第26話「はいはいはいはーい! あたし天才! 最高の作戦を思いつきました!」

「M2NRは人間の限界を超えた筋肉を生み出し、脳までも筋肉に変えてしまう。一度M2NRを摂取した人間は、もうそれなしでは生きられない体になってしまう。月に一度は摂取しないと筋肉が衰え、生きていけなくなる」

「どうしたの急に。マリカまでおかしくなってしまったのかしら?」


 ここはアンジュとマリカの自宅。


 アンジュがドライヤーで、ぬいぐるみであるマリカを乾かしていると、突然そんなセリフを吐き出したのだ。


「違うし! THREE BIRDSのデータの中にあったM2NRの情報を声に出しただけだし!」

「M2NRねぇ……」


 アンジュがTHREE BIRDSの地下研究所内で戦ったボスオネェマッチョたちのことを思い出す。


 ――確かにあの筋肉集団は異常だった。あそこまでの筋肉を育て上げるのには相当の年月を必要とするはず。戦争後の荒廃した世界で、そんなマッチョたちをずらずらと揃えることができるはずがない。やはり、マリカの説明通り筋肉増強材を使っているのに間違いはないだろう――と判断した。


「でも、そんな筋肉増強材を作る材料や技術をニューエイジはどうやって手に入れたのかしら? まさか本当に『科学者』を味方に引き入れたとか?」


 アンジュがドライヤーでマリカをわしゃわしゃしながらそう呟く。


「うーん、M2NRをどうやって作っているかまでは、あたしも情報を持っていないから……実際に行ってみないとわかんない」

「もし科学者がいたとしたら……マリカを元に戻す方法を聞き出さないといけないわね」

「ニューエイジの王がアンジュの仇かどうかも確かめなくっちゃ!」


 二人の旅の目的はあくまでも、「マリカを元の人間に戻すこと」と「アンジュの腕を切り落とした王に復讐をすること」である。そこをもちろん二人は忘れてはいなかった。


「とにかく! ケンジとリコの仇を取るために、あたしたちはこれからニューエイジのアジトに乗り込みます!」


 マリカが元気よく「いくぞー!」と右手を突き上げる。アンジュもそれに付き合う形で、無表情のまま「おー!」と右手を上げた。

 アンジュもマリカも案外気楽に考えていた。アジトに乗り込んで、たとえトラブルになったとしてもロケットパンチでなんとかなる。そう思っていたのだが――。



 ◇



「すまない、マッチョ以外はこの街に入ることはできないんだ。他をあたってくれ」


 ニューエイジのアジトまで電動バイクを走らせること数日。


 やっとのことでたどり着いたアジトの入り口で、二人は門前払いをくらってしまった。アンジュはぬいぐるみのふりをして何も喋らないマリカを抱きしめながら、門番のマッチョに再び頼み込む。


「お願いします、どうか街に入れてください。父を探してここまでやってきたんです」

 ――おお、アンジュってば嘘が上手になってる! ……相変わらず表情は無愛想なままだけどね! 


 無言のままマリカはアンジュの演技に驚いた。


「しかし……」

 門番マッチョは困った顔をしながら、自分の大胸筋をポリポリと掻く。すると「どうしたどうした?」と門の奥から別のマッチョが現れた。門番マッチョよりもひと回り大きい筋肉をもったマッチョであった。


「隊長! それがですね――」


 門番マッチョは隊長マッチョに経緯を説明した。隊長マッチョは状況を理解して、アンジュの前に向き直った。そして彼女と目線を合わせるために膝をついて話し始めた。


「――ふむ、君たちがこの街に入りたい理由はよくわかった。しかし、この街の規則として『マッチョ以外の何人たりとも入れてはならぬ』というものがあるんだ。すまないが帰ってくれたまえ」


 隊長マッチョの真摯な物言いに、さすがにアンジュも大人しく引き下がるしかなかった。



 ◇



「どうしよっか、アンジュ」


 ニューエイジのアジトから少し離れた岩陰で、マリカとアンジュが作戦会議を開くことにした。



「もうロケットパンチでみんなぶっ飛ばせばいいんじゃない?」



 アンジュが少しイライラしながら右手をアジトの方へ向けようとする。イライラしているのは、「お願いします、どうか街に入れてください。父を探してここまでやってきたんです」なんて、普段絶対言わないようなセリフを言ったのに、隊長マッチョに全く通用しなかったためである。


 それを慌ててマリカが止める。アンジュは本当にロケットパンチをぶっ放しかねないと、彼女の右腕にしがみつく。


「だぁーっ! だめだっつーの! そんなことしたら科学者から情報が引き出せなくなるから!」

「だって……」

「それに王への復讐だって、知らん間に終わっちゃうじゃない! そんなのアンジュも嫌でしょ?」

「確かに……」



 しぶしぶ右手を下ろすアンジュに、マリカが「危ねぇ、アンジュ……本気で撃つつもりだったんか……」と安堵の息を漏らす。


「とにかく、なんとかアジトに潜入する方法を考えましょ! そして、あの門番の様子では潜入した後もバレないようにしないといけないからね」


 そう言ったものの、マリカにはまったく策が思いつかなかった。マッチョたちにバレないように……あたしがマッチョのぬいぐるみになればいいのかしら? それともアンジュがマッチョになっちゃう? うげ、気持ち悪ぅ!


「ちょっと……今、私がマッチョになって潜入すればいいとか考えていたんじゃないでしょうね?」

「うぇ? そ、そ、そ……そんなこと考えていま……したよ?」


 アンジュが軽く睨みつけてくるので、ついマリカは本音を漏らしてしまう。しまった! とマリカは目を逸らした。


 そんなとき、ふと「とても素晴らしいアイデア」が、マリカの



「はいはいはいはーい! あたし天才! 最高の作戦を思いつきました!」



「?」

 アンジュが不思議そうに顔を傾けた。






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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 ケンジとリコの仇討ちということで、ロケットパンチどかーん! で終わりかと思いきや、「科学者がいるかもしれない」「王の姿も確認しないと」ということで慎重に物事を進めることにしたようです。ニューエイジ、確かに未知の相手ですからね。

 そんな、マッチョでないと入ることができないニューエイジのアジト。アンジュとマリカはどのようにして潜入するのでしょうか。

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