第197話 メチャクチャ



 陽が昇らない場所があり、いつも月の明かりしか照らさない。闇鬼の住み家である館は深い森に囲まれている。

 そんな場所で待つ少女が1人いた。館には入らず、入り口前の階段で座り込んで待っていた。


「まだ来ないかな~。あと20分♪」


 その少女はヨミであり、深い森を通ってきたにしては、真っ白なゴスロリには汚れや傷1つも無かった。このフィールドでは『飛行』の制限が掛かるので、飛んで館へ直行するのは無理になっている。

 なのに、ヨミは綺麗なままなのか?




 アルバドムのスキル、『悪魔支配』は凄く便利だったわね。アルバドムよりも格下であれば、戦いを避けられるし。




 テイムモンスターである魔造人形のアルバドムが持っていた『悪魔支配』、それを使って道中に出てくるモンスターとの戦闘を避けられたのだ。

 深い森の道中に現れるモンスターは幻惑を操る小悪魔、相手を魅力させる小悪魔、生命を吸収する小悪魔等と面倒臭い能力を持った小悪魔達がいる。

 面倒臭い相手だが、どれもアルバドムよりも格下であるので戦わない選択を選べた。


 う~ん、アルベルトはどうやって30分以内に館へ着いたのだろう?


 アルベルトは全ての状態異常を無効化出来る訳がないし、道中に出てくる小悪魔の数は多かったから戦闘はどうしても避けられるとは思えない。ヨミのようにアルバドムを使わない限りは。




 まぁ、あとで本人から聞けばいいか。…………あと10分なんだけど、誰も来ないなぁ。




 一時間って、結構厳しい時間だったかなと思った先にーーーー




 バチッ!




「うひ、来たわね」


「待たせたな…………というか、目視もしてなかったのに防げたな?」


「あら。私のテイムモンスターは優秀なのが多いからねぇ」


 さっきの音は、森の中からテイトクが弾を撃ち、それをキッカが防いだ音である。キッカは常に自分自身に巻き付けているので、すぐにオートディフェンスが出来る。


「ここまで来たのはいいけど、傷だらけでHPも半分しかないじゃない。回復の時間ぐらいはあげるわよ?」


「構わん。このままで行く!」


 HPを回復もせずにヨミへ向かうテイトク。入り口前はセーフティエリアではないので、このまま戦いを始めることが出来る。


「先手を貰う。『トリックルーム』! 『三連弾』、『三連弾』!」


「それはもう見たわ。ドルマ」


 ドルマを装備して、跳弾する弾を全て喰らい尽くした。ついでに『トリックルーム』を斬り裂いて破壊した。


「やっぱり、これでは駄目だな」


「まだ何かあるでしょ。見せてくれるかしら?」




「……その余裕を崩してみせる! 『流変結界』!」




 テイトクが展開した結界にヨミとテイトクが呑み込まれる。





 ……? 変な感じがする結界ね。何が変わった?





「行くわよ! 我と貴様の運勝負だ!」


「は? 運って………ッ!?」


 テイトクの言葉に呆気に取られている時、テイトクが弾を撃つと…………その軌道がメチャクチャに飛んでいって、ヨミの背中へ襲ってきたのだ。


「ドルマ……な、キッカ!」


 ドルマで先程のように弾を喰らおうとしたが、突如に伸びるドルマも軌道がメチャクチャになり、弾を喰らえなかった。なので、ヨミはキッカを腕に巻き付かせて、防いでいた。


 何故、ドルマの動きが? 弾も…………名前から推測すれば、動きや流れをメチャクチャにする結界なの?


 その通り、結界内にいる生物以外の動きや流れがランダムに変化してしまうのだ。その結界を発動するには、発動者のHPが半分以下になっていなければならず、発動中は回復も出来なくなっている。

 だから、テイトクは運勝負と言った。テイトクにも撃った弾が何処に行くかもわからず、自爆してしまう可能性もある。


「あははは、面倒臭い結界を張ってくれたわね」


「ふん、HPでは我が不利だが……運は良い方でな!」


「面白い! 真正面から破ってあげるわ!」


 思ったより面白そうな展開になり、ヨミは笑みを浮かべて破る策を考えるのだったーーーー





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