015 試す機会があるのに試さないのは勿体ないよ
「堂島萌花ぁ? そんな子いたっけ? 千草、知ってる?」
「知ってるよ。私、一緒のクラスになったことあるから。黒のツインテールに真っ赤なリボンの子でしょ。私と同じくらいの身長だったからよく覚えてる」
「チビ繋がりかぁ!」
「波留も知ってると思うけど」
「えーっ」
俺達は布団の上に座って話す。
由衣と歩美は入浴の関係でこの場にはいない。
「それよりさ、私のポケットマネーで設置したドライヤー良かったっしょ? 髪がぴゅんぴゅんで乾いたよ! ぴゅんぴゅんで!」
「たしかにドライヤーは良かったけど――」
千草が呆れたように笑う。
「――その話こそまさに『それより』だよ。大地君の幼馴染みが合流したいって言っているんだから、その方が大事でしょ。もう夜なんだし」
千草の言う通り、萌花は俺達と合流したがっていた。
「でもこんなふざけたラインを送る奴をわたしゃ入れたくないけどなぁ」
波留が俺のスマホを見ながら言う。
そこには俺と萌花の通話ログが表示されていた。
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萌花:生きてる?
大地:うん
萌花:私、5組の男子グループと一緒に谷に向かってまーす
大地:そうなんだ
萌花:大地はどうしてるの?
大地:拠点で仲間達の入浴が終わるのを待ってる
萌花:え、待って。拠点あるの? 風呂も?
大地:トイレもあるよ
萌花:私もそっちに行きたい。場所近い?
<大地が現在位置の情報を送信しました>
萌花:近いじゃん! たぶん10分くらいでつくよ!
大地:来てもいいけど、洞窟には入れないぞ。フレンドじゃないし
萌花:ならフレンドにして?
萌花:いいでしょ?
萌花:おーい
大地:待って、仲間に訊いてみる
萌花:待たない。私がつくまでに説得しといてね。1人で行くから。
萌花:もう男子達と別れたから。拒否とかできないよ
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「たしかにこれは酷いよね。大地君、本当にこの人は友達なの?」
無味無臭の焼きそばを食べたような顔で俺を見る千草。
「そのはず。こうしてラインでも生きているか気遣ってくれているし」
「これは気遣っているっていうか……」
「どう見ても自慢っしょ! これ、明らかに舐められてるよ! 大地、あんたって鈍いねぇ!」
「そうなのかなぁ」
俺にはよく分からなかった。
なにせこの島に来るまで、まともに話した女子は萌花だけだったから。
性別を抜きにしても、俺が個別チャットで話す人間は数人しかいない。
「2人の関係が分からないからなんともだけど、ラインのやり取りを見る限りでは私もあんまり乗り気ではないかなぁ。でも、大地君の幼馴染みなら拒否するわけにもいかないんじゃない? もう向かってきているみたいだし」
「つか本当に来るの?」
波留が不快そうな顔で、俺のスマホに表示された萌花の発言を指す。
「10分くらいでつくって言ってるけど、もう30分は経ってるっての!」
「正確には27分だけどな」
「実質30分じゃん!」
「萌花は時間の感覚がガバガバだからな。たぶんあと10分はかかるよ」
「マジで舐めてやがんなぁ。大地はともかく私達とは初対面みたいなもんでしょ? そんな相手に対して時間も守れないような奴とは仲良くなれる気がしないね、私は」
波留はよほどご立腹のようだ。
千草が「まぁまぁ」となだめる。
(どうしたものかなぁ)
俺は萌花の対処法について悩んでいた。
この様子だと、由衣と歩美も心の中で毒づきそうだ。
かといって萌花を拒むのも難しい。
既に外は真っ暗で、懐中電灯がなければまともに見えない状況だ。
「なになに? なんの話?」
由衣が戻ってきた。
今、俺が最も必要とする人材だ。
この切れ者なら何か名案を思いつくはず。
「実は俺の幼馴染みがさぁ」
俺は縋るような目で由衣に事情を説明した。
◇
「なるほどねぇ」
由衣が俺のスマホを眺めながら呟く。
右手で自分の顎を摘まみ、何やら考え込んでいる。
「どうしたらいいかな?」
俺が尋ねると、由衣は苦笑いを浮かべた。
「こういう時の判断こそリーダーの務めだと思うけど」
「そうだけど……なんだったら由衣がリーダーになるか?」
「いやいや、私は大地には及ばないよ。それよりこの件だけど――」
由衣がスマホを返してくる。
「――受け入れたらいいんじゃない? まずは様子見で」
「おいおい、それでいいのかよ! よくないっしょ!」
波留がすかさず突っかかる。
「だって他にないじゃん。ここから谷まではかなりの距離がある。しかも今は夜だから移動時間が増えるでしょ。今すぐ谷へ向かったとしても、到着は深夜2時を過ぎる。そうなると猛獣に襲われて死ぬ可能性が高い」
「そうだけどさぁ」
「合わなければ日中に追放すればいいだけでしょ」
由衣はあっさりと言ってのける。
追放というワードに、その場の全員が驚く。
「試す機会があるのに試さないのは勿体ないよ。でしょ?」
「ぐぬぬ……。そういう考え方もあるかぁ……」
波留の語気が弱まった。
「そんな感じでどうかな?」
由衣が俺を見る。
「いいと思うよ」
流石は由衣だな、と思った。
それと同時にこうも思う。
まずは様子見……便利な言葉だ。
「で、肝心の堂島さんはいつ来るの? 10分くらいでつくって言ってから既に40分も経ってるけど」
由衣がそう言った時、洞窟の外の茂みから女が現れた。
千草と同じ低身長に、黒のツイテールと真っ赤なヘアリボン。
そして、千草とは正反対のまな板みたいな胸。
俺の幼馴染みこと堂島萌花だ。
左手に安物の懐中電灯を持っている。
「ごめんなさーい、ちょっと遅れちゃいましたぁー! 私、3組の堂島萌花って言いますぅ! よろしくでーす!」
萌花は普段より高いトーンの声で言った。
俺以外の男子と話す時によく使っている声色だ。
「えっ」
ニコニコしていた萌花の顔が真顔になる。
目が点になっていた。
その視線は波留達を捉えている。
「仲間って、峰岸さん達だったんだ……」
声のトーンが下がった。
俺と話す時の声色――つまり普段の調子に。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「ごめんね、男子じゃなくて」
由衣は立ち上がると、洞窟を出て、手を差し伸べた。
「大地から話は聞いているよ。随分と到着が遅いから心配していたの。無事だったようで安心したわ。私は卯月由衣。よろしくね、堂島さん」
由衣がどんな顔をしているのか見えない。
萌花の顔は引きつっているように見えた。
「あ、ありがとう、よろしくね、卯月さん」
萌花が由衣と握手を交わす。
「思い出した! 男子媚び媚び女だ!」
その時、波留が叫んだ。
千草が慌てて波留の口を手で押さえる。
(男子媚び媚び女……萌花のあだ名か。言い得て妙だが酷いな)
俺は心の中で苦笑い。
「大地、堂島さんとフレンドにならないと」
「あ、そうだな」
由衣に促されて、俺は萌花をフレンドリストに登録した。
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