第40話 模擬戦 ルイスvsメリッサ
イベントが終わり、見事に掻き乱して見せたヨミはホクホク顔だった。そして、ヨミの側にはいつもの親友達が集まっていた。
今日はイベントも終わり、これからのことを相談する為に集まっていたのだ。
「ヨミちゃんはいい顔をしているわね……」
「そりゃ、結構稼げたんだからな」
「ええ、手当てがあった僕達はいいですが、やられた側のプレイヤー達は悲惨だったでしょうね」
イベントポイントを稼げなかったのはジュン達も同じだが、ヨミから他のプレイヤーが落としたアイテムや金を分けてくれたので、最終的にプラスになっている。
「はふぅ、いいね。PKはストレス解消に最適だよぉ……」
「別の理由でのホクホク顔でしたか。稼げたのは嬉しくないですか?」
「うーん、稼げたには稼げたけど、金の方は思ったより少なかったって感じかな?」
「そりゃ、防衛戦みたいな時に懐に大量の金を持つ馬鹿がいる訳ないだろ。もしもの為に、ギルドで預けることも出来るからな」
「……え、ギルドは銀行もやっていたの?」
「知らなかったの!? もしかして……、ヨミちゃんはいつも大量のお金を!?」
「うん、持っていたわ。教えて欲しかったわ……」
ヨミはギルドでお金を預けられることを知らないまま、いつも3000000ゼニ以上のお金を持っていたのだ。
「馬鹿なのか、大物なのか……」
「ジュン! 大物に決まっているでしょ!」
ヨミはそういい、無い胸を張るがジュンの眼は呆れしか浮かんでいなかった。
「まったく、何故、俺の周りには変な女しかいないんだか……」
「何よ、私までも変と言うつもり?」
「お前はメシマズ……それどころじゃなかったか。何と表現すればいいか、俺の頭では浮かばんわ」
「まだあのことを気にしているの? 本当に色々と小さい男ね」
「ち、小さくないわぃ!」
色々と小さいに反応したのか、キョドるジュン。これでまたメリッサがジュンを弄る挙動を与えることになったが……
「ジュンが小さいのはどうでもいいから、さっさと相談をしない? あと、なんでカフェじゃなくて、ここにしたの?」
ここは最初に集まったカフェではなく、プライベートフィールドと言う場所だ。ここは1つのパーティがギルドで申請すれば、体育館ぐらいの広さがあるフィールドへ移れる。そこに集めたのは、ジュンだ。
「この後だが、パーティを組んで大ボスへ挑もうかなと思ってな。だけど、俺達はお互いの戦い方を知らないだろ?」
「つまり、お互いが戦うことでどれだけの強さかを知ろうと?」
「そうだ。ステータスを見せ合うだけじゃ、足りないとこもあるだろ?」
ステータスには現れない強さ、技術もあるので、実際にパーティ内で戦い合うことで強さを知ろうとしているのだ。
「成る程。それで、ここを借りた訳ですか」
「別に普通のフィールドでやってもいいが、ヨミは困るだろ?」
「そうね、出来るだけ手は見せたくはないから。それで、まずは誰と誰でやる?」
「そうだな……ルイスとメリッサで。後に俺とヨミだ」
「そうですね。お互いは生産職を持っているので、純粋な戦闘職相手の2人と戦うのは厳しいでしょう」
メリッサは魔術師だが、最近は料理ばかりしていたのでモンスターはともかく、対人戦では後れを取ってしまうかもしれない。だから、力を見るだけならこの組み合わせがベストだ。
「それでいいわ」
「あ、そうだ! メリッサ、料理がレベル7と言っていたよな?」
「ええ、本当よ」
メリッサはそう言い、ステータスを見せてもらったのだがーーーーーー
「……|レベル-7(・・・・・)と出ているんだが?」
「えぇ、レベル7でしょ? 同じじゃない」
「全く違うわ!? でも、安心したぞ。あのメリッサが普通の料理を作れないのはシステム内でも同じだったな」
ジュンは心の底からメリッサが料理が出来るのを全く信じてはいなかった。むしろ、この結果に納得して笑顔を浮かべていた。
「それよりも、マイナスになるシステムなんて、ありましたか?」
「掲示板やHPを見たけど、そんなの書いてないよ?」
「あぁ、それは正規版から追加されたシステムだ。だから、まだ情報が広がっていないのは仕方がないさ」
現社員であるジュンはそれぐらいの情報は得られているようで、レベルマイナスについての詳細を知っていた。
レベルマイナスとは、スキルに見合わないことをやろうとすれば、デメリットという形でスキルの能力低下を引き起こしてしまう。例えば、武器が棍棒や槍なのに『剣術』でアーツスキルを無理矢理に発動しようとすれば、発動はしても威力が十分の一も下がってしまう。それを繰り返していれば、スキルレベルにマイナスに掛かってしまい、デメリットが永続して付いて回ってくる。
「つまり、お前はここなら、料理が出来ると信じてやったのはいいが、失敗続きで…………マイナスになるまで変な物を生み出し続けたのだろ!?」
「……(スッ)」
ジュンの言うとおりなのか、メリッサは眼を逸らしていた。
「マイナスって、いい結果を生み出さないならサブに控えた方がいいんじゃないの?」
「いや、料理ならそんなに悪い結果にならない筈だ。問題は何を生み出したかだ」
「……ルイス、さっさとやるわよ!」
「やれやれ、何が出てくるのだか」
これ以上、追及されたくはないのかメリッサが模擬戦を急かしていた。ここはHPが1以下になることはないので、パーティ仲間で戦い合って研鑽することが出来る。という訳で、ルイスとメリッサが向き合いーーーーーーお互いはアイテムボックスから何かを取り出した。
「僕のは毒を専門に、色々な毒を作ってみました。試した結果を見せてあげましょーーーーーーって、何ですか! それは!?」
「え、これ? 料理で作った物よ」
ルイスが出したのは、様々な毒の効果がある液体が入ったフラスコなのだが……メリッサの手にある黒くて丸い物に注目が集まっていた。その黒くて丸い物から変な煙が出ていて、その煙が紫色だった。それが料理で生み出したとは、言われるまでは誰も思わないだろう。
「っ、僕が作った毒は空気に触れると液体から気体になる効果もあります!」
「お、凄いな。まだ第1の街にいて、生み出すのは大変じゃなかったのか?」
「本来なら第2の街の近くにある森でしか取れない材料もありますが、ツテの商人から買えました」
空気に触れると液体から気体に変わる薬や毒はβ版でも使われていたが、第2の街に行かないと手に入らない材料もある。だが、そこは仲良くなったNPCの商人から買うことで解決していた。
「ぶつけ合えば、どうなるのかしら?」
「確か……毒ならぶつけ合った瞬間に強い毒が生き残り、片方は消え去る筈だったな」
「毒と断定したわね? あんたは」
「他にあるか!? あの禍々しい物は!!」
ジュンは料理がマイナスになれば、『ポイズンクッキング』という称号を手に入れることが出来るのを知っていた。だから、毒だと判断していた。
しかし、メリッサが作り出した物は毒と言うには甘い代物ではなかった。
「行くわよ!」
「あぁ……」
ルイスは自分が作った毒に自信はあった。だが、自分の勘が警鐘を鳴らしていた。だから…………
ルイスは投げた後に…………この場から全力で逃げるように走り出していた。投げた後に、結果を見る前に逃走するとは思わなかった3人は呆気に取られていたが、ルイスの行動が正しかったのを後の結果から知ることになる。
2人の間でフラスコと黒くて丸い物かぶつかった瞬間に、フラスコが割れて液体の毒が気体の毒ガスへ変わる前にーーーーーー
一瞬でルイスの毒ガスが消え去っていた。何故なら、メリッサの黒くて丸い物が爆発して、前方に勢いよく紫色の煙が吹き出して飲み込んだからだ。更に先程までルイスがいた場所をも飲み込むオマケ付きだ。
「なんだそりゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「ルイスはファインプレーだったわね……多分、私でも爆発した瞬間から逃げても遅かったと思うわ」
「逃げて良かったと、心の底から思いました……あれを喰らうとどんな効果が出るのだか……」
「おい! あの禍々しい物をまだ持っているなら、見せてみろ!!」
「あら、いいけど?」
まだ持っていたようで、アイテムからアレを出していた。しかも、1人に1個ずつも。ヨミも黒くて丸い物を受け取り、効果を見ると絶句した。
ダークマターα レア度:A
たmdjhw1まgtmpgqb7g5らpjhajtn。
バグっているーーーーー!!
「おい! バグっているじゃねぇか!? どうしたら、こんなの作れるんだよ!? ちゃんと、GMに連絡したか!?」
「してないわ」
「しろよ! まさか、これを他で使ってないよな?」
「使ってないわ。今回が初めてよ」
「……はぁ、使ってないならいい。もし、ルイスが逃げなかったら、キャラにシステムのバグを起こされていた可能性が高かったぞ!!」
「……状態異常になるだけで済まなかったのですか。逃げて良かったです……」
「そうだったの? ルイス、ごめんね」
「ごめんで済む話じゃないぞ……これは。とにかく、GMに連絡して、修正して貰うからな」
結果、模擬戦はバグがある危険物を使ったことで、メリッサの反則負けになるのだった。別に勝負をしている訳でもないが、そう言いたくなるジュンだった。
ちなみに、ダークマターαはGMに連絡して、きちんと修正してもらった。これでバグのない、システムに沿ったアイテムになったが、レア度:Aのままで効果は紫色の煙を浴びた者は必ず500ダメージを与えて、猛毒状態と麻痺状態になる、強力なアイテムになるのだった…………
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