その46 また会う日まで
「聞いたぞ! もう出発するのか!?」
「後一日くらい良いのではありませんか?」
「僕もフォルスと遊びたいよ……!」
王子は素直だなあ。
というわけで昨日の夕方に報告が来たため、朝イチで出発の準備をしている。
……ところで陛下達が慌てた様子でやってきたのだ。お城から全員出てきて大丈夫なのだろうか?
もう一日だけでもと懇願する一家だが、
「王子には一昨日告げていたはずですよ? 解体が終わったらまた旅に出ると」
「そ、そうだけど、ちょっと慣れてきたところでお別れは酷いじゃないか……!」
昨日の時点でフォルスを構い倒していたエリード王子も『あまり怖くない人』になったようで、指の甘噛みくらいはしてくれるようになっていたのでそう思うのかもしれない。
「そう言われてもセリカの装備も作らないといけないし、情報も集めないといけませんからね」
「むう……」
「ああ……」
陛下は俺が、王妃様はフォルスが居なくなることでいくら赤ちゃんとはいえ、一応ドラゴンで禁忌の存在なんだが……そう考えていると、セリカが苦笑しながら言う。
「あはは、また戻ってくることもありますしその時また可愛がってください!」
「そう……そうですわね……」
「母上が諦めた……!? くっ、なら僕もわがままをいう訳にはいかない……」
「仕方ない。ドラゴンの脅威はどこにあるかわからないからな。くれぐれも気を付けるのだぞ」
「それは私のセリフでもありますが……」
とりあえずセリカがまた帰ってくるという旨を伝えると、王妃様が折れてくれた。
王子と陛下も首を振りつつも仕方がないと覚悟を決めたようだ。
逆に言えば一家そろって冒険者の屋敷に来ることの方が危ないので、俺達は居ない方がいいと思う。
「これが褒賞だ。素材はそれでいいのか?」
「ひとまず荷台に積めるだけあれば。残りは倉庫に入れておくので、それこそまた取りに来ると思いますよ」
「そうか! うむ、その時は声をかけてくれよ!」
「……ええ」
声はかけないつもりだけどな。一日だけ滞在となるとまたうるさいだろうし……
そんな感じで大きな金額をいただき、アースドラゴンの爪、鱗、牙、肉といった素材を荷台に載せていく。
ジョーとリリアが引けなくなるのは困るため各二つずつというところだ。
「旅の途中で身重になったら戻ってくるのですよ……」
「ま、まだ、そうはならないと思いますけど……」
「そうですか? ふふふ……」
「?」
よくわからないが王妃様が不敵な笑みを見せていた。準備は整い、屋敷の鍵もかけた。短い間だったが帰ってこれる場所があるというのは正直悪くないと感じたな。
「それではお世話になりました」
「ありがとうございました」
俺とセリカが頭を下げて礼を口にする。
「ぴゅい? ……ぴゅーい!」
するとジョーのぴこぴこする耳で遊んでいたフォルスが俺達を見て、お辞儀の真似をした。とても可愛い。
「ああ!?」
「なんて可愛い……」
「やっぱり賢いんだな……」
その場に居た人間達はメロメロである。こいつ人に好かれる魔法でもかかっているのだろうか? それくらい可愛がられている気がする。
「うんうん、よくできたわね! おいで」
「ぴゅー♪」
セリカが呼ぶと嬉しそうにジャンプしてセリカの腕におさまった。
小さい尻尾をブンブン振り、頬を舐めている。
「やはりママにはかなわないのか……」
「パパも強いしな」
「誰がパパとママだ」
適当なことを言う騎士を諫めてから俺とセリカは御者台へ座る。
そこで陛下達が道をあけてくれた。
「それでは」
「息災でな」
「必ず戻ってきてくれよ! ラクペイン達にも伝えておく! 姫も呼びたいし!」
「よろしくお願いします」
「フォルスちゃんまたですわね♪」
「ぴゅーい」
王妃様がフォルスに手を振ると、フォルスも手を振って応えていた。
数日だったけどなんだか色々覚えたような気がするな。
「ふう……」
「お疲れ様ラッヘさん! フォルスを研究対象にする、みたいな時は大変だったけど、陛下や王妃様は良い人だったわ」
「まあ、あんな感じだ。次はセリカももてなされるぞ。フォルスと一緒に」
「あはは、それはあるかも! ま、お屋敷をもらったしそれくらいは、ね? お食事も美味しいし」
「まあな」
俺は肩を竦めながら王都のが外門をくぐり、外へ出るのだった。
「お気をつけて!」
「いってらっしゃいませ!」
「ありがとう」
あの門番たちも笑顔で敬礼して見送ってくれた。……仇を討った後は考えてみるか。そう思いながら進路を東へ取るのだった――
◆ ◇ ◆
「ふう、よく眠れましたねえ! さて、アースドラゴンを倒した英雄様とようやく邂逅といきましょう!」
謎の商人、スレバは王都に到着していた。
ちょうどアースドラゴンの解体現場に居合わせており、ラッヘがこれを倒したという情報まで手に入れていた。
とりあえず疲れを癒すため一泊し、改めてラッヘが住むという屋敷に向かっているところである。
「うしし、王様と懇意にしているオンリーワンといってもいい
「ん? なんだね君は?」
ラッヘの屋敷に到着したスレバは、庭にいる騎士達と出くわした。王族はすでに居ないが、念のため倉庫付近などに賊がいないかチェックをしているところだった。
「あの、ここはラッヘさんのお屋敷ですよね?」
「お、彼のファンかい? そうだよ! つい先日アースドラゴンを倒した本物の英雄様の屋敷だ」
「ですよね! それで彼はどこに居ますか? お会いしたいのですが……」
スレバが色めきたち、ラッヘの所在を尋ねると騎士は胸を張って口を開いた。
「おお、彼等は先ほど旅立ったよ」
「たび……!? な、なんですか? こんな立派なお屋敷があるのに!?」
「ドラゴンを討伐するため、奥さんの装備を作りに行くそうだ」
「おくさん……!? わたしの情報では独身のはず……!?」
「なんでも昔、町で助けた娘さんだそうだ」
馬鹿な、とスレバは戦慄する。ほんの少し前のことなのに状況が随分変わっていると。
「そ、その娘さんは足手まといになりませんかねえ……わたしは魔物や盗賊を倒せる魔法があるんですが……」
「奥さんはAランクの冒険者らしいぞ」
「A!? それは乳の大きさの間違いでは……」
「いや、冒険者ランクだが……」
「ぐぬ……!」
どうやら追いかけている間に恋人ができた、そういうことらしい。
しかし、一攫千金を夢見るスレバは諦めない。
「先ほど、と言いましたね? なら追いつくはず……!」
「なんだ? ラッヘ殿になにか用なのか?」
「そうですね。わたしのパートナーになってもらおうかと……」
「なに言っているんだ? もう彼には奥さんが居るのだぞ」
「まだ結婚はしていないはず……! それにチビドラゴンを連れているという情報も入っていましてね。売ればさらにお金持ちに――」
レスバがそう口にした瞬間、騎士達の顔色が変わった。
「お? 嬢ちゃん、フォルスちゃんを売るだと……?」
「そりゃ聞き捨てならないな……」
「え? え? どうして怒っているんですかね? ドラゴンは恐怖の象徴で災厄ですよ!? そりゃもう大きくなる前にバラした方が――」
「捕まえろ! こいつをラッヘ殿に会わせるわけにはいかん……!」
「ひぃっ!? 逃げますよバーバリアン!」
「ひひーん!?」
屋敷の門が開き始めた瞬間、まずいと直感したスレバは馬に命じて一目散に逃げて行った――
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