第187話 数には質を
アルバドムが発動した『魔門招来』は巨大な門で、門が開かれると多数の小さな黒い悪魔が現れた。
「……25匹しか現(あらわ)れんか。レベルが制限された影響だな」
もし、ギミックがなければ、レベル100のアルバドムと更に増えた小さな悪魔を相手にすることになっていただろう。
「今度は数で来るかよ!?」
「うひひ、落ち着きなさい。数は多いけど弱いわよ」
レッサーデーモン レベル20
出てきた小さな悪魔はレッサーデーモンで、レベルは一律に20となっていた。自分達と比べれば弱いと言えるが、それでも25匹と言う数は多い。
「さぁ、行け!」
「「「「「ギャャャャ!!」」」」」
知性はなさそうだが、飛んで来る悪魔の中で魔法を使ってくる個体もいた。ファイア、サンダーなどと弱い魔法だが、まだ降り続けている隕石にアルバドムも戦いに混ざってくるとなれば、2人しかいないヨミ達では押しきられてしまうだろう。だからーーーー
「ピクトを貸してくれ! コイツらは俺とピクトでやる! お前はアルバドムに集中しろ!」
「……その方がいいわね。任せるわ」
ピクトがジュンの言うことを聞くように、ピクトが入った水晶を作り出して投げ渡した。
この水晶はこの前、メリッサに渡して街で暴れさせたことがあり、水晶を割れば一時的にテイムモンスターを貸し出すことが出来る。レッサーデーモン達はジュンとピクトに任せて…………
「アルバドム、1対1は嫌かしら?」
「念の為だ。しかし、無駄になりそうだな」
アルバドムは手を合わせ、ヨミの力は大体は察していた。勝つ自信はあったが、自分を倒せる力を持っている可能性はあると理解したので、安全を考えて数で攻め落とそうとした。
しかし、ヨミにはまだテイムモンスターがいて、まだ生き残っているジュンと一緒にレッサーデーモン達と戦えていた。
「『黒月牙突』」
「『点閃突擊』」
ヨミの突き技に、アルバドムも突き技で対応して相殺して見せる。『黒月牙突』は高い威力を持った技だったのだが、あっさりと相殺してみせたアルバドムの技量は結構高かった。
「……剣の技術は貴方の方が上みたい」
「なら、諦めるか?」
「まさか。技術で勝てないなら他で勝つまでよ! ドルマと『魔融魂合』!」
ヨミはここで切り札の1つを切った。『魔融魂合』に必要な生け贄はここへ来る前に収穫済みだ。
ヨミの姿がアルバドムよりも悪魔らしい姿へ変わっていくのを見て、アルバドムも動いた。
「なら、僕も相応しい姿になろうじゃないか『魔性変化』」
アルバドムも人間だった姿から悪魔らしい部位へ変わっていく。赤い角が生え、両腕も赤黒く染まっていた。
「これぐらいしか変化出来なかったが、これからの戦いに相応しい姿になっただろう」
「うひひ、悪魔対悪魔と言いたいのかしら?」
『魔性変化』によって、ステータスは上がったようだが、急激に上がったと言う程でもない。ここでも影響を受けた結果だ。
「そろそろ、死んで貰うわ! 『等倍速度』!」
「その言葉を返すよ。暗黒魔法『ヘルブラック・ブリザード』」
また暗黒魔法。今度は黒い氷柱が大量に現れ、突き刺そうと飛んで来る。
「また数なのねッ! 『夜天月斬』!」
刃のように鋭い左手の5本指から放たれた『夜天月斬』は黒い氷柱を斬り裂いていく。
「ーーーー掛かったな」
「は? ッ、あ!?」
黒い氷柱はあっさりと斬り裂かれたが、そのまま消えずに落ちた氷柱が床を凍らせ始めたのだ。それだけなら、滑る前にバランスをすぐ取れるのだが…………滑らせる為に凍らせた訳でもないと、踏んでから理解してしまう。
デバフが!? 《鈍足》と《感覚不全》を受けた……失敗した!
暗黒魔法で出来た氷柱が床を凍らせたり、突き刺すだけの魔法ではないと警戒して、空中を飛べば良かったのだ。しかし、凍った床を踏んでしまい、デバフを受けてしまった。
《鈍足》は言葉通りで、《感覚不全》は色々な状態があるのだが、今のヨミが受けているのは、寒さによる神経の痺れ。氷水に手を長時間も突っ込めば、感覚が無くなるのと似ており、上手く身体を動かせない状態になってしまっている。
「動きを止めたな。『星砕斬』」
「チッ、キッカぁぁぁ!!」
隙が出来たのと同時に、星魔剣(カリバーン)から複数の隕石が斬擊の代わりに放たれた。ヨミは動けないので、上空で隕石を防いでいたキッカを呼び戻して、防御して貰おうとした。
「甘い。暗黒魔法『ヘルブラック・スパーク』!」
「ぐっ……ぐぁぁぁっ!!」
剣の技を放って、間を開けずに黒い雷がヨミとキッカを襲った。2つの攻撃をキッカは防ぎきれず、そのままヨミごと向こうの結界まで吹き飛ばされることになった。
「がぁっ!」
「ヨミ!?」
吹き飛ばされるヨミに驚き、ジュンは名前を呼んでしまう。すぐヨミの助けに行きたいが、距離があり…………
「ヨミと言うのだな。覚えておこう。終わりだーーーー」
まだ立ち上がれないヨミに対して、アルバドムは猶予を与えずに手を向けるのだった…………
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