第190話 『堕天王(ルシファー)』



「え、えっ? 何が起きた!?」


「アルバドム、まだ手があるのかしら?」


 ヨミはジュンの疑問を無視して、アルバドムを笑顔で見つめ、ゆっくりと歩いていく。


「ッ! 暗黒魔法『ヘルブラック・スパーク』!」


「さっき見たわ」


 ヨミは剣や魔法で防ぐのではなく、軽やかに避けた。


「な、レベルとステータスが上がっているな!?」


「そうね。『堕天王ルシファー』を発動しているからね」


 『堕天王ルシファー』に備えられている能力の1つで、発動中はレベルが20も加算され、ATKとINTとAGIが格段に上昇する。

 勿論、能力はそれだけじゃない。


「気付かないかしら? いつもの魔法が弱くなっていたことに」


「くっ、やはり何かしていたか!」


「ふひっ、まだ気付かないのね…………既に私の結界が発動されていることに」


「……は? い、いつの間に!?」


 ヨミは結界を発動する素振りもなかったのに、既に結界が発動されていたことに驚愕するアルバドム。周りをよく見ると薄っらとだが、いつもより暗く感じる。

 これも、『堕天王ルシファー』のせいである。ヨミの意思に関係なく、結界が展開されてしまい、『堕天王ルシファー』を解除しない限り、結界も消えない。

 ヨミの持っていた元の結界能力は、第二職業である邪殺剣士による物だったが、今は『堕天王ルシファー』も結界能力を持っていたので、上書きされているのだ。


 上書きされるとは思わなかったけど、前のよりは強化されているから構わないかぁ。


 元の結界は、『武殺結界』で結界内にいる武器の能力を殺し、性能も下がると言う効果だった。魔物使いとして戦うならともかく、ドルマを装備して戦うには使いにくい結界だった。ルクディオスとの戦いでは、魔物使いとしてドルマ達に頑張って貰ったから勝てたのだ。

 そして、現在の結界は『能堕結界』。結界内にいる発動者以外の生物、無生物が効果を受けることになり、レベル20分のステータスが下がる。テイムモンスターも影響を受けるようで、手から離れていたドルマのステータスが下がっているのが確認出来た。


 これだけでも、『堕天王ルシファー』がとんでもない代物だとわかるだろう。


「これだけの差が出来たけど、貴方はまだ勝てるかしら?」


「ベラベラと喋って……余裕のつもりか? 舐めるな!!」


 アルバドムにはまだ負けるつもりはなく、今度は自慢の剣技で逆転を狙おうとする。


「ドルマ、来なさい」


「ギィィィーー!」


 ドルマを装備し、アルバドムの剣を受け止める。ステータスが下がっても、技術で攻め立てるアルバドム。


「まだまだ!」


「ふひ、まだ心は折れないのね。見せてあげるわ! ドルマ、好きなように暴れなさい!!」


「ギギャャャッ!!」


「暴れるだけの剣で届くと思ったか!?」


「流石。全てを剣で受け止めているわ。でもね、それじゃ逃れないわ! 『堕足呪剣』!」


「!?」


 剣を受ける度に、足から違和感を感じ始め…………


「足が重く!? ぐっ!」


「これで終わりじゃないわ。『堕力呪剣』!」


 再び、ヨミが何かをすると今度は剣が重く感じるようになった。そして、息切れをし始め…………ついに、ドルマの刃が身体に届いた。


「ぐぁ! ぐっ!! 暗黒魔法『ヘルブラック・フレアぁぁぁ』!!」


「おっと」


 アルバドムはヤバいと感じたのか、距離を取らせる為に自爆に近いやり方で魔法を放った。ヨミはこれでトドメを刺すつもりはなかったので、あっさりとドルマを引かせた。




「ハァハァッ!」


「魔法によるダメージは軽減出来たみたいだけど、息が上がっているわよ?」


 ヨミがしたことは、『堕天の剣術』による、剣に触れるだけで相手を弱らせる効果を持った呪いの剣術である。




 うひっ、面白い能力ばかりね。でも、別の支配者スキルを持った人と戦うことになったら、面倒になるわね…………




 ヨミは支配者スキルのポテンシャルに戦慄しつつ、面白いと感じていた。もうアルバドムは相手にならないとわかったが、まだ試したい能力があるので、元強敵には実験台になって貰おうと考えているのだったーーーー






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