁マ燕ェ繧我ラ邨蟇オ縺險シ縺マ輔縺イ繧峨ダ」
科学者は言葉にならない声を発すると、そのままだらんと首を下げて、たったまま動かなくなった。
「?」
様子のおかしい科学者に、アンジュが不思議そうに近づこうとすると、マリカが叫んだ。
「アンジュ、逃げて! こいつ、自爆装置を起動しやがったのよ!」
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