038 ただじゃおかねぇぞ!
10日目。
俺の予感は的中した。
本日の生存者数――375人。
昨日は410人が生存していた。
その差は35人。
それだけの数が一日で死んだ。
グループラインでも悲壮感が漂っている。
救援が来ると信じている者の数が急激に減っていた。
谷から上がっていた狼煙も一昨日で終わっている。
拠点のある俺達にとっては対岸の火事だ。
大して仲良くない上に、俺達を妬んで叩いてくるような奴等だから。
だからといって、「やったぜ」と喜ぶことは出来ない。
どうでもいい連中でも、死なれると良い気はしないものだ。
「大地君の予想通りになってきたね」
朝食の時、ポツリと千草が言った。
「明日も同じくらい死ぬだろうな」
俺達のムードは暗い。
「なぁ、少しくらいはウチに入れてやってもいいんじゃ」
「駄目だ」
波留が言い終える前に、俺は拒否。
「少しくらいの『少し』をどうやって決める? そして、その『少し』に入れなかった奴等はどうなる?」
「それは……」
「間違いなく暴徒と化す。グループラインでも報告が上がっているけれど、既に一部では自暴自棄になって暴れている奴等が出ている。火に油を注ぐようなことをするわけにはいかないさ」
我ながら冷酷だと思う。
それでも、リーダーとして非情にならざるを得ない。
もう二度と失敗しない為に。
「提案がある」
俺の言葉によって、全員が箸を止める。
「今日からしばらくの間、漁は控えよう」
「「「「!?」」」」
「もっと言えば、縄張りから出るのも禁止だ。俺達の拠点と土地だけに行動範囲を限定する。緊急時を除いてな」
「まるで鎖国みたいじゃん」と波留。
「その通りだ」
「大地が言うなら私は従うけど、理由を教えてくれない?」
歩美が尋ねてきた。
「さっきも言った通り、自暴自棄になって暴徒化している奴等がいる。ここではそんな連中を止める術がない。だから、事態が沈静化するまでは引きこもる。幸いにも大規模農園は成功したからな」
朝食の前にトマト畑を確認したところ、見事に完成していた。
実の数はぴったり4万個で、それ以上でもそれ以下でもない。
これまたゲームのように、1つの種からできる実の数が同じだった。
「そんなに危険なのかな?」
「俺は男だからまだしも、歩美達は女だからやばいよ。こんな状況なら強姦されたっておかしくない」
「強姦って、そんな……」
「大袈裟じゃないよ」
由衣が言った。
「昨日、テニス部のグループラインで同じ話題が出ていたから。実際に被害も出ているみたい。だから、大地が言わなかったら私も同じ提案をするつもりだった」
「由衣ってテニス部だったの!?」と波留。
「幽霊部員だけどね」
事態は俺の想定通りの深刻さだ。
改めて籠城作戦が正解であることを確信した。
「結局、作物はトマトが一番効率いいんだっけ?」
話題を変え、由衣に視線を向けた。
既にプランターと畑の収穫作業は終わっている。
「そうだね」
由衣は頷いた。
「単価はジャガイモやナスビの方が上だけど、総額だとトマトが一番」
「なら畑ではトマトを育てよう。プランターには手を付けていない作物で」
本日の作業内容が決定した。
◇
朝食が終わると作業開始だ。
プランターを由衣に任せ、俺達は畑にやってきた。
「トマトのおかげで大金が手に入ったし、一気にいくか」
100万ptで土地を20ブロック購入。
直線状ではなく、拠点を中心として扇状に領土化する。
そして、既に持っている土地も含めた全ての土地を更地化した。
「「「うわぁああああ」」」
男子3人が弾き飛ばされる。
見るからにチャラ男といったような風貌の3人組だ。
どうやら俺の購入した土地に伏せていた模様。
「大地、この人達って」
歩美が顔を青くして言う。
「声を掛けてこないで隠れていたところを見ると、そういうことだろうな」
俺達を襲う気だったゴミ共に違いない。
「あの、よかったら、俺達も仲間に」
男子の一人が頭をペコペコしながら言う。
その言動が余計に俺を苛立たせた。
「ふざけるなよ」
前に歩美が作ってくれた槍を召喚。
その槍を連中に向かって投げつけた。
「「「ひぃいいいいいいいいいいいい」」」
連中は全力で逃げていく。
まさか地味な陰キャラが攻撃してくるとは思っていなかったのだろう。
「次また近づいてみろ! ただじゃおかねぇぞ!」
連中の背中に向かって叫んだ。
すると、別の場所からもカサカサと聞こえる。
そちらに顔を向けると、逃げていく男子の姿があった。
「先ほどの連中の仲間か? いや、違うな」
仲間ではないが、同業者ではある。
波留達の容姿なら真っ先に目を付けられてもおかしくない。
「な? 引きこもって正解だろ?」
歩美達が青ざめた顔で頷いた。
「そんじゃ、作業を始めるとしようか」
まずは畝にトマトの種を蒔いていく。
この作業は数分で終了した。
次に、先ほど購入した土地に新たな畑を作る。
「それにしても大金持ちになったよなぁ、私達」
波留が嬉しそうな笑みを見せる。
「なんだか宝くじが当たったような気分だよね」
歩美も同じような表情。
「一気に1000万以上も手に入ったからな」
トマト畑では、1ブロックにつき4万個の実が採れる。
実は1個500ptなので、全部で2000万pt。
種代を引いても、3日で1600万を稼いだことになる。
さらにプランターで育てている作物もいくらかの金になった。
「でも、すごく美味しいから売るのが勿体なくなっちゃうね」
そう言ったのは千草だ。
彼女は収穫したトマトの一部を料理に使った。
設定を変えたことで、彼女だけは自動で換金されなかったのだ。
「換金するかどうかの設定を細かくいじるのは面倒そうだな」
「少し面倒だけど、栽培がこれだけ楽だとへっちゃらだよ」
喋りながら作業を進め、畝を作り終えた。
後はこの畝に何の種を蒔くかだが――。
「このブロックはナスビ畑にしよう」
「なんでさ?」
波留がすかさず反応。
「トマトばかりだと収穫が大変だろ。1ブロックにつき4万個だぞ。全員で収穫したとしても、1人当たり8000個だ。それを何ブロックもとなれば腕が死んでしまう。だから稼ぎが少し減ったとしても単価が高くて収穫が楽な作物を作っておく」
「でもウチらにはお手軽収穫法があるじゃん! 大地の考えた奴!」
波留が言っているのは、複数個の実を同時に収穫する方法のこと。
方法は単純で、枝の付け根を切るだけ。
すると、枝に付いている実をまとめて収穫できるのだ。
だが、切れるのは側枝に限られている。
主枝ごとぶったぎろうとしたところ、あまりにも硬すぎた。
まるで鉄鋼かの如き硬さだったのだ。
「それでも作業量には限度があるさ」
ナスビ畑ができると、次の畑はジャガイモ畑にした。
作業をしながらプランターの収穫結果を振り返る。
ナスビは1個あたり800pt。数は250個。総額は20万pt。
ジャガイモは1個あたり1500pt。数は100個。総額は15万pt。
ちなみにトマトは500ptの500個で、総額25万pt。
「作業量を考慮するとナスビ畑を大量に作るほうがいいかもな」
作物は収穫することで初めて金になる。
作ればいいってものでもないから、作業量も大事だ。
収穫しきれない量を作っても意味がない。
そんなわけで、今回、畑にしたのは3ブロックのみ。
ナスビ畑が2ブロックに、ジャガイモ畑が1ブロックだ。
既存のトマト畑と合わせて、計4ブロックで栽培を行う。
作業は15時過ぎに終わった。
「ふぅ」
額の汗を拭う俺達。
その時、何かに気付いた歩美が俺の名を叫んだ。
それから、「あそこ!」と俺の斜め後ろを指す。
「あれは……」
振り返ると、制服姿の生徒が近づいてきていた。
女子1人に男子5人の組み合わせ。
女子の顔はよく知っている。
高校に入学する前から何度も見てきた顔だ。
「萌花!」
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