その14 ひとまず支度を

「不思議な旅の仕方をしているな?」

「ちょっと色々あってな。入るぞ」

「まあ、滅竜士のラッヘさんとAランクのセリカちゃんを断る理由はないからねえ」


 くっくと笑いながら町の門を開けてくれた。この国では俺のことを知らない人間はそれほどいない。

 顔もそうだが装備がドラゴン戦用に作られているので見た目でもわかるのだ。

 

「おー、ドラゴンの兄ちゃんか。久しぶりだな」

「半日だけ世話になるぞ」

「ゆっくりしていけばいいのに。相変わらず重そうだなあ」


 町の人間に声をかけられ適当に挨拶をして進む。

 そしていいタイミングで鎧のことを口にしてくれたように、俺の装備はとにかくごつい。

 ドラゴンの一撃はただ触れるだけで必殺となるため、何層にも折り重なった薄い鉄や硬い鉱石で出来ている。

 そうすることで一枚破られたら終わり、ということはなくどこかで衝撃を吸収してくれるのだ。もちろん破損したら修復には時間も金もかかる。

 だが、命には代えられない。ドラゴン討伐は報酬がいいので少し儲かるくらいだ。

 

「金で苦労をさせたくないな」

「ん? 何の話?」

「いや、ドラゴンとの戦いは本当に命がけでな。装備が壊れると高くつくんだ」

「私、お金あるけどね」

「それを使うわけにはいかんさ。そうか、セリカも行動を共にするなら装備を変えないといけないかもしれないな」


 ふと、俺のことを考えていたがそのことに気づいた。ふうむ、どうせ王都に行くから鍛冶師には会うが、素材は必要だな。


「……」

「どうしたの?」

「い、いや、なんでもない」


 俺についてきてくれると言ってくれたセリカにプレゼントでも、と考えたが財布を見るとフォルスの母を倒した時の金がそっくり入っていることを思い出した。


「……足りるかな」

「だからなんの話よー」

「ひひん」


 セリカが口を尖らせ、リリアが楽しげに鳴いていた。ギルドと併設している銀行から降ろしてもいいかもしれない。野営が続くからな。

 そんな話をしながら馬車のカスタム屋に到着した。


「ぴゅー?」

「乗り換えだ。セリカ、抱っこしておいてくれ」

「オッケー」


 御者台に居るフォルスには帽子をかぶせて角を隠している。なるべく目につかないようにすればまあまあ誤魔化せるだろうという算段だ。

 

「すまない、頼みたいことがあるんだが」

「へい、いらっしゃい。修理かい?」


 丸眼鏡をかけた親父が軒先に出て来て言う。俺は馬二頭と荷台を指してから用件を口にする。


「いや、荷台の交換だ。二頭を繋いで走れるように手綱も変えてくれ」

「仲間が増えたのか。それもおなごとはやるのうお主」


 すると親父は下世話な視線を向けてこそこそと言ってきた。それはいいと顔を押しのけてやった。


「……無駄話はいい」

「ほいほい、若いのう~」

「値段と出来上がりの時間を教えてくれ。荷台は……そこの屋根付きがいい」

「急ぎか?」

「まあそこそこだな」


 俺がそういうと少し考えてから店の親父は手にした紙にさらさらと書いてくれた。


「金額……六万五千セロ、時間は十四時か」


 金額は屋根つき荷台の交換と手綱の新調と考えれば適正か。時間は今から二時間ってところだな。


「オッケーだ」

「オプションは?」

「鍵付きのボックスがあると助かる。魔道具で冷やせる冷蔵庫はいけるか?」

「まあいいじゃろ。左右につけておくぞ」

「頼む」


 そう言って頭を下げると、フッと笑いながら店の親父は作業に入った。

 俺は肩を竦めてリリアやジョーと遊んでいるセリカに近づいて声をかける。


「十四時くらいまで時間が空いた。どうする?」

「ご飯でも食べる? ……あ、ダメか」

「まあ流石にな。屋台かどっかで買って広場で食うか」

「そうしようか。ジョー達は?」

「ギルドの厩舎に預けとこう、金を出せば水と飯も出してくれるし」

「うん!」


 俺がそういうとセリカがリリアを引いて歩き出した。俺もジョーを引いて横に並ぶ。


「フォルスは俺が持つぞ」

「懐に入れるんでしょ? このまま抱っこしておくわ。可愛いしね」

「むう。俺の方がいいよな?」

「ぴゅー?」


 セリカの肩に顎を乗せて俺を見ながら疑問のような声を上げていた。最初に助けを求めていたくせに……!


「こいつめ……」

「ぴゅー♪」

「それでも可愛がるのね」

「せっかく生き延びさせたし、連れて行くと決めたのは俺だからな」

「相変わらず真面目なんだから」


 セリカがクスクスと笑っていた。真面目というか不器用なだけだと思うんだがな。

 そんなやり取りをしているとギルドの厩舎に到着し、馬を預けることにする。


「すまない、二頭を少し預かってくれるか?」

「はいはい毎度……ってラッヘさん!? それとセリカちゃんじゃない」

「こんにちはー!」

「ぴゅいー」


 厩舎に居た女性に声をかけると見知った顔だった。気づいた俺は財布を取り出しながらその人物に声をかけた。


「ああ、久しぶりだな。三千セラだったかな?」

「そうだよ。というか二人とも見たことあるけど、知り合いだったのかい?」

「うん! 昨日からラッヘさんとパーティを組んでいるの」

「へえ、あの三人は仲が良かったろうにさ」

「……早くしてくれ」


 居心地が悪い俺が急かすが、二人はまだ話を続けていた。


「でも恋人にしたいのはラッヘさんだったから!」

「ぶっ!?」

「ぴゅ!?」

「わあ!? 汚いよラッヘさん」


 あっさり言うセリカに対して噴き出す俺。フォルスとセリカがびっくりするがそれはこっちの方だと視線を送る。


「ふうん、そういうことねー。復讐は止めたのかな?」

「……止めていない。ヤツが出てきたら必ず仕留めるさ。いくぞ」

「あ、待ってよ! 後でまた来るわ!」


「はいよ。……やれやれ、落ち着いてもいいと思うんだけどねえ……でも、ドラゴンと対抗できる戦力は少ない、か。セリカちゃんも難儀な男を好きになったもんだよ――」


 ……去り際にポツリと彼女がそんなことを言ったのが耳に入った。それでも、俺はヤツを倒さなければ前へ進むことができない。

 鍵はフォルス……


「ぴゅあー……」

「あら、眠くなったの?」


 ……になるはずだ。


 そんなことを考えながら俺は昼飯を探しに歩き出すのだった。

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