その92 なぜ彼が最強と呼ばれるのか

「あれはドラゴン……!」

「我々が調査した個体です! どうして町へ」

「と、とにかく迎撃を!」


 空に浮かぶ緑色のドラゴンを見て場が騒然となる。まずは迎撃をすると声を上げているが、俺はギラーサさんの肩を掴んで言う。


「落ち着くんだ。まずは住民の避難を優先させよう」

「ラッヘさん……! そ、そうだな! すまない」


 ギラーサさんは深呼吸をした後、付近に居た人へ建物に隠れるよう指示を出した。冒険者は警戒をしながらそれに従う。


【あれは翼竜ワイバーンか】

「知っているのかフラメ」

「トカゲが喋った……!?」

「ラッヘさんそのトカゲは一体?」


 喧騒の中、フラメが目を細めて口を開くのをヒュージとギラーサさんが聞いていた。説明するより早くフラメが続きを口にする。


翼竜ワイバーンはドラゴン種族だが、中程度の強さしかない。ラッヘなら接敵すれば難なく倒せるだろう】

「中程度だと? かなり強かったのに適当言うんじゃねえよ」

「ん? ヒュージ、お前、今なんと――」


 ギラーサさんが怪訝な顔でヒュージに問いかけようとしたその時、フラメが叫んだ。


【いかん! ヤツは口から炎弾を放ってくるつもりだ!】

「セリカ、パティを連れてここから離れるんだ」

「ラッヘさんは?」

「剣はある。なんとかなるだろう」

【狙いはそこの小僧のようだ。避けろよ、ヤツの弾は当たると体が痺れて動けなくなる。そこを捕食するのだ。それと尻尾は毒がある。致死性ではないが、気を付けるのだ】

「なんでそんなことまで……!?」

「来るぞ!」


 ギラーサさんが叫びながらその場を離れ、ヒュージも慌てて移動する。

 上を見ると翼竜ワイバーンの口から大きな塊が出て来たのが見えた。


【どうする気だ?】

「まあ、あれくらいなら――」

「ラッヘさん……!?」

「なにやってんだおっさん!?」


 一応、帯剣はしているので鎧は無くても攻撃はできる。弾の大きさもフラメの『口から炎』に比べたらそうでもないので――


「……せいっ!」


 ――飛んできた炎弾を正面から割った。


「な!?」

「なるほど、このドロッとしたヤツが痺れを誘発させてくるのか」

「あれを斬るのかよ……!?」


 左右に割れて地面に落ちた弾を見てなんとなく分析ができた。ギラーサさんとヒュージが驚いている中、フラメが言う。


【そういえばその剣……】

「ん? なんだ?」

【いや、いい。さて、ヤツはそれほど強くないとはいえ、飛行能力はオレよりも上だ。どうする?】


 相変わらず他をただ過小評価しないフラメである。なるほど、飛行能力だけならフレイムドラゴンよりは上か。


「お、おい、まだ来るぞ!」

「当たらなかったから怒っているのか? ……というかお前、狙われていないか?」

「し、知るかよ……!」

「まあいいか。とりあえず引きずりおろすところからやるか」


 俺は二人を置いて一番高い建物を目指して走り出す。

 それでも翼竜ワイバーンは俺ではなくヒュージに向かって炎弾を吐いているな?

 

「それならそれで」

【オレがでかくなるか?】

「騒ぎが大きくなるからやめとこう。なあに、お前と戦った時に手は考えてある」


 一番高い建物は教会で、鐘がついているよくあるタイプの教会である。

 鐘の上にある屋根に上ると、フラメを入れているカバンからとある袋を取り出した。


【そいつは?】

「魔法を込めた結晶だ。元々こういうアイテムは売っているんだが、アイラと過ごしている時にちょっと実験で作ってもらったんだ。お前の時にライディングを使ったが、あれはかなり近距離でないと意味がない。だから――」


 俺は結晶に魔力を込めると、それを翼竜ワイバーンに向かって投擲をした。

 結晶は真っすぐ飛んでいき、こちらに気付いていないヤツの近くまで飛んで行ったところで――


「ブレイク……!」

【ギュァァァァ!?】


 俺がぐっと拳を握りこむと翼竜ワイバーンの近くで爆散した。爆炎魔力を込めた結晶だが近距離で爆破すれば流石にびっくりするし、ダメージはある。

 こいつは単純に魔力だけを込めた爆裂結晶にすることもできる。

 ライティングを込めて目くらましも出来るので応用力が高いのだ。


【さすがラッヘだな】

「簡単に倒せるとは思っちゃいないし、死にたくないからな。よし、落ちたな。ちょっと殴りに行くぞ」


 家屋の屋根に落ちた後、ずるりと地面に落ちるのが見えたので俺は一気に下へ降りて現場へ向かう。

 地上に降りて喧騒が起こっている中を駆け抜けていく。翼竜ワイバーンが落ちた近くに差し掛かったところでセリカやギラーサさん、ヒュージや冒険者が現れた。


「ラッヘさん!」

「セリカ。パティは?」

「大丈夫、家に置いて来たわ。鎧着る?」

「ガントレットだけ頼む。……よし、フォルス、来い」

「ぴゅいっ!!」


 フォルスを呼ぶと元気よく俺の胸元へ飛んできた。ポケットに入れてからそのまま起き上がろうとしている翼竜ワイバーンの下へ。


【グルァァァ……!】

「目が赤い。やはりこいつも」

【ああ、竜鬱症とやらだな。どこかを傷つけてからフォルスの唾液を流し込めばあるいは】


 治るかも、とフラメは言う。

 絶対ではないため「あるいは」とフラメは最後につけくわえた。

 さて、こいつは話が通じるのかね? 

 まずは無力化するところからかと、起き上がった翼竜ワイバーンに接近する。


【ゴァァ!】

「ハッ!」

「嘘だろ……!?」


 強力そうな顎で噛みついてきたが、ガントレットをつけた拳を下から突き上げてやり、大きく頭が持ち上がる。


【ゴガァ!? ガァァァ!】

「やはり頑丈だな、抜くしかないか」

【羽は少し可哀想だがな】


 飛ぶことがアイデンティティらしいので意識が戻って羽が使えなくなっていたら絶望するかもということらしい。

 仕方ないなと思いつつ、少し浮いて足の爪で攻撃してきた翼竜ワイバーンの一撃を避けて剣を振るう。


【ギャゥ……!?】


 爪の先を切り落とし、そのまま羽と胴体の付け根へ剣を向けた。


「ん? こいつすでにケガをしている?」


 よく分からないがすでに傷があることを確認した。なにかあったのかもしれないが、ひとまず止めるかと拳を傷口に叩きこんだ。

 

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