冗談と恋愛 パート1

小説太郎

冗談と恋愛


「 おねえさん、そのワンピース、ステキじゃね~。どこで買ったんか知らんけど、どこで売りよったんね?」

男は、初対面の女に声をかけて笑わそうとした。

しかし、女は、不愉快そうな一瞥を男に与えただけで黙っていた。

会話では、セリフだけでなく、言い方、表情や身振りや態度、さらには気のありようや聞く者のその時の気分や周囲の雰囲気なども非常に大事である。

会話がスムーズにはかどらない時は、何がまずかったのか瞬時にそれを探り改善して会話を続けることが必要であるが、それができる者はなかなかいない。

「 そんな無視せんでや~。おねえさん、僕のタイプなんじゃけ~、もう。」

そう言っても、女は、男に視線を合わそうとすらしない。

「 今日、何かイヤなことがあったん? まさか僕がここにおることがそれじゃとか言わんでよ。」

女にとっては、まさに男がそこにいることがイヤなことだった。

女は、礼儀正しい男を求めていた。

「 何なんですか?もう。あっちに行ってください。そっちが行かないんなら、こっちが行きます。」と言ってその場を去ろうとした。

「 ちょっと待ってよ!おねえさん。宝くじで1億円当たったら、その内の100円あげるけ~。」

「 ふざけないでください。」

「 おねえさん、真面目すぎ! そんなんで人生楽しい?」

「 もう、ほっといてよ!」

「 そんなに怒らんでや。美人なのに気前が悪いんじゃね~。」

「 図々しいわね、この人は。一体、何者ですか?」

「 会社の経営者じゃったら、少しは話聞いてもらえる?」

「 ホントですか?」

「 いや、今は、経営者とまではいかんけど、れっきとしたニートをしてます。」

「 もう、今、急いでいるんで!」

「 どこへ行くの?」

「 そんなの言う必要ありません!」

「 そんなに冷たくしないでよ。せんべい1枚あげるけ~。」

「 そうですか。それなら、話は別です。早くそれを言って欲しかったです。」女は、せんべいが何よりも好きだった。

女の特性を知った男は、幸せへの片道切符を手に入れたも同然だった。

二人は、すぐに恋仲になり、やがて結婚した。


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