第75話 暗殺者のヨミ




 月が綺麗に輝いている夜中、ヨミは真っ暗な世界を歩いていく。




 暗殺の依頼を受けたヨミ。ルファス男爵を暗殺しようとしたのは、男爵より1つ上の子爵級の貴族で自尊心が高いと聞いている。


 確か、名前はナリキンス子爵だったわね。その貴族もアグネウス男爵と同じように代々から続くしきたりがあり、その内容が似ていたことから事件が起きた。


 ナリキシス子爵にはルファスと同じ歳の青年がいて、しきたりがワイルドグリズリーを倒して牙を得る試練があったが、クリア出来ずに逃げ帰っていた。

 ルファス男爵が倒したブレイブグリズリーとはあまり変わらない強さであるのに、子爵である息子がクリア出来ず、ルファス男爵がクリアしたことが気に入らなかったようだ。

 つまり、簡単に言えばくだらない自尊心がルファスを暗殺しようと動いた訳だ。他にも理由はありそうだが、ヨミは動機なんて興味はなかったので詳しくは聞いていない。お金集めの為に受けただけなのだから。


「……着いたけど、趣味が悪い屋敷ね」


 周りにある屋敷と趣(おもむき)が違い……溶け込めていないような、尖りすぎた雰囲気がヨミは好きになれなかった。


「爆破させたいな……火薬はないのかしら」


 ヨミはまだ火薬を手に入れていないから爆破は無理だが、暗殺だけで終わらせたくないなと思うのだった。


 まぁ、金目の物は沢山ありそうだから盗むのは確定として……他に面白くなりそうな事はないかしら?


 暗殺の為に潜入するが、パトロールをしている警備員はザルで潜入したヨミを見つけることもなく、あっさりと屋敷内へ潜入することに成功する。


「ここの貴族は馬鹿なのかしら? 警備が薄いなんて」


 数日前に暗殺者を送り出し、失敗したのは間違いなく伝わっている筈なのにまるで警戒はしてないように感じられた。




 もうやりがいがないし、さっさとドラ息子と馬鹿親を殺すか。後から宝を探せばいっか。




 ヨミに気負いはなく、本物の暗殺者のようにターゲットを探していく。


 見つけた、馬鹿親だわ。


 大きなベッドがある部屋を見つけ、中に入ると両親が仲良く寝ていた。両手にナイフを持ち、叫ばれないように喉(のど)を静かに斬る。


「!?」


 痛みで父親の方は目を覚ましたが、すぐ意識がなくなって死亡する。母親の方は寝たまま死んだようで安らかの顔だった。


「ふぅん? 反応が違うのは体力の差なのかな」


 ヨミは2人の違った反応に気になることが出来て、ドラ息子を見つけたら試すことにする。






「見つけた。相変わらず、警戒心がないわね?」


 ここまで暗殺者に対しての警戒心のなさに呆れるヨミ。もしかして、暗殺者は失敗したが、誰が黒幕まではわかっていないと思ったからか?


「うん、試すか。『魚群アロー』」


 ちょうど、横に向けて寝ていたので背中に向かって『魚群アロー』を放った。正面からだと眩しさで目を覚ましてしまうから背中に向けた方がいいと判断したのだ。あと、『魚群アロー』は痛みも感触も感じないから、寝ている相手には光にさえ気を付ければ無敵の技と言える。


 半分は減ったわね。次はナイフでえいっ。


 体力を半分にした状態で喉を斬ったら、ドラ息子も母親のように安らかな顔で死んだ。


 やっぱり、体力の多さで目を覚まされてしまう可能性もあるわね。次の暗殺があったら、気を付ければいいか。しかし、魚群アローは便利過ぎでしょ。


 魚群アローがあれば、傷を付けることもなく殺せるから不可解な死体にすることも出来るだろう。傷もなくて、体内から毒も摘出されないから自然死としか判断出来ないし。




 終わっちゃったなぁ。宝は何かあればいいんだけど…………




 お金になりそうな物は書斎に金庫か、宝物庫の部屋が備えられていないか探すのだが、ドラ息子の部屋に小さな金庫があるのを見つける。


「あら、金庫よね? 中に良い物があれば、いいけど」


 金庫を開けるには鍵が必要だが、ヨミには鍵がなくても開けられる。


「キッカ、鍵穴から入って開けなさい」

『イー』


 キッカは狭い場所にも入り込める程に薄く細いのであっさりと鍵穴に入っていく。しばらくすると、カチィと音が鳴る。


「開いたわね…………は?」


 中に入っていたのは数十枚の写真。金のモノではなかったのは残念だったが、その写真に写っていたのはーーーー





 5~6歳の幼女だった。裏には『婚約者のモエちゃん』と書いてある。





「…………貴族はロリコンしかいないのーーーー!?」


 潜入中であることを忘れて、叫ぶヨミであった。







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