その2 ドラゴン討伐


「寝ているか……?」


 俺は寝そべっているドラゴンをよく観察し、飛び出すタイミングを考えていた。

 鼻先まで約二十歩。

 ここから駆け出した場合、こちらに感づいて反撃をされるかどうか微妙なラインだ。

 すり鉢状になった巣には大量の草を敷き詰めており、その上でいびきをかいていた。寝たふりということも考えられるが、どうだ……?


「……どうせ突っ込むしかやることは無いし、考えるまでもないか」


 周辺の地形を頭に入れてから、俺は大剣を握ると一気に駆け出す。首が下がっているならそいつを両断すればいかに強力なドラゴンでも死ぬ。


「……」


 突撃する時に雄たけびを上げるのは阿呆のすることだ。俺は走りながら無言で剣を構える。


 すると――


「……!? 寝たフリか!」


 首がぐるりと動き、巨大な口を開けた。その奥には赤い炎がチラチラと見えていた。咄嗟に右へ飛ぶと、その瞬間に俺の胴体ほどある火球が飛び出した。


「グォァァァァァ!!」

「チッ……!」


 耳をつんざく咆哮を上げながら立ち上がるドラゴン。見事な翠玉エメラルドグリーンをした鱗が陽に照らされ輝いていた。


「こうなれば足からいくか」

「グルゥゥ……」


 巣の上で威嚇の声を上げるドラゴンに接敵するため踏み込んでいく。大剣なので盾は持たず、両手の力で骨ごと切り裂くのが俺の戦い方だ。


「こいつをくらいな!」

「グォォォォン……!!」

「尻尾……! 器用だな!」


 脛から足を断ち切るためスイングしようとした。しかし、そこへ奴の尻尾がしなり、俺の側面を狙い打つ。

 ドラゴンは爪や牙が強力で危険だと思いがちだが、実のところ尻尾が一番凶悪なのだ。ワニなどの魔物でもそうだが、動きの読みやすい爪牙よりも軌道が不明瞭だからだ。

 そして筋肉に覆われているため一撃も重い。相打ち狙いでもらうには代償がでかすぎる。


「ならよ……!!」

「グォァァァァァ!!」


 目標を脛から尻尾へ変え、大剣を地面に突き刺してガードを取る。このまま振ってくれば自分から尻尾を切りにやってくる形になる。


 だが――


「ぐあ……!?」

「シャァァ!」


 ――そこから起動変化をつけ、大剣を避けて俺に一撃を当ててきた! こいつ、今まで戦った個体より賢い……!


「まだだ!」

「グギャ!?」


 俺は身体を弾かれながら尻尾を斬り裂く。食らい慣れているなんて格好悪いが生き残るためにはなんでもしないといけないんでな。


「グォォ!」

「踏みつける気か! そうは……いかんぜ!」


 反動で地面を転がる俺に片足を上げるのが見えた。いくら装備している鎧が頑丈でも圧力には弱い。

 そこで俺は腕につけているダガーをドラゴンの顎に狙って投げつけた。


「……!」


 賢い個体だ。もちろん回避するだろう。しかし一瞬怯ませれば足が止まる。

 その間に立ち上がり、今度こそ足を切りつけた。


「ギャァァァァ!?」

「手ごたえあり……! くっ!? 骨が硬い……!」

「グァ!!」

「うおお!?」


 嫌がったドラゴンが足を上げ、俺は空中へと投げ出される。態勢を整える前に、ドラゴンの平手が俺を襲う。


「ぐあ!? 野郎……!」

「グゥゥゥ……」


 全身が悲鳴を上げている。だが、タダでやられるのは野暮ってもんだ。指の一本を切ってやった。血がブシュっと飛び出し、そのまま垂れていく。


「ふう……。こいつは強いぜ。だいたいのドラゴンなら今ので腕はもっていける。だが斬る寸前で手を引きやがった」

「グォォ……」


 背中から着地し、すぐに後転しながら立ち上がった。大剣を構えながらどうするか考える。まてよ……こいつ今、追撃をしてこなかったな?


「もしかして」


 俺は正面から再度攻撃を仕掛けに行く。もちろんドラゴンは俺に合わせて待ち構え、射程に入った瞬間、爪を振り下ろして来た。


「ぐうう……!」

「グウウウ……!」


 それをガードし、膠着状態に。ここまではいい。次だ。


「たあ!」


 力任せに剣を振って手を弾いた後、俺はその場から少し下がった。


「どうだ?」

「……」


 攻撃は尻尾を含めて飛んでこなかった。

 理由は分からないが、どうやらあの場所から動きたくはないらしい。なら攻撃する余地は――


「ガァァァァ!!」

「うおっと」


 火球もあったか。確かにこれなら遠距離は攻撃できるか。だから動かない? いや、考えている場合じゃねえな。

 さっさとケリをつけないとこっちの体力が無くなっちまう。


「こっちだ!」

「グルゥ……!」


 尻尾が伸びている方とは逆に走り、ドラゴンの視線を誘導する。すると案の定、尻尾をこっちへ移動させてくる。それと同時に爪を伸ばしてきた。

 

「そうくると思ったぜ!」


 尻尾がこちらに来るまでには少し時間がかかる。そこで俺はさらに爪を弾きながら逆サイドにジャンプする。


「グォ……!?」

「もらった」


 爪を弾かれたドラゴンはもう片方で追撃をしかけてくるが、その前に膝を縦に一閃しよろけさせる。

 そのまま膝を足場にしてジャンプすると倒れるドラゴンの首をばっさりと斬りつけた。


「グギャァァァァァ!?」

「よし! ……な!?」


 終わったと思ったがドラゴンは首から血を噴出させながらも俺を爪で攻撃して来た。空中でガードをするが思い切り吹き飛ばされて大木に叩きつけられた。


「ぐはっ!? まだか!?」

「オォォォォ……」


 激痛を覚えながら地面へと落ちる俺。ここで火球の追い打ちはまずいと視線を上げる。

 だが、ドラゴンはダウンし、攻撃を仕掛けてくることはもう無かった。

 なんとか倒せたらしい。

 俺は流れる汗と血を拭いながら大きく息を吐いた――

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