最弱職〈支援術師〉の悪役貴族に転生した俺ですが、ヒロインたちに「神の化身」と崇められて困ってます ~ただ好き勝手に剣術や白魔法を鍛えていただけなのに、なんか勇者と聖女を凌駕していたらしいです~
第9話 てめえなんかが登録初日でBランクに昇格しただなんて嘘だ! なにか不正をしたに違いない!
第9話 てめえなんかが登録初日でBランクに昇格しただなんて嘘だ! なにか不正をしたに違いない!
「おいおい嘘だろ……あんな〈支援術師〉のクソ貴族が、ソロでBランクに昇格だと……?」
「しかもギルドに登録したのは今日らしいぜ? 貴族だからって何でも許されると思うなよ」
「ハッ! お前みたいなザコはFランクがお似合いなんだよ! このFラン野郎!」
「でも何時間か前に、〈縮地〉を使って他の冒険者の背後に回り込んだらしいですよ?」
「はあ……そんなしょうもない嘘に騙されんなよ。どうせクソ貴族が流した噂だろ」
冒険者ランクを昇格させてしまった俺を見て、多くの冒険者が俺を
しかしギルドの女性職員はそんな「場」の空気など一切読まず、「おめでとうございますー!」と笑みを浮かべていた。
「どうして俺がBランクに昇格したのか、納得のいく説明をしてくれ」
「まず一つ目は、薬草採取ですねー」
薬草採取はFランククエスト……つまり初心者向けのクエストだ。
「まずは安全なクエストを」という女性職員の指示に従い、とりあえず受けてみたクエストだったのだが……
「レクス様が持ち込まれた薬草は全部一級品だったのですー。エクストラポーションの素材として使えるくらいの品質でしたー」
エクストラポーションといえば、最も回復量が多い店売りアイテムである。
HP・MPを全回復させるエリクサー(非売品)には及ばないものの、エクストラポーションは俺たちゲーマーが常用していた回復手段の一つであった。
しかし……
「その辺で拾ってきた薬草でエクストラポーションは作れないはずだが」
「普通はそうですねー。エクストラポーションの原料は本来、強い魔物がうじゃうじゃいる地域でしか採れないらしいですからねー。まあ鑑定担当の職員が『このみずみずしさは店売りじゃない! その場で採ってきたものだ!』と言ってましたし、実際にエクストラポーションの精製に成功したので、今回のランクアップに繋がったわけですけどもー」
「なぜ俺が採ってきた薬草でエクストラポーションが……?」と思わず声に出てしまった俺。
そんな俺に、ルイーズは「おそらく薬草を〈ヒール〉したことで『神聖力』が宿ったのでしょう。前代未聞です」とこっそり耳打ちしてくれた。
おいおい嘘だろ……
「薬草を量産するために根っこの残骸を〈ヒール〉しただけ」なんて、間違っても言わないようにしよう。
俺は別に金策がしたいわけじゃないし、ましてやギルドや商人に利用されたりするなんてごめんだ。
「薬草の件は分かった……本当は分かってないけど。で、二つ目の昇格理由は?」
「ゲイル盗賊団の
ゆったりとした話し方をする女性職員に、俺はいくつものツッコミどころを見出した。
「盗賊捕獲に関しては、ギルドには報告していないはずだが。受注したクエストとは違うし」
「衛兵
確かに納品物鑑定を待っている最中、ルイーズだけがギルド職員に呼び出されていたが……
「当ギルドとしては『
「俺はただ盗賊を倒しただけなんだが。それも弱い奴らを」
「指名手配されるほどの手練だったんですがー」
あれだけ弱かったのに「手練」だなんて、嘘だよな……?
どうやらここ1年間、「剣神」と呼ばれたルイーズとばかり訓練しまくっていた弊害が、今になって現れてしまったようだ。
相手の実力を正確に把握し比較する「目」を養うためにも、これからは世界に目を向けていかないとな。
「なんか微妙そうな顔してますねー……あ、もしかして『ゲイル盗賊団』をご存知ない!?」
「あっちゃー」という顔を浮かべながら、「まあ良いとこの子ならこういうこともありますよね」と言って女性職員は説明をしてくれた。
ゲイル盗賊団は、広大なローレン公爵領を中心に活動する中規模犯罪組織。
それぞれの町・村・山・森の近くに「支部」を構えており、ローレン公爵領内で縦横無尽に暴れ回っているという。
この前も一つの村が「支部」によって焼き討ちに遭い、男は金と命を奪われ、女は貞操と自由を奪われたそうだ。
「公爵閣下はゲイル盗賊団の掃討を目標として掲げられていますが、本部アジトの場所を特定できず悩んでいらっしゃいます」
ルイーズは俺にだけ聞こえるように、耳元で囁いた。
おそらく、我が父の体面が保たれるようにするためだろう。
「というわけでですねー、レクス様のBランク昇格は間違いでも不正でもありません。必然なんですー。おめでとうございますー」
「あ、ありがとう」
女性職員にまっすぐに見つめられ、思わずたじろいでしまったが……
「──おいてめえ!」
そこに、一人の男がやってきた。
奴は
「てめえなんかが登録初日でBランクに昇格しただなんて嘘だ! なにか不正をしたに違いない!」
「失礼なやつだな。俺だけじゃなくて、ギルドも敵に回したいのか」
「ギルドが間違いを正さない限り、何度でも叫び続けるぞ! てめえは公爵令息という立場を利用して不正をした、大バカ野郎だってな!」
「やれやれ、公爵家まで敵に回すか。まあ俺が『最弱職の嫌われ令息』であることが原因みたいなものだし、聞かなかったことにしてやるけどな」
これ以上は話にならない。
そう判断した俺は、女性職員から冒険者カードを返してもらい、ルイーズを連れてギルドホールの外に出ようとするが──
「お前がBランクだなんて嘘だああああああっ!」
俺の背後から、叫び声と足音が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、冒険者の男は大剣を抜いた状態で俺に走り寄ってきていた。
しかし、遅すぎる──
「ひ、ひいっ!」
「──今日はこれで見逃してやる。二度と俺に突っかかってくるな」
大剣男に足払いをして仰向けに倒した後、俺は奴の喉元に剣の切っ先を向けた。
むこうはすでに抜剣していたのでこれは立派な正当防衛なのだが、できればこのようなやり方はしたくなかったな。
大剣の男は「ご、ごめんなさあああああああああいっ!」と叫びながら、ギルドホールを出ていった。
ホールの床には液体がこぼれており、なんだかモワッとした臭いがした。
「あ、あいつ……Bランクの〈狂犬〉を軽くあしらいやがったぞ」
「アレが本当に〈支援術師〉だというのですか……? 私には〈剣聖〉か〈暗殺者〉としか思えません」
恐れおののく平民たちを尻目に、俺はルイーズとともに帰路につくのだった。
◇ ◇ ◇
その翌日。
公爵家当主にして父親のグレイルに『珍しく』呼び出されたので、執務室を訪れると……
「レクス。お前の実力と日頃の行いを見込んで、頼みたいことがあるんだ」
父グレイルは貴族にしてはかなりの武闘派であり、
前世の俺だったら「怖い」と思ってビビっていただろうな。
「なんでしょうか父上」
「お前が捕まえてくれた盗賊からのタレコミで、公爵領内を荒らし回っていた『ゲイル盗賊団』本部のアジトを突き止めることができた」
ああ、そういえば昨日「ゲイル盗賊団の手練」だか何だかを捕まえたんだったな。
そう言えばルイーズは「父グレイルが盗賊団の本部アジト特定に難航している」と言っていたな。
見つかってよかったな。
そんなことを考えていたのだが──
「オレはこれから軍を率いて奴らを叩く。お前も討伐に一緒についてきてほしい」
え、なんで公爵軍が動くような大きな話になってるんだ?
中規模犯罪組織とはいえ、別にそこまで戦力はいらないだろう。
「手練」は普通に弱かったしな。
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