第2話 後見人
外は寒く、白い息が出る。
まだ春とは言えない二月の半ば。道行く人たちもコートにマフラー、手袋をつけている人もいる。
無論私も着込んではいるが、それでもこの冷え冷えとした空気には慣れない。寧ろ苦手なので一刻も早く暖かな所へと行きたいな。
夜である事に加え、寒さがまだ緩和しないこの季節、あの温かかった室内とのギャップによって、思わず体が震えてしまった。
「大丈夫? 俺のマフラーも貸そうか?」
北杜さんが心配そうにこちらを見つめてきた。
社内で話した時と違い、砕けた口調と表情。これが二人の時の北杜さんの姿だ。
私は首を横に振り、大丈夫と小さく答える
それにしても北杜さんは寒くないのだろうか? 私にマフラーを貸すだなんてしたら、絶対に寒いはずなのに。
「深春よりは寒さに強いから平気だ。それに車までだし、少しくらいは大丈夫だ。俺の事より深春が風邪を引く方が心配だよ」
車も既に手配していたとは、行動が早い。
(妹と連絡していた段階で、決まっていたのよね)
北杜さんはいつもそうして私の逃げ場を無くし、囲うように周囲に手を回していくんだから。
「深春?」
思わず私は足を止めてしまった。
俯く私を気遣うように、北杜さんが私の顔を覗き込み優しく声を掛けてくれる。
「無理矢理ですまないね、こうでもしないと君は逃げてしまうから」
「……」
私は答える事が出来ず、手を引かれるままに黙って歩き始めた。
逃げられないとは知っている。けれど、彼の一言で切れる関係だ。
(北杜さんは、嫌じゃないのかしら)
本心が聞くのが怖く、これまで聞いたことはないし、自分からはけして言い出せない事。
私にその権利はないから。
◇◇◇
一色北杜さんと私、天羽生深春は、お金で結ばれた関係だ。
語弊があるかもしれないが、北杜さんが望んだ事ではない為にそんな言い方になってしまう。
北杜さんの父親である
ただその条件として私と北杜さんが一緒になる事を約束させられる。
だから北杜さんが望んだ事ではない。とても複雑な気持ちだけれど、仕方ないものであった。
(そうしないと私達家族はバラバラになっていたもの)
私の両親は私が十五の時に車の事故で亡くなった。
その事もショックであったが更に大変だったのは、自分達のこれからの事。後見人となってくれる親戚がなかなか決まらなかったのだ。
私はその頃まだ未成年であった為に妹たちを見る事は出来ないし、学生の為に収入もない。
そして私達は四人姉妹で、どこかに引き取ってもらったとしても四人一緒には居られない。
(どうしよう)
悲しむ間もなく現実を突きつけられ、時が過ぎるばかりでいい解決策も出ない。
両親と不仲な祖父母は私達を引き取るつもりはないと言い放ち、どうしてもというなら学校も辞め、家事手伝いに従事しろと突きつけて来る。
「将来介護の担い手にいいかもな」
私が学校を辞める事は良いとしても、妹達まで進学させてもらえないなんてと、とても了承出来なかった。
話しは平行線を辿り、私達と親戚との仲を剣呑な空気が漂い始めた。
そんな時に手を差し伸べてくれたのが、父の友人である央さんだ。
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