第47話

 目の前にいる「科学者」は、年齢がアンジュと同じくらい、それか少し上と思わせる風貌だった。



 ――みんなが必死に探していた科学者は、こんなに若い男の人だったの? ……そして、島の外にいたんだったら絶対に見つかるわけないじゃないの!



 眉間にシワを寄せているアンジュを見て、科学者がふっと笑って口を開いた。


「ごめんごめん、この姿はお気に召さなかったかな。年齢が近い方が話しやすいかと思ったんだけどね」


 科学者が右腕を前に出して手を広げると、それまで何もなかった空中にキーボードを模したディスプレイが浮かび上がった。それをカタカタといじると、彼の姿が若い男性の姿から、年寄りの老人の姿へと一瞬で変化した。


「これでよいかの? こちらの方がいかにも科学者っぽいじゃろう」


 声のトーンから言葉遣いまで変わってしまい、アンジュは困惑した。まるで別人――。もしかして科学者って……。


「そう。君が思っている通り、わしは頭脳をコンピューターにして生き続けているのじゃよ」



 ――心を読まれた? それとも表情でバレているのかしら?

 アンジュはぞくっとして、思わず一歩後ずさった。



「そして、この体は自在に形を変えることができてのぉ。若い男から今のわしのように年老いた者……そして……」


 またまた科学者は空中に浮かんだディスプレイを操作する。今度は老人の姿から、パンツスーツを着用した女性の姿――科学者の使いと名乗る女性と全く同じ――に変化した。


「こんなふうに、女性にもなれちゃうの。アンジュ、さっきぶりね」



 アンジュはもう何が何だかわからなくなった。



 科学者の使いと名乗った女性は、実は科学者本人だった。科学者は自由自在にその姿形を、声までもを変えることができるアンドロイドだったのだ。


「でも誤解しないでね。データ化されているとはいえ、頭脳は人間のときのままよ。THREE BIRDSの王、ジロウっていたでしょ。大きなコンピューターに頭脳を移植した――」


 科学者がアンジュにそう呼びかけたが、彼女は返事をしなかった。ただただ科学者を見つめて、信じられないと言った表情をしていた。


「彼ももう少しで私と同じ高みまで上ってこれそうだったけど……頭脳をアンドロイドに転送するところまでは無理だったみたいね」


 科学者が銀縁の眼鏡をクイっと持ち上げる。そして、まるで「私と肩を並べることのできる人間なんているわけないわ」と言わんばかりに、自信たっぷりな表情をしてみせた。


「……どうしてTHREE BIRDSのことを知っているの? ヴァルクのこともそう。あなたはまるで全部わかっていたかのように話をする」


 アンジュが声を絞り出す。すると、今度はきょとんとした顔をして科学者が言った。


「あれ? あなたはマリカから何も聞かされていないの? あの島は実験場だったのよ」

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