第17話「あたしは元々かわいい人間の女の子だったの!」
「あら、ナンバー2って言うからもっと怖い人かと思っていたけど、優しそうなおじさまね!」
白髪で白衣姿、そして丸眼鏡をかけた、いかにも研究者といったサジーの姿を見て、マリカが嬉しそうに言った。
「はっはっは、優しそうに見えるかい。……しかし、本当にぬいぐるみが自我をもって話をするんだな。びっくりだよ」
「えへへ、信じられないかもしれないけど、あたしは元々かわいい人間の女の子だったの! 早く『科学者』を見つけて、あたしを人間に戻してもらいたいのよ!」
あっ、余計なことを言って! アンジュがマリカを捕まえて手のひらで彼女の口を塞ぐ。
「むごごごご!」
「ほお、ぬいぐるみから人間に戻る……か。科学者がいればそれも可能だろうなぁ」
サジーはマリカからアンジュへと目線を上げ、笑顔を見せた。
「ケンジから話を聞いていると思うが、ぬいぐるみが自我をもって行動しているなんて、戦争前の科学技術をもってしてもありえないことなんだ。彼女は『科学者』と何らかの関わりがある可能性が高い。早速だが、その体を調べさせてもらうよ」
「ケンジと『マリカを分解しない。スキャンと電子回路の接続だけ』という約束でここへやって来たわ。もしもそれが破られたら……」
アンジュが表情を変えずに、低いトーンでサジーに念を押す。サジーもケンジからそのことを確認済みのようで、「わかっている。約束は守るよ」とうなづいた。
「では場所を移そう。じゃあ、一緒に行こうか」
サジーがマリカを抱き上げる。「じゃあアンジュ、ちょっと行ってくるからね!」マリカは軽いノリで片手を上げて、アンジュに手を振った。
「その間、私はこの中を見てまわってもいいかしら?」
「ああ、構わないよ。特に秘密にしないといけないこともないからね」
その言葉を聞くと、アンジュも一緒に部屋を出た。
◇
「ねぇねぇ、THREE BIRDSは研究者ばっかりね! ケンジやリコみたいな銃の達人は他にはいないの?」
サジーの両腕に抱かれながらマリカが尋ねる。
「ああ、戦闘員はもっぱら地上で活動しているんだ。他の王たちの動向を探ったり、研究者を探したりしているよ」
サジーは特にマリカを見ることもなく、ただ前を見て歩き続ける。
「あら、ケンジたちも大変なのね! その戦闘員ってのは何人くらいいるの?」
「全部で50人くらいだね……それはあの女の子から探ってくるように言われたのかな?」
「まさか! あたし個人が興味あるだけ! 4人の王の中で強いって聞いてるから!」
「4人の王……ねぇ。我々にとってはそんなのはどうでもいいことなんだよ。別にジロウ様も世界を統一して王になろうとしているわけではないからね」
「そうなの?」
「ああ。でも、これ以上は秘密だ」サジーはふっと笑みを浮かべた。
――ちっ! 優しいおじさまとかおだてりゃ、もっとベラベラ喋ってくれると思ったのに!
マリカは舌打ちこそしなかったものの、心の中で悪態をついた。
――まあいいわ。電子回路を接続したら、こっちから研究所のデータベースに アクセスして、科学者の情報を手に入れてやるんだから!
◇
マリカが体をスキャンされている間、アンジュはTHREE BIRDSのアジトを自由に見て回ることができた。アジトというよりは巨大な研究所といった感じで、それぞれの部屋で何かしらの研究が行われていたり、食料や武器の製造が行われていた。そこで出会ったほとんどが純粋な研究員たち。彼らは戦果を逃れ、科学技術復興のために地下深くで様々な研究を行っているのだった。
その中でも、やはり彼女が興味を引いたのは「記憶のデータ化」の研究だった。これが完成すれば、人は肉体が滅んでも意識は残る。さらに、そのデータを他へ移行できれば体を変えながら生き続けることができるという。「この研究の完成をジロウ様は急いでいるんだ。そのためにも、『科学者』を早く見つけたいのさ」と担当している研究者が話してくれた。
――もしかしたら、マリカはその答えなんじゃないか。
アンジュはそんなことを考えてしまった。マリカが時折みる悪夢が果たして実際に起きたことなのかどうかはわからないが、仮にそうだとしたら――マリカはもともと人間の女の子で、その記憶データをくまのぬいぐるみに移植した――と考えることができる。
「まさか、そんな夢みたいなこと……」
思わずアンジュはそう呟いていた。とにかく、マリカのスキャンが終われば、何か明らかになるのかもしれない。一通りアジトを見終わったアンジュは、部屋に戻ることにした。
◇
「おいおいおい、これはやばいんじゃねぇの?」
「静かに! バレちゃうでしょ!」
THREE BIRDSのアジトの入口付近。ゴツゴツした岩山の影に、ケンジとリコが銃を構えて隠れている。遠くで拳銃の音と、何者かの雄叫びが聞こえる。二人がエレベーターを使って地上に出て来たとき、他のTHREE BIRDSの戦闘員たちが誰かと戦っている最中だった。
「くそっ! なんでこいつら拳銃が効かねぇんだ!」
THREE BIRDSの名も無き戦闘員が銃を放つが、それはムキムキの筋肉に弾かれてしまう。
「ウハハハハ! 俺たちニューエイジに鉄砲なんぞが通用するか!」
そう言って頭だけを鉄仮面で覆っているマッチョ――あとはブーメランパンツのみで全身筋肉である――が戦闘員に向かって突進してくる。
「マッチョラリアットォ!」
マッチョの伸ばした左腕をまともに喰らった戦闘員は、激しく近くの岩山に体を打ち付けて、口から血を吐いて動かなくなってしまった。
「くそっ! ここでやられてたまるか!」
他の名もなき戦闘員が同じように拳銃を構える。すると、その背後から別のマッチョ――同じく鉄仮面を被り、パンツ一丁である――が、戦闘員の構えていた拳銃を取り上げた。そして、「フン!」と力を込めると、拳銃がただの鉄くずになってしまった。
「イヤッホォ! THREE BIRDSは今日限りで壊滅ダァ!」
銃の効かない鉄仮面マッチョたちが、次々とTHREE BIRDSの戦闘員たちを倒していく。その数、十数名。戦闘員も同じくらいの数がいるのだが、全く歯が立たなかった。
「リコ、いったんアジトに戻るぞ。ジロウ様に報告だ」
「でも、みんなを援護しないと!」
「馬鹿野郎、見ただろ。あのマッチョどもに銃は通用しないぞ!」
究極の戦闘集団「ダン・ガン」がTHREE BIRDSに壊滅させられたという情報が他の王にも知れ渡り、「ニューエイジ」が動き出したのだった。
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こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。
すみません、みんな大好きヴァルク野村が登場する前に、新しい集団との戦いが始まってしまいました。
少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。
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