その87 再び出てくる自称さん
「広い町ねえ」
「エムーン国の王都に次ぐ大きさの町だからな。ほら、こういうのは見たことがないだろ」
「あ、うんうん」
「ぴゅー」
俺とセリカはギルドには立ち寄らず、商店街を目指した。
他国ということでフォルゲイト国にはない珍しいものもあり、セリカが目を輝かせていた。
ポケットから顔を出しているフォルスはぐっすりである。念のため帽子を被せているからトカゲのペットにしかみえないはずだ。
「お、肉の店があったぞ」
【(ふむ、あの白い筋が多いやつがいいな)】
「お目が高いな」
「さすがフラメね」
店頭には冷魔法のかかったショーケースに、美味しそうな肉がずらりと並ぶ。
フラメが目をつけたのは狂暴だが、肉が美味しい『フィアバッファロー』の霜降り肉だ。100
貴族のメイド、稼いだ冒険者のご褒美、レストランなどが買っていき、平民はお祝いの時くらいしか口に出来ない。それを直感で選んだのでセリカが感心していた。
「すまない、フィアバッファローの霜降り肉を500、ロースを500もらえるか?」
「いらっしゃい! これはお目が高いですな。……結構いいお値段ですが」
「問題ない」
俺が財布の金を見せると、肉屋の店主はごくりと喉を鳴らした後、上客だと判断しニコリと微笑んだ。
「ステーキなら付け合わせの野菜も欲しいわね」
「キャベツだな」
【(うむ。それとあの美味い飲み物も欲しい)】
小声で要求してくる巾着ドラゴン。どうやらドラゴンフルーツの酒が飲みたいらしい。あまり贅沢を言わないできたドラゴンだ。
「なら次は八百屋と酒屋だな」
「ウチの知り合いがやっている八百屋があるからそこで買ってくれると嬉しいね。そこの角を曲がったところすぐだ」
「なら行ってみますね! はい、お代」
「毎度! ここらへんじゃ見たことないが冒険者かい? 羽振りがいいねえ」
「まあ、そんなところだ。今はグレリアのところで世話になっている」
「ああ、あの家の」
肉屋の親父はセリカに肉を渡しながら商売上手なことを口にする。
俺はフラメを抱えているので手の空いているセリカが受け取りと支払いをしてくれた。
「さて、次はっと」
肉を受け取り八百屋、酒屋と回り必要な食材を買い進めていく。夜はこれで豪勢な食事ができるだろう。
「後はなにか居るかな?」
【フォルスにヤギのシチューはどうだ?】
「あ、いいかも」
広場を歩いている時にセリカが俺の手元に居るフラメに話しかけると、フォルスの好物を示唆していた。となると後はミルクだなと思っていると、
「なんだこいつ!」
「くちがでけえ!」
「こわい……でも喋ってたよね……」
「お?」
【む?】
広場で遊んでいた子供たちが群がって来た。どうもフラメが喋っていたのが聞こえていたらしい。
【なんだ? オレの口がどうした?】
「やっぱ喋った!? なあなあ、お前はなんだ?」
【オレはフラメという。見ての通り……いや、トカゲの王だ】
「王!? なんかかっこいいな!」
喋っているのが聞かれたのはあまり良くないが、まあ子供ならいいか?
ドラゴンとは言わず、トカゲと言ったが王と言うあたり譲れないものはあるようだ。すまないな。
「な、なんでトカゲさんが喋れるの……?」
そこで女の子が恐る恐る話しかけていた。フラメは目を閉じてから少し考えて口と目を開く。
【魔物は長く生きると喋れるようになるのだ】
「へえ! そうなんだ!」
【うむ。そしてこの男のおかげでオレはこうして生きていられる。友達だな】
「友達……兄ちゃんそうなの?」
フラメが得意げに鼻を鳴らして俺に上目を向ける。子供が疑わしいと俺に聞いてくるが、その子の頭に手を置いて応えてやる。
「こいつは俺の友達で間違いないぞ。お前達も友達は大事にするんだぞ?」
「本当にそうなんだ! 魔物と友達ってすげえな!」
「撫でていいか?」
【構わんぞ】
「ごつごつしてるー!」
【はっはっは、尖っているところは気を付けるのだぞ】
巾着状態なので手足は包まれたままなため、顔を撫でまわされるフラメ。
おおらかな話し方なので子供たちも警戒をしないようだ。
「ぴゅ……ぴゅい?」
「あら、フォルス起きたの?」
「わ! 小さいトカゲさん! こっちの方が可愛い!」
そこで騒ぎに気付いたフォルスが顔を覗かせた。こちらも帽子をきちんと被っているのでトカゲんに見えているみたいだ。
「ぴゅい!?」
「ああ、引っ込んだ……」
「赤ちゃんだから大きな声を出すと怖がるの。ごめんね」
【すまないな。オレで我慢してくれ。少し前、悪い人間に連れ去られたことがあったんだ。知らない人間についていってはダメだぞ?】
「俺が言おうと思ったのに」
「「「うん……!」」」
「ぴゅいー」
三人の子供たちはフラメの言葉に頷いていた。フラメが構われて嫉妬していたようだけど、フォルスは怖いから出られなかった。
「ばいばーい!」
「王様またねー!」
「気を付けて帰るのよー」
「ふう、子供は元気がいいな」
【フォルスもよく遊ぶしな。まあ、こんなものだろう】
「お疲れ様フラメ♪ フォルスは帰ったらジョー達と遊びましょうね」
「ぴゅいー♪」
ようやく子供たちから解放された俺達はミルクを買ってそろそろ帰るかと再び歩き出す。
すると――
「あ! 君は……!」
「げっ!?」
「お前は……」
【ふむ】
――ヒュージという自称、
「奇遇だな! 君もこの町に来ていたのか」
「たまたまね? それじゃ」
セリカに声をかけてくるヒュージだが、もちろん相手にする気はない。
俺の手をとって歩こうとしたところで回り込んで来た。
「この前も言ったけど、そんな冴えないおっさんより俺の方がいいって。変なトカゲを抱えているし、どう見てもまともじゃないだろ」
そういわれたセリカは目を細めると、指をつきつけてから口を開いた。
「自分の勝手な考えを押し付けないで欲しいわね? というか滅竜士を名乗っていてラッヘさんを知らないの? この人がそうなんだけど? あんたより全然強いし頼りになるっての!」
その剣幕にやや押されていたが、俺がラッヘだと知ると今度は俺に視線を向けて来た。
「……へえ、アンタが滅竜士のラッヘか。噂は聞いているぜ? 一人でドラゴンを倒せる貴重な戦力だってな」
「まあ、貴重かどうかは知らないけどな」
「ふん、でもアンタの時代はもう終わりさ。ここにアンタより若くて、ドラゴンを倒せる人間がいるんだからな!」
そう言ってヒュージが親指で自分を示唆して笑っていた。それが本当なら心強い限りだ。
「そうなのか。ドラゴンは強力だから倒せるだけの力がある者がいると町の人達が安心できる。よろしく頼むよ」
「くく、その余裕がいつまでもつかな? 君、名前は?」
「セリカだけど」
「いい名前だ。セリカがアンタに愛想尽かす日も近いぜ。またな」
肩を竦めてからヒュージが踵を返して立ち去って行った。
「なによあいつ。馬鹿なんじゃない?」
【ラッヘと知ってあの余裕か。全然強そうじゃないんだがあの自信はどこからくるのか】
「ぴゅーい!」
フラメが珍しく呆れた目でヒュージの背を見ていたのが面白かった。あんまりネガティブな発言が無いので、こいつなりにあいつの言葉に不満を覚えていたのかもしれないな。
「ま、俺が気にすることはなにもない。ミルクを買って帰ろう」
「うん!」
まあ偶然に会うこともそうないだろう。そう思っていると……
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