その31 狩り
「ぴゅふぁ~……」
「あは、大きなあくびねフォルス」
「ぴゅー♪」
王都近くで野営をして二日ほど経過した。
一日で出発しようかと思ったのだが、最近この辺りでフォルスの訓練もしておこうと森で生活していた。
訓練、とは言っても赤ちゃんなので散歩くらいなものだけどな。
赤ちゃんは抱っこするもんだと思っていたけど最近よく動くようになってきたので監視しながら遊ばせようということになった。
「それじゃちょっと行ってくるわね」
「おう。飯は作っておくから」
「ぴゅー♪」
「気を付けてな」
昨日は俺が連れて行ったが、今日はセリカが連れて散歩だ。
そこでフォルスは一度俺のところへ来て撫でろとせがんで来たので背中をさすってやった。
「よーし、今日も頑張るわよ」
「ぴゅーい!」
セリカの言葉に二本足で立ってから両手を上げてよちよちと歩き出す。
だが、すぐに四足歩行になった。
一応、二足歩行もできるみたいだけど、そこは成長次第というところのようだ。
「ぶるひーん」
ジョーはリリアを見送っていた。
何かあった時に急いで戻れるように馬を連れているのである。昨日は俺がジョーを連れていった。
最近、馬達もゆっくり休ませていなかったので野営を伸ばしたというのも少しある。
「さて、それじゃこっちは朝食の準備を進めるか」
「ブルルン!」
「お前、こういう時だけ勇ましいな」
飯と聞いて俺の横に立ったジョーが鼻を鳴らしていた。苦笑しながら鍋を火にかける。湯が沸く間に野菜と鶏肉を切って下準備だ。
朝はそれなりに気温が低いので温かいスープがいい。
理由としてフォルテも寒いところは苦手なようで、夜はクッションに丸まっているのだけど朝になると俺かセリカのお腹のあたりに来ていることが多い。
潰してしまいそうだからフォルテ用の毛布がいるかもしれないなあ。
「ミルクは別に温めるか」
「ぶるる」
「お前は生野菜でいいけど、みんなが戻ってからだぞ」
ジョーが鳴くので鍋を見ながらそう言ってやると、俺の腕を甘噛みして引っ張って来た。
「なんだ? ……お?」
顔を上げてみると、少し離れたところに人影が見えた。
目を細めて見ると、二十人くらい居て、きちんとした鎧を着ている……騎士か。王都の騎士が遠征しているのか?
「さあ、魔物よ出てくるがいい!」
「あれはエリード王子じゃないか。狩りに来たのかな?」
王族が騎士を連れて狩りに出るのは珍しいことじゃない。人間と魔物では動きも違うため、いざという時に対応できるよう戦う人も居る。
単純に趣味で動物を狩ったりもするけど、概ね練習目的が多い。
エリード王子が『魔物よ』と口にしているため元々、魔物と戦うために来たようだ。
「ま、あれだけ騎士が居れば問題ないだろう」
そんな調子で俺は視線を鍋に戻し、牛のミルクを火にかけた。あの距離なら鉢合うこともないはずだ。
「さて、それじゃ沸くまで待ちか。カバンでも整理しとくかな」
しばらくセリカも帰ってこないし、湯が沸くまで料理も進められない。なので今のうちにとリュックを持ってきて中身を一旦取り出すことにした。
どこになにがあるのか段々わからなくなるのは避けたい。
「ポーションは一本入れとけばいいか。包帯と裁縫セットはこっちの小さいポケットに……む?」
そこで俺は手のひらに収まる翡翠色の玉を手に取った。
「こいつは確か、母ドラゴンの頭から出てきた宝玉だ。そういえばこいつでお守りでも作ってやろうと思っていたんだっけ」
すっかり忘れていた。
セリカの件やブレイドタイガーの依頼と、考える暇もないくらい色々あったので仕方ない。
「王都の話し合いも微妙だったしな……」
一人呟きながら手の中で宝玉を遊ばせる。大きさの割に重さをあまり感じない、不思議な玉だ。
母ドラゴンやフォルスと同じく翡翠色は見ていると吸い込まれそうになる。
「戻ってきたらセリカにも話しておくか」
俺は宝玉を手元に置いてから料理に取り掛かるのだった。
◆ ◇ ◆
「ぴゅーい!」
「おお、頑張るわねフォルス。ほら、おいでー」
「ぴゅー♪」
私がパンパンと手を叩くと嬉しそうにハイハイをしてここまで走って来た。とても可愛い。
赤ちゃんだから無理はさせられないなと思っていたけど、案外よく動くのよね。
でも、昨日ラッヘさんが散歩した後、ご飯を食べながら眠りそうになっていたので体力はまだまだのようだ。
たまに虫を追い回すけど、捕まえるまではいかない。ちなみにラッヘさん曰く虫とか食べないらしいので本当に遊んでいるようね。
「今日はこれくらいにして戻ろっか。ご飯中に寝たらまた顔にミルクがかかっちゃうもんね」
「ぴゅ」
私の言葉が分かっているのか小さく頷いた。そして顎に頭を擦りつけてくる。
「甘えん坊さんなんだから。可愛いからいいけど、フォルスはどれくらいで大きくなるのかしら?」
「ぴゅー?」
抱えて顔の前に持ってくると、フォルスは『なに?』といった感じで首を傾げていた。まだ産まれて間もないけど、歯も生えていないし爪も全然だ。
本当なら大きくなるまでお母さんが面倒をみるのかな?
「ま、ちゃんと守るけどね!」
「ぴゅー♪」
私が頬をくっつけるとフォルスが嬉しそうに鳴いた。それじゃそろそろ戻ろうかな。そう思った時――
「ぴゅ……! ぴゅー」
「おっと!? どうしたの?」
「ぴゅーい?」
私の肩に乗って遠くを見ながらなにやら鳴いていた。でもフォルスもよく分かっていないのか首を傾げている。
「なんだろう? ま、いいか。戻りましょ。帰ったらご飯よ」
「ぴゅい♪」
ご飯と聞いてすぐに手の中に収まった。私は苦笑しながらラッヘさんのところへ戻ることにした。
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