その15 ギルドの依頼

 さて、数時間ほど空いたので昼飯を求めて屋台がある通りへと向かうことにした。

 さっきの厩舎に居た女性の反応を見てもわかる通り、この町にも足を運んだことは数多い。

 どこになにがあるのか知っているので目的地にはすぐ到着した。


「相変わらず賑わっているな」

「だねー。フォルス、ご飯を食べるよ」

「ぴゅー……?」


 セリカが抱っこしているフォルスの背中をトントンと叩くと、小さい目がゆっくり開く。しかし眠いようで鼻から泡を出してまた目を瞑った。


「まあ、なにか買っておいて後で食べさせる方がいいかもな」

「うーん、そうしよっか。ヤギのミルクは?」

「止めておこう。腹を壊すからな……」

「それもそっか」


 実はあの時に飲ませたヤギのミルクはフォルス好物になった。が、その度にお腹を壊してしまうので封印した。

 物凄く落ち込んでいたし、牛のミルクをしばらく口にしないほどだった。

 ようやく諦めてくれたのでここでヤギのミルクを買い足す必要は無いと判断した。決して後始末が大変だからではない。


「俺はなにを食べるか……骨付き肉でいいか」

「あ、またお肉! 野菜も食べないとダメだよ? ほら、ジャイアントタスクのお肉を使った野菜炒めとかどう?」

「なんでもいいぞ。食えればいいからな」


 特にこだわりがあるわけではないので、セリカが選んだもので構わないと口にする。するとセリカがフォルスを俺に預けながら言う。


「もー、ラッヘさん、食べ物は適当だよね。私が買ってくるから見てて」

「む、わかった」

「ぴゅひゅー……」


 俺には任せておけないとセリカが屋台に向かっていった。

 あいつもこの町には来ているようなので迷子になることはないかと近くにある広場へ足を向ける。


「ここならすぐわかるか」


 と、呟いたものの、この重装備は目立つからそもそも見つからないということはないと思いなおす。


「すぴーよ……」

「暢気だな」


 しかし角を隠すために被せた帽子が良く似合っているな。そう思いながら膝に乗せたフォルスの背中を撫でる。


「ぴゅー……♪」

「お、喜んでいるのか? ほら、こうしたらどうだ」

「ぴー……♪ すぴー……♪」


 ふむ、これは面白い。


「ねえ、あのお兄さんニヤニヤしながらトカゲの背中を撫でているよ」

「シッ! 見ちゃいけません。早く行くわよ!」

「……」


 ……面白いと思っていたのは気のせいだった。俺は咳ばらいをして顔を上げて周囲に目を向ける。


「平和だな」


 ドラゴンが襲ってこなければ、魔物は騎士や冒険者達で十分対応できる。

 ドラゴンの相手もできないわけではないが犠牲を払う必要があるので、探してまで屠るというところまではなかなか手が出ないらしい。

 

「一応、ギルドにも顔を出して情報を聞いておくか」


 フォルスは懐に入れるか、セリカに預けて俺だけ行けばいいしな。そう考えていると、ふと少し先を歩いていた人物と視線が合った。


 あいつは――


「あっれー? ラッヘじゃないか! どうしたんだい?」

「……ワイズ、久しぶりだな」


 ――この町のギルドマスターであるワイズだった。長身で狐のような目をしたくせのある茶髪をした男は俺が返事をすると近くまで寄ってきて話し始める。


「最近はどうだい? ドラゴン、見つかった?」

「別のヤツならな。目下、捜索中だ」

「なるほど、この国に居ない可能性もあるからなあ。……あの災厄は居たら目立つし」

「……」


 この男もアレを知っている人間の一人だ。

 俺と同じくらいの年齢をした者は基本的に子供の頃一度は目にしている。それほど出現頻度は高かった。


「ま、いつ出るか分からないし難しいか。君が積極的に探し続けることでいつかは、と思うけど」

「俺が生きている内に必ず倒すさ」

「ぴゅ……ぴゅーい……」


 俺がそう言って頷くと、フォルスがもぞもぞと膝の上で動いていた。それに気づいたワイズがフォルスを見て口を開く。


「そいつはなんだ? ワニ……とは違うね。トカゲかい?」

「ふむ」


 さて、どうしようか。頭には角を隠す帽子を被せているのでそうだと言って濁してもいい。というか混乱を招かないように黙っておくか。


「トカゲだ。ちょっと拾って懐かれたんだ」

「魔物っぽいけど……」

「一応、登録もしているから問題ない」


 フォルスの背中を撫でながら登録した証を見せておく。するとワイズが俺のギルドカードを見て目を丸くする。


「おま……!? これドラゴンじゃないか!?」

「何故わかった……!?」

「そりゃ、テイムした種族が書かれているからね!?」


 そう言われて見ると、確かに『テイム:ドラゴン』と記載されていた。

 なるほど、こうなるのか。あまり確認しないで町を出たから気づかなかった。


「……というわけなんだ」

「全然分からないんだけど!?」


 仕方ない、説明するか――


◆ ◇ ◆


「――で、そいつを連れて歩いているのか」

「そうだ。陛下にお伝えしておけば調査も捗るに違いないと思ってな」

「確かに……それにしても喋るドラゴンに竜鬱症、初めて聞くものばかりだ。死の間際に語ったのなら嘘でも無さそうだしね」


 経緯を説明するとワイズはフォルスをじっと見つめながら神妙に言う。こういう時、冗談だと濁さないのはギルドマスターらしいと思う。

 それでも目で見ていないのに信じてくれるのはありがたい。


「それで王都、か」

「たっだいまー! あれ? ワイズさん?」

「ん? セリカちゃんじゃないか。君もどうしてここに」

「えっとね――」


 と、恥ずかしい話も聞かれる話になってしまった。

 

「ははは! まさか二人がそういう仲だとはね。僕は二人を知っているけど、知り合いと言うのは今聞いたのが初めてだからさ。ふむ……なら、あれをお願いしようかな?」


 するとワイズは串焼きを持っているセリカを見てそんなことを呟くのだった。

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