第6話 Girls Side 宣戦布告
「それで話って? 珍しいよね美鈴のほうから大事な話って」
「絵瑠のする大事な話って大概が絵瑠を通して私に来る話じゃない!」
「そうだけど、それでも私にとってというより、その人にとって大事な話なんだもん邪険にはしたくないじゃん」
「それはそうだけど」
昼休み、私は絵瑠と二人だけで話がしたくて、普段は開放がされていない屋上へと向かう。
カチャカチャと音を立てる南京錠を開き、重たい扉を開くと生暖かい風が私たちを出迎えてくれる。
ここなら二人だけで話ができそうだ。
屋上にはベンチのようなありがたいものはない、そもそも一般生徒向けに開放されていないのだから当たり前だけど、歴代の先輩方が残した遺産のようなものがちらほらと見受けられる。
この屋上の鍵は、歴代のミス緑涼に引き継がれているものらしく存在はあまり知られていない。
「ん~! 屋上っていいね!」
気持ちよさそうに伸びをしている絵瑠を見ながら私もそれに倣い大きく伸びをする。
これから大事な話をする前のストレッチといった感じに。
「それで? 改まって何~」
「うん、それなんだけど」
「なしたなした?」
本当は言うべきか迷っていた。
それでも話そうと思っていたのは自分に対する戒めの気持ちや、絵瑠がどう思うのか知りたい気持ちがあったからだった。
「昨日ね春君から告白みたいなこと言われて……」
「――?! そうなの?」
さすがの絵瑠でもこれは驚いたようだった。
「それでそれで? オッケーしたの?」
「ううん。断っちゃった」
「えっ――なんで」
「春君とはちゃんとした気持ちで付き合いたくて」
「どゆこと?」
当然の疑問なんだと思う。
傍目から見ても今私が言っていることははちゃめちゃだと思う。
ただ、そこにはどうしても譲れない思いがあった。
「なあなあの気持ちというか、何かがあるから私と、春君と付き合いたいって思いたくなかったし思ってほしくもなかったから」
正直言って私の言い分はかなりわがままな言い分だと思う。
それでも男女と男女が出会って恋をするんだから、好きで付き合いたい。
損得勘定のような形で付き合いたくなかった。それだと春君に対して負い目が残ってしまうから。
「はぁ、あのさ……」
その話を聞いて、まるで呆れるかのように絵瑠がため息をつく。
「それって美鈴のエゴじゃん」
「何でそんなひどいこと言うの?」
「逆に聞くけど、なんで私がひどいことを言っていると美鈴は思ってるのに自分の言ったことはひどいことじゃないって思うの?」
「……どういうこと?」
「あのさ、美鈴の今の気持ちって全部美鈴視点の話だよね? じゃあ断られた側の気持ちって考えたの? 春は美鈴を想っての判断だったし、それってつまり好きだってことなんじゃないの? なのにそれを断った挙句に好きだからちゃんとしたいってそんな虫のいい話が美鈴のエゴじゃなかったらなんだっていうのさ」
「でも、でも!」
「じゃあ、それを言われた春は落ち込まなかったとでも思うの?」
「それは――」
「美鈴の話って全部自分ばっかだよね」
「……」
何も言えなくなっていた。
全部、本当のことだと思ったから。
「じゃあ、それで春が気持ち切り替えて別の人を好きになっても後悔しないんだね?」
「それは……すると思う」
「なんで? だって断ったんでしょ?」
「絵瑠には関係ないじゃん……」
「関係あるよ?」
「なんで」
「だって、好きだから春のこと」
「――えっ」
絶句だった。
思っても見なかった返しに面食らってしまう。
「もし美鈴が本気で春を好きで、春と付き合ってくれるのであれば私は何も言うつもりもなかった。だけど美鈴がそういうつもりなら私はもう譲らないよ」
「ちょっ――」
絵瑠はまっすぐ私の目を見つめる。
「だから春のこと奪うつもりで私も行動するから。もちろん別に美鈴と不仲になりたいとかじゃなくて、好きな友達だから尚更正々堂々言ったつもり。先に教室戻ってるね」
言うだけいって絵瑠は屋上を先に出て行った。
私は、どうすればよかったのか。
本当に春君が誰かの、絵瑠の彼女になったとき、私はどんな気持ちになるのだろうか。
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