その109 明と暗

「はーい、フォルスおいでー!」

「ぴゅー♪」


 セリカとフォルスが元気よく庭でトレーニングをしているのを尻目に、俺は似顔絵を確認していた。ちなみにフラメとヴィント、それとシュネルは仲良く腹を出して寝ている。

 それも無理はなく、レスバに似顔絵を頼んでから現在三日が経過したのだが、ヴィントとシュネルにあちこち飛んでもらっているからだ。

 相手がドラゴンの姿であれば飛んでいれば分かるだろうと、フォルゲイト国全土とこの王都を往復している。

 そこまできつく無いと言うが、フォルスの相手をできないくらいには休息を必要としていた。

 フラメは飛ばないが、視認と気配察知のため精神力を削っているためやはり疲労していた。


「ぴゅーい」

「ダメよ、みんな疲れているから今日はお休みなんだから」

「ぴゅー」


 寝ているフラメにちょっかいを出そうとしたフォルスをセリカが抱き上げて阻止する。一日ゴロゴロしていれば回復するらしいので今日は休息日にした。

 だが、フォルスはつまらないのかご機嫌斜めである。セリカがあやしているのを尻目に、俺は正面に座るレスバに話しかけた。


「しかし、似顔絵はあくまでも絵だからなあ。レスバの記憶頼りだが大丈夫なのか?」

「任せてください。絵心はありませんが、記憶には自信があります。お得意さんは顔を覚えないとやってられない商売ですからねえ」


 腕のいい絵師がいたようで、かなり精巧な似顔絵だった。後はこれが本当に実在するかだな。


「……こんなイケメンがいるのか?」

「わたしの目を疑うんですか! 間違いなくこういう顔でした!」

「しかし現実離れをしているというか……」

「ラッヘさんも負けずにカッコイイじゃない」

「ぴゅい」

「……」


 個人の審美眼というやつだから信用が薄いというか、今セリカが言ったとおりだ。俺は別にかっこいいと思っていないがセリカにはそう映る。

 まあ、こればかりは仕方ない。

 恐怖のあまり初めて見た魔物があまりにも現実とかけ離れた姿だったという例もあるし、五割くらいで見ておこう。髪型に特徴もあるから探せるはずだ。


「そういえばフェーンさんは?」

「町に居るはずだ。しばらくしたら他の町に調査しにいくらしい」

「そうなんですね」

「気になるの? まあまあかっこいい人だったしね」

「わ、わたしはぁ! ラッヘさん一筋ですからぁ!」


 セリカがニヤリと笑う中、レスバは焦っているのか声が上ずっていた。いっそそっちを追いかけてくれた方が助かるんだけどな?


◆ ◇ ◆


【……】

「やけにドラゴンが飛んでいたな? それも正気だったみたいだぜ」

【わかっている。一体なにが起こっている?】

「お前でもわからねえのか? ……ぐっ!?」

【口の利き方に気をつけろ、ヒュージ。貴様と私は対等ではない】

「チッ……わかったよ」


 街道を歩くのは人の姿をした黒いドラゴンと、禍々しい色をした鎧と剣を持ったヒュージだった。いつものように軽い口を叩く。

 しかし黒いドラゴンはそのことに対して釘をさすようにヒュージの首を締め上げた。

 腕だけ少しドラゴンに戻していて、その力は人間を遥かに凌駕している。

 冷や汗をかきながら承諾した彼を地面に落とすと、黒いドラゴンはそのまま踵を返して歩き出す。


「どうするんだ?」

【次にドラゴンを見かけたらそいつを追う。必ずどこかに拠点があるはずだ】

「なるほど」


 ラッヘ達が探している黒いドラゴンは、奇しくもラッヘ達の存在に気付いた形になった。

 ヴィントが襲ったレツトの町近くの街道から広い草原へ出ていく。


【(ウインドドラゴンが飛んでいたが、あれは私が嗾けた個体だったはずだ。正気に戻ったということか? 翼竜ワイバーンもすれ違ったが町や人間を襲う気配はない……私の生み出した病原菌は例えカイザードラゴンとて狂わせる。ウインドドラゴンと戦ったフレイムドラゴンも自分の意思を持っていたようだが、人間に与するとも思えない。本当になにが起こっているのだ?)】


 今日は来ないなと空を見上げてそんなことを考える黒いドラゴン。

 適当に歩くのも悪くないかと鼻をならした。


「なあ、聞き忘れていたけどあんたの最終目標ってのはなんだ?」

【ん? まあ、お前と似たようなものだ。ドラゴンにも強さにバラつきがあるが、その中でも最強と言われる存在がいる。それがカイザードラゴン】

「そいつを倒すのが?」

【そう、それが目的だ。確かに力では敵わないが、私には病原菌がある。理性を失くした者を狩るのはそれほど難しくない】

「最強になりたいってことか」


 ヒュージが口笛を鳴らして笑うと、黒いドラゴンも首だけ振り返って口元に笑みを浮かべた。


【そうだな。卑怯などと言うまいな? あらゆる手段を使ってこそ戦いというものだろう】

「もちろんだ。俺だって滅竜士ドラゴンバスターを目指していたが、今はあんたの力を借りているしな」

【私以外のドラゴンは血筋以外必要ない。強き雌だけ居ればいい。だからこそ、滅竜士ドラゴンバスターは役に立つと思ったのだ】

「へへ、任せてくれ。名声と金のためにな。そういや名前は無いのか? あんたってのも悪い気がするぜ」

【名など必要ない。私はブラックドラゴン。人はダークドラゴンやシャドウドラゴンなどとも呼ぶがな】

「ならブラックドラゴンだな」

【それでいい。行くぞ――】


 そんな会話を重ねて二人は進む。


 そして――

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