その91 お散歩ドラゴンとお買い物

「結果はまだ出ないみたいだし、散歩でもするか」

「さんせーい! 今日は雑貨とかのショッピングしてもいい?」

「いいぞ」

「パティも行く?」

「いくー!」


 昨晩は楽しく過ごせた俺達は庭でのんびりしていた。

 今は戦う時ではないため、やることも無いため町を散策してみようと思った。

 セリカとパティも仲良くなったのは良かったよ。


「ぴゅーい?」

「ジョー達はお留守番ね。町中を馬で散歩はしないから」

「ぴゅー……」

「ぶるる」


 一緒に行きたかったらしいフォルスがジョー達の顔を不満げに撫でていた。

 

【ふむ、オレ達も行っていいのか? 知られたら面倒ではないか?】

「胸ポケットに入れていればいいんじゃないか? お前はいつも通り巾着で」

【まあラッヘがいいなら構わないが】


 確かにいつもなら俺が気にするところだが、割と今更な感じもするし喋らなければトカゲのペット枠として認識してもらえると思う。

 なんとなく置いていくのは嫌だった。


「よし、それじゃ行くか。昼飯は帰ってからみんなで食べよう」

「ぴゅいー♪」


 ということで軽く散歩に出ることに。

 グレリアに断りを入れてから外に出て散策を始める。


「パティが案内するよ!」

「あら、町によくでるの?」

「パパとママと一緒にお買い物するから!」

「ならパティにお願いしようか」

「ぴゅー!」

【ぴゅい】


 喜ぶフォルスに追従してフラメがなんか言った。俺は訝しんだ顔で尋ねる。


「……なんだそれは」

【いや、黙ったままだと変かと思ってな】

「下手に鳴くより無言の方がいいと思うわ」

「そうだな。ちょっとぴゅいぴゅいするには声が太い」

【そうか……】


 ちょっと残念そうなフラメはさておき、手を繋いだセリカとパティを前にして歩き出す。

 穏やかな朝は市場が賑わっており、昨日の専門の店とはまた違った趣があった。


「採って来たばかりのキノコはいかがかねー」

「そこのお嬢さん、珍しい石でできたネックレスなんてどうだい?」

「あ、フォルスと同じでキレイな翡翠色ね」

「ぴゅーい♪」

「フォルスちゃんの毛はふさふさだよねー」


 早速、露店の人間に引き止められて商品を勧められていた。

 基本的に冷やかしオッケーなところが多く、しつこく売りにこようとはしてこない。品物に自信があるからだろう。


「そういえばフォルスの母親の玉を加工してもらうのを忘れてたな」

「あ、そういえば首飾りを作るんだっけ?」

「だな。まあ、こういうのでもいいか。一つ貰えるか? そっちの指輪も頼む」

「お、兄さん太っ腹だねえ。おまけだ、そのチビトカゲに首飾りをやろう。ちょっと加工するから待ってな」


 露店の親父さんが笑いながらそういい、翡翠色の指輪はセリカに、ネックレスはパティに、そして小さいネックレスがフォルスに与えられた。


「わーい! フォルスちゃんとお揃いー」

「ぴゅーい♪」

「ラッヘさん、ありがと♪ 実質、結婚指輪かも」

「……そこまでは考えていなかったな」


 となるとアイラにも買っていかなければならないか。しかしこの露店にはもう指輪が無いので別のところだな。


「毎度!」

「ありがとう。また機会があれば」


 そう告げてその場を離れた。そこで俺のカバンに入っているフラメがポツリと呟いた。


【オレのは……?】

「欲しいのか……!? ま、まあ、別の店になにかあれば買ってやるよ」

【そうか】


 俺が呆れながら答えると『~♪』と鼻歌らしきものを鳴らしていた。意外と俗っぽい奴である。

 その後も続けて露店を物色し、置物の人形や謎の木の実などを買った。


【~♪】

「その木の実はなんなんだ……? やたらでかいけど」

「食べられるの?」

【うむ。これはとても酸っぱい木の実でな、目を覚ます時によく食べていたのだ。まさか人間の店に置いてあるとはな】

「ぴゅーい?」

【後で食わせてやろう。なかなかいけるぞ。人間にはきついと思うが、なにに使うのだろうな】

「調味料とかかしら? 木の実の汁を混ぜ合わせてソースを作ったりするし」

【興味深いな】


 謎の木の実はフラメが正体を知っているということで買ってみたのだが予想外にテンションが高い。ドラゴンは謎の生き物である。そういやキャベツが好きなんだから果物も食べるのかと納得する部分はあるか。


「次、こっち!」

「いいわよ。なにがあるのかなぁ?」


 パティはセリカの手を引きながら次の場所へと行くため角を曲がる。するとどこかざわついている雰囲気に遭遇した。


「なんだか物々しいわね?」

「冒険者さんがいっぱいだね」

「ぴゅー」


 人が多いところに出くわしたのでフォルスがセリカのポケットに潜り込んで顔だけで周囲を確認している。

 

「あのー、どうしたんですか?」

「ん? ああ、ドラゴンが近くの森に降り立ったという情報があってね。調査を入れたら確かにいたと報告があったんだ」

「……!」

「どんな姿かわかるか?」

「ええっと確か――」


 セリカが近くに居た冒険者を摑まえて事情を尋ねると興味深い話が返って来た。

 仇のドラゴンか、そうでなくとも竜鬱症にかかっているなら治す方向でいきたい。

 姿かたちがどうか確認していると、ギルドから体躯の大きな男が出てきた。

 こちらに気付くと真っすぐ俺の方に向かってきた。


「……! ラッヘさんじゃないか!」

「え!? この人が噂の!?」

「久しぶりです、ギラーサさん。ドラゴンが出たとか?」


 出て来たのはギルドマスターのギラーサさんだった。話しかけた冒険者がギラーサさんと俺を見比べながら驚いているが、今はそれどころじゃない。


「そうなんだよ。しかしここでラッヘさんがいるとはついている。あなたが居れば撃退もできよう」

「手伝っても?」

「こちらからお願いしたいくらいだ。皆、聞いてくれ! 滅竜士のラッヘ殿が参戦してくれるそうだ!」

「「「「おおおおお!」」」」


 ギラーサさんの言葉に周囲が色めき立つ。まあ、そこまで喜ばれるほどではないんだけどな。


「ふ、これで士気が高まる。そういえばヒュージとかいう奴は?」

「そういえば姿が見えないですね」


 と、冒険者が返したところで不意に声がかかった。


「俺ぁ居るぜ? ドラゴン討伐、参加させてもらう」

「……居たのか。まあいい、実績のあるラッヘさんが一緒に戦ってくれるそうだ。滅竜士になりたいなら勉強させてもらえ」

「チッ、そんなおっさんに学ぶことなんてねえよ」

「相変わらず最悪ねえ」

「へへ、俺が最強だってことだ。俺がドラゴンを倒したら付き合ってくれよ、な?」

「お断りよ。強いだけが正しいわけじゃないもの」

「ああ? どういう――」


 ヒュージがセリカにあしらわれているところで、巾着フラメがカッと目を見開いて空を見上げた。


【ラッヘ、上だ!】

「なに……!」

「な、なんで……!?」


 見上げた空。

 そこには薄いみどりの鱗をまとったドラゴンがこちらを見下ろしていた。

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