その53 ついにすれ違う
「これ、本当に楽しみになってきた」
「ふう、これだけあればいいだろう。……あいつにも食料とか買っていってやるか」
「あ、鍛冶の人?」
「ああ」
装備を頼む相手は山暮らしをずっと続けていて町に降りてくることは滅多にない。
なので町の食料品なんかを買っていくと結構喜んでくれるのである。
ひとまず適当な衣料・食料・薬なんかがあればいいか。
「ぴゅいぴゅい」
「ん? どうしたフォルス」
「ぴゅーい」
倉庫内なら大丈夫かと離しておいたフォルスが。とあるドラゴンの爪をぺちぺちと叩きながらぴゅいぴゅいしていた。
どうしたのかと思って近づいてみるとヒビが入っているのが分かった。
「なんだろう、痛そうとか思ったのかな?」
「どうだろうな。……ふむ、母ドラゴンの玉をお守りにしようと思ったけど、あれは加工しにくいし、こいつをフォルスにやるか」
ひびが入っているので小さくすれば首飾りくらいになるだろう。これも持って行くとしよう。
「ぴゅーい♪」
「お? 貸してくれフォルス。俺が持っておくよ」
「ぴゅい!」
「あら、珍しく拒否したわね」
子供がおもちゃを盗られまいとするように、しっかりと抱き着いて俺達から隠そうとする。セリカの言う通りこういう行動は珍しいな。
「なんか気に入ったのかもしれないな」
「なにドラゴンの爪?」
「えっと……こいつはなんだったかな。確かかなりでかかった覚えはある。そういえば劣化しているけど母ドラゴンの色に似ていたかもしれん」
「へえ。ということは同族?」
「ドラゴン同士ならだいたい同族なんじゃないのか……? いや、わからんけど」
爪を抱っこしたフォルスを摘まみ上げて頭に載せる。懐では爪が大きいので入れにくいからな。
爪といっても先っぽだけなんだけど、やはりドラゴンのものなのでフォルスと一緒だとかなり膨らんでしまう。
「もうちょっと短くして首飾りかなあ」
「いいかもね。それじゃ一旦出る?」
「そうしよう」
というわけでアクアドラゴンの素材一式を載せた荷台を入り口付近に置いてから倉庫の鍵をかけた。
そのままカルバーキンのところへ行って鍵を返す。
「毎度」
「明日の早朝にまた来る。馬を用意しておいてくれ」
「オッケーだよ。それじゃ」
「ああ」
「ぴゅい」
「可愛い」
カルバーキンが笑顔で手を軽く振り、俺も返すと、頭上のフォルスも真似をしているようだった。セリカとカルバーキンの顔が綻ぶ。
そのまま踵を返してギルドを出る。
「おっと!? ……どいてください!!」
「わ!?」
「おっと」
「チッ、カップルの冒険者ですか……? 気を付けてくださいね!」
すると扉を出る時に入れ違いで眼鏡をかけた女性が俺とセリカの間にぶつかってきた。女性は俺達を見た後、舌打ちをしてから怒声を浴びせて中へと入っていった。
「なによ自分も気をつけなさいよ!」
「まあいいさ。ケガはないか?」
「うん。まったく、失礼しちゃう!」
「ぴゅいぴゅい」
セリカが振り返って怒っているとフォルスがまたぴゅいぴゅいしていた。どうも『まあまあ』みたいなノリのようだ。
「ま、いいだろ。ひとまず買い物に行こう」
「さんせーい!」
「ぴゅーい!」
嫌なことはさっさと忘れるに限る。俺はセリカの手を取って商店街へ歩き出す。町案内を兼ねてもいいだろう。
◆ ◇ ◆
「すみませんお尋ねしたいのですが」
「ん? ええ、なんでしょう」
ギルドへやってきたスレバがカルバーキンに話しかけた。快く応対した彼に満足したスレバは眼鏡の位置を直しながらギルドカードをスッと差し出す。
「商人のスレバと申します。この町には何度か足を運ばせていただいております」
「へえ、東の『陽照』出身とは珍しいね。それでご用件は? 買い取りかな?」
内容を確認したカルバーキンがカードを返しながら尋ねると、スレバはニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「情報が欲しくて。
この大きな町になら来ていないかと」
スラスラと目的を話し、ラッヘについてなにか知らないかと口を開く。
あまり期待していないスレバだったが、カルバーキンはにっこりと笑ってから小さく頷いた。
「ラッヘさんに頼みごとかい? さっきまで裏の倉庫で作業していたけど、今しがた鍵を返してもらってギルドを去ったところだよ」
「なんですって……!?」
「うお……!?」
隣で受付をしていたおじさん冒険者が困惑するほどの速度で、スレバがぎゅるんと回転して入口に目をやる。そこで肩を竦めたカルバーキンが言う。
「ちょうど君がここへ来る前だから、入れ違いになったかな? ラッヘさんの顔を知っているのかい?」
「いえ! 噂とお金持ちであることだけしか!」
「そ、そう。まあ、えっと特徴は――」
「こうしちゃいられません! すぐ追います! 情報、ありがとうございます!!」
スレバはサッとカルバーキンの方へ向き直ってお辞儀をすると、とんでもない速さで走り出す――
「ぐあ!?」
「な、なんだ!?」
「魔物か!?」
――冒険者に体当たりをしながら。驚くべきは華奢な体をしているにも関わらず、鎧をまとった男達がよろめいていることだろう。
それを見たカルバーキンは近くの冒険者と顔を見合わせてから口を開く。
「……ラッヘさんに何の用なんだろうねえ」
「ロクでもねえ姉ちゃんな気がするな。監視しておいた方がいいんじゃないか……?」
「ふむ……」
カルバーキンは開かれた扉を見ながら腕組みをするのだった。
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