徒花

九月の月羊

末枯れる。

彼女は死にました。

凶悪ないじめに耐えかねて自ら命を断ちました。

私は彼女を愛していました。

彼女も私を愛してくれていました。

私たちは幸せなんだと思い込んでいました。

ですが幸せだったのは私だけでした。

彼女がいじめられていることを知りませんでした。

彼女は誰にも相談せずにずっと一人で耐えていました。

私は彼女を恨みました。

なぜ相談してくれなかったんだと。

彼女にとって私はその程度の存在だったのか、と悲しくもなりました。

そして彼女を死に追いやった奴らを殺してやりたい気持ちになりました。


ですが、彼女をいじめていたのは私の妹でした。

私は何も知りませんでした。

妹が彼女をいじめていたなんて知りませんでした。

彼女は一人で耐えていたのです。

私の妹の惨いいじめに。

私は怒りました。

私はなぜ彼女にこのような鬼畜の所業をしたのか妹に問い詰めたした。

妹はうざかったからと幼稚な言い訳をしました。

そして、幸せそうに生きている彼女に腹が立ったとも言っていました。

私の憤怒は妹の首を絞めるに至りました。

妹の喘ぎも、許しを請う声も、涙も。

何も私には見えませんでした。

妹は死にました。

私が殺しました。

私はとても気分良くなりました。

妹に彼女の復讐をしてやったと、とても気持ちが良くなりました。

やり遂げた私は妹の部屋を後にしようとしたのです。

ですが、私は机の上に置いてある、ある写真に目を奪われました。

それは私と妹と事故で死んだ父と母が写った家族写真でした。

それは家族旅行で箱根に行った時写真でした。

両親も私も妹もとても楽しそうで皆幸せそうに笑っていました。

涙がこぼれ落ちました。

私は妹を殺しました。

もう戻ってはきません。

涙が止まりません。

私は復讐を果たせたはずなのに、後悔と涙が止まりません。

私の復讐はこんなにも脆いものだったのだと思い知りました。

私はどうすれば良かったのでしょう。

何も知らないふりをして今まで通り妹と接したら良かったのでしょうか。 

もう私には何もわかりません。

私はビルから飛び降りました。

私は二人を愛していました。

自分を犠牲にしてでも、家族内での妹の立場を守ってくれた優しい彼女の事も。

母の代わりに毎日家事してくれていた、笑顔が可愛らしかった妹のことも。

愛していました。

私は二人にもう一度会いたい。

もう一度家族に会いたい。

もう一度彼女を抱きしめたい。

もう何もない残されていない私の両足はとても軽いものでした。

その日私は死体になりました。

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徒花 九月の月羊 @Kisinenryokunn

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