集団転移で無人島に来た俺、美少女達とスマホの謎アプリで生き抜く

絢乃

001 謎の島に転移した

 始まりは突然だった。


「うぅ……ここは……」


 波のさざめきが聞こえて、意識が覚醒する。

 身体を起こす。


 正面には広大な海が広がっていた。

 潮風が目と鼻を刺激してくる。


 後ろに広がっているのは森だ。

 まさに緑一色。麻雀なら役満だ。


「何がどうなって……」


 どうして自分がここに居るのか見当が付かなかった。

 そもそもここはどこなのだろうか?


 振り返ってみよう。


 俺――とうどうだいは私立高校に通う3年だ。

 他の連中と同じく受験勉強に明け暮れている。

 今回の休み時間も休むことなく勉強していた。


「そうだ、休み時間だったはずだ」


 記憶の最後は1限目と2限目の間にある休み時間。

 これまでのツケを取り戻すべくがむしゃらに勉強していた。

 すると突然、スマホが鳴りだしたのだ。


 俺だけではない。全員のスマホが同時に鳴った。

 マナーモードにしているはずなのに、緊急警報の如く鳴ったのだ。

 で、次の瞬間には今に至る。


「さっぱり分からない」


 もしかしたら記憶が欠落しているのかもしれない。

 ただ、今はそのことを深く考える時ではないだろう。

 とりあえずスマホで救援要請だ。


「海辺に制服姿で気絶してるなんて変な感じだな」


 独り言を呟きながらポケットをまさぐる。

 幸いにもジャケットの右ポケットにスマホが入っていた。


 そしてこれまた幸いなことにスマホは生きていた。

 充電OK、電波OK、動作OK。

 救援要請の連絡先が分からないので110番をダイヤル。

 困った時の警察ってね。


『おかけになった番号は現在……』


 嘘だろ? 110番が取り込み中ってなんだ?


「ええい、ならば救急車だ!」


 トゥルルル。

 呼び出し音が緊張感を高める。


 どう説明すればいいのだろう?

 起きたら海にいました……で大丈夫だろうか?

 イタズラ電話と思われたらどうしよう?


 そんな不安は杞憂に終わった。


『おかけになった番号は現在……』


 繋がらなかったのだ。

 警察も駄目、救急も駄目、意味が分からない。

 念の為に30回ほど交互にかけてみたが、結果は変わらなかった。


 その後、思いつく限りの救助先に電話を掛けた。

 公的機関が全滅だったので、最終的にはママとパパに緊急コールだ。

 しかし、これまた『おかけになった番号は』であった。


「何かがおかしい……。電波は入っているんだが……」


 そうだ!

 電波が入っているならネットが使えるはず。


「やはり!」


 ネットへのアクセスは問題ない。

 思った通りだ。


「とりあえずSNSで助けを呼ぼう。拡散してもらうんだ」


 俺はトゥイッターで拡散希望タグを付けて呟くことにした。

 GPSと連動させて現在地情報を付加することも忘れない。


「これが情報化社会の救助要請だぜっと」


 呟きボタンをポチッと押す――が、駄目だった。

 画面に大きく『エラー』と表示されるのだ。

 何度となく試しても無理だった。


「この様子だと、もしかして……」


 もしかすると外部と連絡を取る手段が封殺されているのではないか。

 そう思って調べてみたところ、まさにその通りだった。

 電話も、SNSも、果てには匿名掲示板に書き込むこともできない。


 ただし、ネットには繋がっている。

 オンライン中継で野球を観ることも、ソシャゲで遊ぶことも可能だ。

 検索だってできるし、マップだって――。


「そうだ、マップだ!」


 マップを開けばここがどこか分かるだろう。

 もしも家から近い場所であれば、救助要請なんて必要ない。

 自力で歩いて帰ればいいだけだ。


 それに、近くに人里がある可能性だってある。

 家から遠い場所でも、近くに人里があればどうにかなるだろう。


「なん……だと……」


 予想外の事態が起きた。

 マップが示した場所は完全な海だったのだ。


 経度約139度に緯度約27度。

 小笠原諸島から330kmほど西に位置する海の上だ。

 どれだけ位置情報を更新してもそこから変化ない。


 マップには俺のいる場所が載っていなかった。

 つまり、マップによると今の俺は海の上に突っ立っているわけだ。

 謎の島にいるということしか分からなかった。


「おいおい、政府の秘密の研究所がある島に来たなんてヒーロー物のような展開じゃないだろうな……?」


 乾いた笑いがこぼれる。

 まるで意味が不明だが、とにかく異常事態だ。


 ピコン♪


 その時、スマホが鳴った。

 何事かと思って画面を確認すると、〈羅韻ライン〉の通知だった。

 ラインとは、チャットや音声通話ができる無料アプリのこと。


 学校のグループチャットで誰かが発言したようだ。

 一人が発言すると、たちまちチャット欄が流れまくった。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 思わず叫んだ。

 今までうざいだけだったグループチャットが、今は心の拠り所だ。

 この世界には自分しかいないと思ったが、そんなことはなかった。


「情報が錯綜しているが……これは……」


 どうやら他の連中も同じ状況のようだ。

 グループチャットが阿鼻叫喚のパニック状態だった。

 どうやら大半は森の中にいる模様。


「この中を探索すれば誰かと会えるかもしれんな」


 こんな訳も分からない状況で一人なのはまずい。

 俺は同級生を求めて森の中に足を踏み入れた。


 獣道と思しき細い道を歩いて行く。

 同じような道が至る所に散見された。


「足がいてぇな……」


 俺が履いている靴は上履きだ。

 校内を歩くための物であり、外を歩くための物ではない。

 地面の感触がダイレクトに足の裏を刺激してくる。


「それにしても……充電切れとか怖くねぇのかこいつら」


 いつの間にか、ラインのグループチャットで通話が行われている。

 どうやらグループの仲間とはチャットのみならず通話もできるようだ。

 俺も一瞬だけ参加したが、わめき声が凄いのですぐに切った。


「同じ学校の人間とだけ話せるのか、それともこの島にいる人間とだけ話せるのか。どちらにしろ、他人と話せる手段があるのはありがたい。大事にしていこう」


 どうやらこの森は想像以上に広いようだ。

 歩けど歩けど人の姿が見当たらない。

 その一方で、不思議な動物はしばしば見かけた。

 例えば頭に角の生えたウサギなど。

 今のところは小動物ばかりだが、猛獣だっているかもしれない。


「襲われないか不安だなぁ」


 今の俺は武器を持っていない。

 まともな武器と言えば、先ほど拾った木の棒くらいだ。

 杖として使っているが、武器にもなるだろう。

 ただ、猛獣に太刀打ち出来る程の頼もしさはない。


 そんなことを思っていると、不安が強まってきた。

 誰かと合流できれば……と森へ入ったが、今は違うことを思っている。

 猛獣に襲われたらどうしよう。


「よし、この辺で打ち切りだ!」


 捜索をやめて引き返そう。

 大人しく海辺で焚き火でも熾して救助を待とう。

 火の熾し方は分からないけれど、ググれば解決するはずだ。


 そう思って身体を翻そうとした時だった。


「他の人も森の中みたいだけど誰も見当たらないね」


「てかさ、このタイミングで大雨になったら最悪だよね」


「ちょっと、そういうこと言わないでよ。現実になりそうじゃん」


 女子の話し声が聞こえる。

 声のする方向に顔を向けると3人の女子がいた。

 クラスカーストの上位に君臨する連中だ。


 普段は俺如きが声を掛けるなんてありえない相手だが――。


「待ってくれ!」


 ――俺は迷うことなく声を掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る