第55話 信頼



 紙袋マスク男はハイト達の連携を捌き、人数差を感じさせない動きを見せていた。ハイトパーティも高い実力者が集まったパーティであり、お互いはまだ無傷で拮抗状態となっていた。




(くそッ! 5人で仕掛けても互角とは!!)




 紙袋マスク男のプレイヤースキルは高い方だが、流石に高パーティ相手に長く戦える程でもない…………レベルが同等の場合ならばな。紙袋マスク男ーーーージュンはマリーナの街(第2の街)に着いてから、レベル上げを欠かすこともなく、頑張ってきたから、なんとかハイトパーティの相手になっているのだ。

 つまり、自身のプレイヤースキルに加えて、レベルの差で互角に戦えている訳だ。


(互角なら、1つの何か……切っ掛けが欲しい。こちらにはもう1人が残っているが……)


 もちろん、ルイスのことだ。今は長く一緒にやってきた仲間との連携にいきなり混ざることは難しいと考え、下がってもらっていたのだ。薬師の職業を持っていると聞いたので、後方で傷ついた仲間にポーションを掛けてくれと頼んでおき、5人だけで攻めていたのだ。


(……ここまでは動きはなしか。紙袋の野郎と仲間である可能性は低いか……なら、リスクを覚悟して戦線に加わってもらうか)


 裏切るなら即座にパーティから外して切り捨てると心に留め、声を上げる。


「ルイス! 何か出来るか!?」

「そうですね、状態異常の薬品をぶつけましょう」

「……!」


 ルイスが懐からいくつかのフラスコを取り出し、紙袋マスク男の周辺へぶちまけた。ぶちまけた薬品から紫色の煙が発されていく。


「毒煙!?」

「これなら、動きが遅くーーーーって、避けるのかよ!?」


 紙袋マスク男は投げられた瞬間にすぐ攻撃を控え、逃げ道を確認していたから毒煙に巻き込まれるのを防げていたのだ。…………正確には、ジュンはルイスがフラスコを取り出した瞬間から中身が何なのかわかっていたが、わかっているように早く動き出してしまうと紙袋マスク男とルイスの関係性を疑われてしまう。だから、ぎりぎりになるようにと投げる瞬間に動き出したジュンの判断力を見せつけていたのだ。

 その成果もあって、紙袋マスク男の高い実力のお陰で避けられたようにしか見えなかっただろう。


「避けたが、隙は出来たな!?」


 紙袋マスク男が避けた先にはハイトが待ち受けていた。毒煙で視界が狭まったのもあり、僅かな隙が生まれていた。ハイトはそこを見逃ずに大斧を振るっていた。




 ーーーーだが、紙袋マスク男は紙袋の中で薄く笑う。




「ッ!?」

「えっ!?」


 振るった大斧は…………紙袋マスク男の僅か横を通りすぎ、地面へ振り下ろされていた。これは避けられた訳でもなくーーーーハイト本人が無理矢理に逸らしたのだ。何故、当てなかったのか? 疑問を浮かべる仲間達だったが……ルイスが「名前が浮かんでいますよ」と発して、気付いた。


「なっ、名前が……イエローじゃない!?」

「だから、逸らしたのか!」


 もし、攻撃が当たっていたらハイトはイエローになっていたのだろう。イエローはデメリットしかなく、倒れるとスキルレベルが下がってしまう。

 当たる前に名前を表示され、それに気付いたハイトは判断する間もなく、反射的に大斧を横へ逸らしていたのだ。


「くっ!」


 向こうがイエローではないなら、浅くダメージを受けてから倒せばいいが……紙袋マスク男の繰り出す攻撃はどれも急所狙いで一撃でも当たるとkillされて教会へ送られてしまう。

 防戦一方になってきた戦いだがーーーーついにその均衡が崩れてしまう。




「な、トリモチだと!?」




 攻撃を避けていたハイトだったが、右足がむにゅと何かを踏んだことに気付き、目線を向けるとトリモチが仕掛けられていて、それを踏んでしまっていた。

 トリモチはすぐ離れることが出来ず、この場に足止めをされてしまう。その隙に小斧がハイトの首へ向かおーーーー


「うぎゃぁっ!?」

「なっ、ルイス!?」


 その攻撃を止めたのは、ハイトが疑っている人物……ルイスだった。ルイスが溶解液を掛けたお陰で、ハイトの首は浅く斬られるだけで済んだ。ルイスはイエローになったが、本人はそれを気にすることはなくーー



「ハイト!」

「ッ、すまない!」

「がぁっ!」

「『ファイアランス』!!」


 イエローになったのはルイスだけではない。浅いが傷を付けた紙袋マスク男もイエローになっており、ハイト達はイエローになるリスクを負わずに攻撃することが出来るようになっていた。ハイトの大斧が胴体を切り裂き、トドメにレムの魔法が当たりーー光の粒へなって消えたのだった。

 PKプレイヤーを倒せた安堵に溜め息を吐くハイト達。




「ルイス、すまなーー……え?」




 ハイトはすぐイエローになったルイスの元へ向かい、疑っていたことや自分を守ってイエローにしてしまったことを謝ろうとした。だが、言葉の途中でルイスの背にあった大きな岩場を飛び降りてきた者にルイスの首を切り落とされてしまう。






「うひっ♪」






 その犯人はハイト達の敵、仮面ちゃんだった。


「る、ルイスぅぅぅぅぅ! 貴様ァァァァア!!」

「隙あり」


 怒りで冷静を無くしたハイトはヨミにとっては敵ではなく、首と四肢にナイフが刺さり、動けなくなっていた。


「ハイト!?」

「弱いわね。仲間を守れなかった弱者♪」

「ぐほぁ、貴様は……必ず殺す……」

「あら、怖いわね。うひっ」


 そういい、ドルマでハイトの首を切り落とした。killされたハイトは教会へ送られたのだったーーーー











「はっ!?」

「やられましたか。大丈夫ですか?」

「ルイス……」


 棺桶で寝ていたハイトはすぐ起き上がり、ルイスに向けて土下座をしていた。


「ハイト?」

「すまなかった……疑っていたばかりか不意討ちを許して殺させてしまったことを謝らせてくれ!」


 ルイスはイエローで殺された。教会でお金を払い、懺悔をすればイエローを取り消すことが出来た。お金は高額だが、ハイトが出すつもりだったが、その前に殺られてしまったことで、ルイスはいくつかのスキルのレベルが下がってしまった。


「いえ、僕は気にしていませんよ。でも、ハイトはそう言っても気にするのでしょう。責任と言う訳でもありませんが、僕は戦闘が苦手なので、少しばかりはレベル上げを手伝ってくれると嬉しいです」

「それぐらいなら任せろ。こんなことを今、言うことではないと思うが、フレンドになってくれないか?」

「いいですよ」


 ハイトの心境が変わっていた。疑いは消え、ルイスへの信頼が生まれていた。しばらくして、仲間達が教会へ死に戻りしたので、ルイスを含めたメンバーで反省会や対策を話し合うのだった。















(うひっ、策はなったかしら? ここからはルイス、貴方次第よ。ジュンは……まぁ、レベル上げを手伝ってあげればいいか)


 ヨミの目的はルイスに攻略陣営のプレイヤーの信頼を受けられるようにし、情報を得やすくするために、この茶番劇をしたのだ。ジュンにとっては…………巻き込まれ、死に損だったが悪役に誘ったのはジュンなので、ヨミは気にしてはいなかった。それどころか、軽い扱いで終わる可哀想な人だったーーーー








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