あの日感じた僕達の気持ちに今はまだ誰も気が付かない。
陽奈。
第1話:俯瞰中毒
――――――砂浜に佇む。
――――――意識は水平線上約4km。
――――――波打際には漂流物。
――――――夕方とは言え、未だ家族連れが散見される。
「俺は高校に進めるんだろうか。」
そっと呟く。それは風に紛れて消えていく。
俺の名前は
今日は都立葛西南高等学校の入学受験日。
何事もなく、受験は過ぎた。そう
恐怖心と羞恥心に耐えながら学校を後にした。
そして受験を終わらせた俺は都営バスに乗り終着葛西臨海公園へと来ていた。
俺には悩みがある。誰にも言えない俺だけの悩み。
それは……俯瞰中毒であるということ。
本来俯瞰中毒はネット上の情報について動物的価値基準と精神的価値基準の板挟みになると起こる。
例えば現に俺は金持ちじゃない。クラスには金持ちの息子もいる。これが動物的価値。
この価値には勝てない。だから精神的価値で勝とうとする。
例えば性格の良さ、知的である。こういったものが精神的価値である。
「自分が相手の位置を把握していて相手には把握されていない」という状態を作ることで、安易に優越感を得ることができる。
そして生まれる俯瞰という状態。
俺はこの俯瞰に魅せられていた。
俯瞰すれば誰にも負けない。絶対的優位に立てる。例え虐められようと、スクールカーストの頂点に登り詰めるのは容易だ。
「貴方の目には何が映っていますか?海?空?それとも自分?貴方は”俯瞰中毒者”でしょう?」
ふと声のする方を振り返る。右横にはまさに今日受験を受けた葛西南高等学校の制服を着た女子が立っていた。
ある意味これは俺の人生を狂わせる出会いだったのかもしれない。
それよりも驚いた。”貴方も俯瞰中毒者”?だと。外見じゃわからない筈。なぜ気付いた。
「あの……!」
言葉は遮られた。人差し指をうんとさしだし俺の口を塞ぐ。
「言うなら私も”俯瞰中毒者”です。わかるんですよね、なんとなく。あ、この人抜けたことあるなって。」
初めて会った同じ中毒者。それも女子生徒。
俯瞰中毒は邪な事に使うこともある。
前の席の女子のブラウスどこまで透けて見えるかとか。
だから今日羞恥心に負けて駅とは反対のバスに乗り海に来たのだ。
なんて破廉恥な事をしたのだろうか。
「そんな事思春期の男子だったら皆やってますよ。大体想像つきますし。俯瞰中毒は誰にでもある物、たまにそれが色濃く出る子がいる。それが私達なんです。」
医者か何かのご息女なのだろうか。やけに詳しく語ってくる。
「あっと自己紹介が遅れたね。私は
「逃げ出してきたんです。言われた通り俯瞰中毒で女子を俯瞰した。受験中にも関わらず。それが恥ずかしくなって受験終わりに海でも見て癒されようかと思ってきました。先輩こそ何してるんですか?」
疑問に答えを返した上で疑問を投げかける。
少し困った様子を見せるがすぐに答えが返ってきた。
「学校休みだからね、制服ディズニーをと思ったんだがあまりの人の多さに断念したんだ。それで舞浜から電車で臨海公園に来て海まで見に来たってわけ。そしたらたまたま私が意図せず俯瞰した。中毒者が傍に居るんだろうと思ってね。そしたらビンゴ、貴方が居たわけです。」
制服ディズニーか、なるほど。それで休みでも制服を。
その上人が多い事承知で行ったであろうディズニーの人ごみに負け帰ってきたと。
「あんまり詮索は感心しませんね。私だって行きたかったんですよ?ところで貴方お名前は?」
答えなきゃいけないんだろうか。答えるのが礼儀だろうか。
新学期早々先輩に絡まれるのはご免なんだが。
向こうは教えてきたし仕方ない。
頭をポリポリと掻き、パーカーのフードをめくる。
「俺は朔峰真響。区立瑞江中学校からここに来ました。」
すると勅使河原さんは見てわかるほどに明るくなりハイなテンションに。
「奇遇ですね。私も瑞江中です。朔峰さんですか、珍しいお名前ですね。」
それは貴女に言われたくない。勅使河原なんてほんと少数だろうに。下の名前のひかりも漢字でどう書くか知らないが、難しい物なんだろう。
「貴方は俯瞰が好きですか?」
質問攻めだ。それも俯瞰が好きか?というものだ。
何かを祈るように空を仰いだ。
「好き……というか、勝手に出ちゃうんですよ。意図せず突然に。」
そうですかと勅使河原さん。
「貴方はこの先何人かの俯瞰中毒者に会うことになるでしょう。それは学友かもしれない、例えば病院の先生かもしれない。貴方には俯瞰中毒とは何かそれを学ぶことが大切でしょう。いずれ私も治したいものですし。」
「勅使河原さんは探さないんですか?方法。」
「私は毎日探していますよ。自由に俯瞰できますし、町ゆく人を観察したりしてます。でも真響君。貴方が今までの人と違う感じがするのも事実。だから探してもらいたいな、なんて思ったんです。」
俺が他と違う?俯瞰中毒は国民病と言ってもいいほど蔓延している。その中で特別感を言い渡された。
ただ誰も俯瞰に気が付かないだけで誰もが俯瞰を行っている。
学校の友達、先輩。仕事の同僚、上司。果ては家族まで。
カーストは常に存在する。
意識せず、確かにそこにある。
「俺は特別なんかじゃないですよ。ただ俯瞰が多いだけ。」
「そこです。貴方は俯瞰を
まだ春浅い……とは言えない。受験日は1月だ。寒い。
学ランにセーターを着込んでるとはいえ、まだ寒い。
勅使河原さんは……ハイソックス。生足が見える。
紅く寒さで色が変わっている。
「そろそろ帰りませんか?寒くて。」
「また会えますかね?真響君。」
なんだその質問。受かれば会えるけど、面倒事はゴメンだ。
「受かれば会えるんじゃないですか?」
「むー。女子高生がまた会いたいと気にしてるんですよ?もう少しロマンチックに答えられないんですか?」
「生憎、ロマンは持ち合わせていないもので。ライヘンバッハで待ってます。それじゃ失礼しますね。」
俺はそそくさと、その場を後にする。
真響君のバカーなんて叫んでる声が聞こえるが気にしない。
うう寒い。まぁじで寒い。葛西臨海公園駅迄は砂浜から割と距離がある。
身体を暖めるのも兼ねて駆け足で駅へと向かう。
ふと横目に大観覧車が見える。
リア充達がこぞって並んでいる。その様子を
また無意識に俯瞰してしまった。手を繋いで、羨ましい。そう思ってしまった。
やめろやめろ。俯瞰なんかするな。今は帰るんだ。
走り続けること数分。バスロータリーに到着する。
「ええと、3番乗り場。葛西駅行きと。もう来るな。」
ドンピシャ。ピッタリバスが来る。
ICカードをタッチしバスに乗り込む。
一番乗りなのでどこでも座り放題。終点まで行くので1番後ろの席に座る。
窓際に座り、窓の外を眺める。
「あれ?奇遇ですね。」
聞き覚えのある声に咄嗟に振り返る。
隣には勅使河原さんが座っていた。
「これだけ席があるのに何故こちらに?」
少し嫌味たらしく聞いてみる。
「帰ろうとして帰りのバスに乗ったら真響君が居た。それだけの事ですよ?隣に座ったのはもう少し話がしたかったからですね。」
「彼女なら募集してませんよ?」
「大丈夫ですよ、私も募集してませんから、ね?」
何が解決したのだろう。ね?なんて言われて。
勅使河原さんが美人なのは分かる。なんて儚げなんろうと思う。体も細いし、いい匂いもする。
「あら、私に俯瞰ですか?感心しませんね。」
まずい、また無意識に俯瞰していた。
「すいません。」
なぜ人は無意識に俯瞰するのだろう。絶対的優位に立ちたいからだろうか。
なら俺は勅使河原さんの何から優位に立ちたいと思ったのか。
バスは動き出す。ロータリーを抜けていく。
「真響君は私でどんな妄想してたんですか?気づいてますよ視線。さっきは足、今は体を見られました。」
とたんに恥ずかしくなる。全部ばれてる。妄想した……しました。
彼女が欲しいとは思わない。でも足は柔らかいんだろうか。膝枕はいい物なんだろうか。
体が細いが抱きしめたときはどんな感触なんだろうか。
事細かく妄想した。
俯瞰と妄想は近しい物。行き過ぎた俯瞰は妄想を生み、それで我慢できずに手を出す人が犯罪者として逮捕されるのだ。
「まったく貴方は面白いですね。顔に出てますよ。真っ赤です。妄想してたことしてあげましょうか?」
「あ……いや、その大丈夫です。」
「可愛くないですね~。」
バスは途中葛西南高校入口の停留所を通り過ぎる。
窓の外を眺め続け顔の赤らみを隠す。
それにしてもしつこいな。すごく話しかけてくる。
「貴方は俯瞰を理解している。これ以上しない事をお勧めする。取り返しが、私みたいになるから。」
不思議を含めた言い方をする。
私みたいになる?取り返しがつかない?
だとすれば既に勝手に俯瞰するんだ、取り返しつかない事になってるよ。
時より襲う俯瞰による浮遊感。
自分を解脱した感覚。
言っても信じてもらえるだろうか。
いや、言わないでおこう。面倒事だけはゴメンだ。
淡々と話し続ける勅使河原さんを横目にバスは葛西駅に到着する。
自分だけでなく勅使河原さんまで降りてきた。
「どこまで着いてくるんですか?」
「私はバスの乗り換え、貴方は?」
「どうしてそんなことまで……。はぁ、電車ですよ東西線。」
ようやくお別れだ。しつこかったな。
「それじゃ、勅使河原さんさよなら。」
「何を言いますか、待ってますよ春、学校で。」
俺の不幸は続くらしい。今からでも志望校変更効くかな。
勅使河原さんに別れを告げ駅へ向かう。
改札を通り抜け、西船橋行きのホームへ。
さあて帰ろう。
次にくるのは合格発表だ。
合格したい気持ち半分、面倒事はごめん受かりたくない気持ち半分。
複雑な気持ちに包まれて電車に乗り込む。
帰路に着いた。
その日は連日続いた降雪も落ち着いた、晴れ渡る一日だった。
――――――――――――――――――――
穏やかな風吹く。
春空の匂いがした。
俺は
今日から新学期。
中学からの友達も幾人か合格している。
クラス分けで同じになれれば嬉しい。
新品の制服に袖を通し姿見で、自分の姿を見る。
まだ制服に着せられてる感じ。
これから成長するんだ。大丈夫。そう言い聞かしカバンを手に取る。
階段をかけおりリビングへ。
「真響ちゃん、朝ごはんは?」
洗い物中の母親に話しかけられる。
「食べながらいく。行ってきます!」
「お兄ちゃん、行儀悪いなぁ。」
入学式だから昼までだし食べなくても持つと思ってたけど。
用意されたトーストを食み、家を出る。
行儀が悪いのは承知の上なんだ、妹よ。
妹の深雪は区立瑞江中学校3年生。
高校受験には是非成功して欲しい所だ。
浦安駅まで歩いて10分。
細い裏路地を通りショートカット。
ピコン。
スマホが鳴る。
LINEだ。ロックを解除しアプリを開く。
広告と、弥生?
男子に虐められた俺を庇ってくれた強い女子。そして、同じ学校に進学した学友、幼馴染でもある。
内容は……っと。
『先に駅で待ってるね。遅刻しない事!』
分かってるって。遅刻魔じゃないんだから。
「よ、真響。急ごうぜ、俺の所にも弥生からLINE来てるんだ。怒らせたら怖いしな。」
颯爽と駆け出し俺を追い抜いたのは弥生と同じく幼馴染の
2人には感謝している。おかげで学校をやめる事無く進学できた。
「ちょっと待てって。陸上部に追いつけるかよ……はぁ。」
「お前も陸上部どうだ?体力付くぞ?」
「俺は面倒ごとだけは避けたいんだ。帰宅部でいい。」
息を切らせながらも駅に向かい走り続ける。
ようやく大通りにでる。ここまでくれば駅までもうすぐ。
ロータリーを走り抜け改札へたどり着く。
「2人共遅い。5分待ったよ?」
「お前が早いんだよ。入学式迄まだまだ時間あるじゃないか。弥生。」
はぁはぁと膝に手を付き肩で息をする。
「あら、依与吏。がっつり走ってきたのね。真響限界そうよ?」
「もう……二度とごめんだからな……走るなんて……はあ。」
春に飛び込んだ3人が出逢う。調和がとれないこの関係でも長く続いている。
俺にとってはこの2人が支え。クラスが別なんてことになったら終わりだ。それだけは譲れない。
「さて、行こうか。」
定期をICカードタッチ部にかざす。改札が開く。
2番線中野行きホームに立つ。
これから毎日通学の為この駅を使う。電車を待つ間にスマホでゲームを起動する。
ログインボーナスの回収。ゲーマーとして欠かせない日課だ。
「お?流石やってるなぁ。よく飽きないよな。」
「真響はそれしかとりえないんだから。ゲーム失くしたらなんでもなくなっちゃうわよ。」
失礼だな。これでも普通に勉強できると自負しているぞ。
弥生は吹奏楽部。勉強も大事だがコンクールに向けて練習が忙しい。学力は中の下。
依与吏は陸上部。同じく勉強も大切だが地区大会に向けて練習が忙しい。同様に中の下。
その点俺は帰宅部。勉強する時間ならいくらでもある。それでも中の上と言ったところか。
ゲームしてても勉強しっかりしてるんだよ俺は。
考え事をしている内にアナウンスが流れ電車がホームに入ってくる。
東京メトロ東西線。浦安の隣が葛西駅。一駅だけの通学電車。
通勤と被りかなり混んでいる。
「キッついな。真響、弥生が痴漢されない様に護るぞ。」
「お、おう。」
俺たちはドアに両手をつき弥生を真ん中に配置。痴漢から護る。
「逆に壁ドンされてるみたいで恥ずかしいんだが……?」
「弥生は俺らじゃなんとも思わんだろ?」
しれっと悪口。顔も普通だ。決してブスでもかっこよくも無い。真ん中。
橋を渡り東京都に入る。
すぐに見えてくる都会のビル群。
そして1駅なのであっという間に辿り着く葛西駅。
ドアが開くと同時に雪崩だす。
すぐさま改札を通り階段をかけおりる。
葛西駅前の巨大なバスターミナルに到着する。
次はバス。葛西臨海公園駅行きに乗り葛西南高校入口で降りる。
同じく通勤客で混んでいる。すいませんを繰り返し呟き、降車位置に落ち着く。
「これ毎日続くの?俺休みたい。」
「ダメでしょ。貴方成績だけはいいんだから頑張りなさい?」
ゲームしていたいのよ俺は。
間もなくしてバスは発車。停留所に止まっていく。
「浦安橋通れば自転車でも行けそうじゃない?」
「いやよ、日に焼けるもの。それにきついわ。楽な方がいい。」
でたよお嬢様。マジ物のお嬢様なんだけど、実際言われるとなんかムカつくところがある。
家は一軒家。庭付き。外車が停まっている。
それに比べてうちはマンションの1室。3LDK。父母俺妹で暮らしている。
いいよな、一軒家。音漏らしてゲームしても怒られなさそうで。
って、まずい。また俯瞰している。勅使河原さんに会ってから控えるようにしていたんだが。
とういか今日下手したら会うってことだよな。やだなぁ。
「珍しいな真響。考え事か?」
「どうせHな事かゲームの事でしょ。私の制服透けて見えないかななんて思わないでよね。」
見えるか。ブレザーの上からなんか。
「もっと真剣に考えてるんだよ。」
きっと2人に話してもわからない。わかって貰えない。だからずっと秘密にしてきたんだ。
それは家族にも。妹にも話していない。中学校の先生にも。
話せなかった。理解されないことが怖くて。
「大丈夫?真響。顔青いわよ?気に障るようなこと言ったらごめん。」
「いや、いいんだ。秘密にした俺が悪い。幼馴染にも話せないことがあってね。」
「私達にも秘密な事?」
そりゃ初めて話した物驚きもするわな。
「俺たちに言えないか?流石に幼馴染が困ってるのは見逃せない。」
その優しさが今は辛い。
「ごめん、言えないんだ。俺の問題だから。」
今はそれしか言えない。
「虐められたらすぐ言うのよ?授業中でも飛び出していくから。」
「そうだぞ?クラスが違くなってもすぐに行くからな!」
変わらないな2人とも。嬉しい。
でも、2人に迷惑はかけられないんだ。
葛藤を繰り返しているうち、葛西南高校入口に到着し降車。
横断歩道を渡り路地をひとつ入る。
そこに建つのが都立葛西南高等学校。
父母と参加する人が散見される。
俺の父親が来てくれるはずだ、きっと後で合流だろう。
校門をくぐる。出迎えの先生方が待ってくれていた。
さて、ドキドキのクラス発表。
階段をのぼりエントランス前に出る。
朔月……朔月……は、A組か。
ついでだ、新妻……御神楽。
ラッキー!同じクラス!
3人でハイタッチを交わす。
その後は校舎に入り、下駄箱を探す。上履きに履き替え、指定されたクラスへ向かう。
1人じゃない。
なんて心強いんだろうか。
正面階段を昇り3階へ。
途中浮遊感を覚える。ふと廊下を見ると見覚えのある後姿を見た気がするが気のせいだろう。
3-A教室。ここだ。
依与吏を先頭に教室に入っていく。
まず向かうのは黒板。
席がどこかを確認する。
依与吏は1列目最後尾。
俺は二列目前から2番目。
弥生は2列目後ろから2番目。
それぞれ席に着く。
場所としては俺が一番前になる。不安だ2人が後ろにいる。
そう何度も振り向いてもおかしく思われるだろう。我慢だ。
程なく教室に人が集まり始め、席が埋まっていく。
もちろん隣に女子が来た。
初めましてと挨拶を交わす。
かわいいな。メガネっ子。ポニーテール。いいにおいがしそう。
きっと抱擁するとあんな感じなんだろうな。
……バカ!俯瞰妄想するな!危うく初日から危険人物認定されるところだった。
俯瞰と妄想。隣り合わせの危険な行為。
顔に出てしまえばもう終わりだ。
しばらくして担任の先生と副担任がリクルートスーツに花をつけてクラスに入ってきた。
あたりを見渡し頷く。
「はい、全員揃っていますね。ではまず私達の簡単な自己紹介から。私は今日からこのクラス1年A組を受け持ちます。
「私は副担任の
黒板に書かれた漢字を見て驚愕する。依萌!?読めないって。俺も初見だと間違われるけど別格だ。
喜屋武は沖縄名だったかな。余裕が出来たら聞いてみよう。
途端、寒気を感じた。誰かに見られている。”俯瞰”されている様な感覚に。
咄嗟に席から立ちあがる。
もちろん注目の的だ。
そこに織部先生。
「どうしました?、君はえっと、朔峰くんかな?」
「すいません、突然悪寒に襲われて立ち上がっちゃいました。大丈夫です。」
そっと席に座る。
その時ちらっと見えた気がした。織部先生が笑っているのを。その時は気にも留めなかった。
それ以上に恥ずかしさが勝ったからだ。
だー……。ったく初日から何やってんだよ。悪目立ちじゃん。最悪。
「朔峰くん無理はしない事。きつかったら保健室に喜屋武先生が案内しますので我慢せず言ってくださいね?」
「はい、ありがとうございます。」
「では入学式会場に移動しましょう。全員起立。廊下へ出席番号順に並ぶように。男子の後ろに女子ね。」
となりの初めまして女子も心配してくれた。ありがとうとお礼を述べておく。
ぞろぞろと皆が廊下に並び始める。
あぁ涙出そう。やらかしたなぁ。でも何だったんだろうあの悪寒。確かに感じた、視線を。
後ろを振り向く。依与吏と弥生がこちらを見ている。
まぁそうよなぁ。中学の時も視線を感じて立ち上がって気味悪がられて虐められたんだ。
列が揃ったのか、前のC組から動き始める。階段を降り1階へ。そして体育館へと入っていく。
拍手に包まれる体育館。
先生先導でA組の列に入り前から座っていく。
パイプ椅子には名前が書かれており、それを見て既に父母が隣の席に座っていた。
自席に座る。隣には父親が待っていた。
「真響。どうだ?新しい環境は?」
「スタートダッシュ失敗したかも。」
一気に不安になる父。中学の虐めは教育委員会への通告により発覚。全校生徒、その親にまで知れ渡ることになった。
それ故家族も虐めがあったことを知っている。隠し通せなかった。
でも原因になった俯瞰はまだ、あの日葛西臨海公園で出会った勅使河原 煌凛先輩だけしか知らない。
家族にも知られていない。
「真響、今日は入学式終わったらスマホ買い替えに行くぞ。ちょうど2年だし、高校生活を機に新型に乗り換えような。」
「いいよそんなもったいない。今のままでも十分使えてるし。」
「いいんだ。子供がそんな事気にするんじゃない。いいな?」
わかったよと言い放つ。
そうして入学式は始まった。
どこの学校も代り映えのしない入学式。
在校生、新入生挨拶。校長先生のお話。校歌斉唱。ありきたり。
こういう時間が危ない。俯瞰が出やすい。
早く終われ入学式。
――――――――――――――――――――
俯瞰が発動せず無事に入学式は終わった。
クラスに戻り明日からの注意事項を聞きながら、織部先生を眺める。
確かに笑った気がした。
あの時感じたあの悪寒、まだ覚えている。
でも不思議だ、悪寒はした。俯瞰されたんだろう。
ただ、視線は
クラス内に俯瞰中毒者が混ざっているのか?
だとしたらこれ以上怖い物は無い。いついかなる時に覗き見られるか。
「それでは初日のホームルームを終了します。別件ですが、私の事は依萌先生と呼んでくださいね。」
はーい!と色めきたつ陽キャ男子。
彼氏居るのかななんて話も聞こえる。どうすればそんなすぐ馴染めるんだ。
「それと、朔峰くん。あれから悪寒は治まりましたか?」
「ご心配お掛けしました。大丈夫です。」
嘘だ。嘘をつく。今でも視線を感じる。それを見て先生の口元はニヤリと笑っていた。
先生からの視線では無い。でも確かに感じる。
振り返れば喰われそうな威圧感を。
そして厄介事は続くものだ。
教室を出ようとした依萌先生を呼び止める生徒がいた。
話し声はよく聞こえないが、問題が起きた。
「朔峰君、お知り合い?2年の勅使河原さんが来てるわよ。さぁ入ってどうぞ。」
「それじゃお邪魔しますね。」
勅使河原先輩は本物の美人だ。
それがあろう事か俺を訪ねてきた。
先生で騒いでいた男子も、こちらに目をつける。
視線をよそに、堂々とクラスに入り俺の前までやってくる。
「2ヶ月ぶりくらいかな?入学おめでとう。」
「ありがとうございます勅使河原先輩。それで今日はどんな厄介事ですか?」
邪険に扱う。
「嫌だな、あの日の答えを聞きに来たのさ。君は私と来るかい?拒むかい?それと煌凛先輩でいいんだよ?」
傍から見れば告白の返事待ち。まさにそんな状況。
当事者とすれば巻き込まれたくないから断りたい。
「なんの事かさっぱりですが、お断りします。」
俺が断ったのを機に男子が俺とどうですかなんて集まってくる。
そこに、煌凛先輩が放つ言葉が俺をクラスから浮かせる。
「ごめんなさいね。俗物には興味がなくってよ。私が興味あるのは真響君なの。」
名前で呼ばれた、トドメだ。完全にクラスからハブかれた。
なんだよあいつだけ特別か?俺の方が余程かっこいいなど散々に聞こえる。
「その傲慢さが品を落としているのです。自覚なさい?」
ぐうの音も出ないのであろう。静まり返った。
「では本題です。この後少し時間を下さい。必要であれば私か依萌先生から、親御さんに少々お待ち頂く旨を話します。これから生徒会室へ私達と来てください。これは、おねがいです。」
頭を下げられた。
これも断れば俺の株は最悪だろうな。
「分かりました、顔をあげてください。父親には自分から遅くなると話しておきます。」
ありがとうとお礼が聞こえた。
「勅使河原さん、もしかして?」
「はい、その通りです。」
「ああ、やっぱり。」
……?ん?私達?
「あの、私
そうだ、なぜ複数形?
「依萌先生が生徒会顧問なんです。なので私達。さぁ荷物をまとめて行きましょう。」
「待ってください。煌凛先輩はやい。荷物くらい持ちますから。」
俺の荷物を持ってクラスから出ていく。
「弥生!依与吏!ごめん、先帰ってて!何か知らないけど行ってくる。」
「お前、中学ん時から変なのに絡まれたよな。」
「真響?あんたに彼女は早いわよ!待っててあげるから早く帰ってらっしゃい!」
ありがとうと答え教室を後にする。
生徒会室へと連れていかれる。
道中電話していいかを尋ねると快くOKをもらった。
スマホを取りだし父親に電話をかける。
「あ、父さん?俺。なんか先生達に呼ばれちゃって少しかかりそう。弥生も依与吏も待ってくれてるんだ。そう。なるべく早く終わるか聞いてみる。ごめん待ってて。それじゃ。」
ひとまず連絡は済んだ。
「少しだけ長くなるかもしれないね。」
何を話されるんだろう。
中庭のある吹き抜けをぐるりと周り反対の棟へ。
生徒会室の札が掲げられている。
煌凛先輩が、ノックをしどうぞと返事が来る。
生徒会なんて縁のないものだと思い入学をした。
それが今目の前にある。
緊張で鼓動が高鳴る。
煌凛先輩が戸を開く。
待っていたのは1人の男性だった。
「待っていました。私は今期の生徒会長、3年
「は、はじめまして。あの、訳が分からないです。突然拉致されたと思えば君がそうと言われても。」
由比ヶ浜会長は頭を抱えて首を横に振った。
そしてため息。
「勅使河原君、端折りましたね?」
「私はそんなことしませんよ?率直に事実を述べた迄です。私たちの再会はライヘンバッハに持ち越されましたが運良くこうして出会えましたし。」
会長と先生は謎めいた顔をしている。
その節は自分にも悪いところがある。
「あの、俺が去年煌凛先輩と別れる際に、また会えますかと聞かれたんです。そこで面倒ごとは嫌いなのでライヘンバッハでまた会いましょうと返したんです。」
「あの時は本気かと思いましたよ?恥ずかしがり屋ですね。」
なるほどと、相槌をうつ2人。
「会長?本題をどうぞ。」
煌凛先輩が促す。
由比ヶ浜会長は黒板前に移動しこう書き連ねた。
”俯瞰症候群”
!?
なぜ由比ヶ浜会長がそれを?それよりも症候群?再び鼓動が高鳴る。
さっき教室での高鳴りよりもより激しく。
胸を抑え下を向く。
はぁはぁと息が漏れる。
煌凛先輩が背中をさすってくれる。
「会長はね、対俯瞰症候群として、生徒会を組織しているの。私も俯瞰症候群。会長も先生も同じ。貴方はまだ中毒で済んでいる。これ以上俯瞰させない為に今回呼び出したの。」
俯瞰症候群?俯瞰中毒ではあるが症候群とは?
「あの、俺俯瞰中毒ですけど症候群は初めて聞きました。」
「うんそうだろう、「でも!」」
俺は言葉を遮った。気になる事があるからだ。
「あの、何が線引きなのか知りませんが、俺は中学から俯瞰する時に意識が解脱する感覚に襲われます。他でもない
それを聞き、一同が驚愕した。
それぞれが手で口を抑え俺を見た。
そうして煌凛先輩が口を開く。
「それはもう
なぜと言われても、そんな病名知らないからだ。俯瞰中毒は知っていても症候群は知らない。
「君は自身を解脱した後、戻れるのか?」
「はい、体に近づけば吸い込まれるように。」
「そうか、よかった……。君は不思議に思わないか?生徒会長と、一応生徒会書記の私以外誰もいない事。」
それは都合が合わなかっとかそもそも俯瞰に関係ないとか……はないか、対俯瞰組織である旨が告知されている。
「俯瞰症候群に罹患し解脱した意識が体に戻らなかったんだ。だから所謂植物状態として東京臨海病院
対俯瞰生徒会。目的は?俯瞰者を集めてどうする。
「あの、いいですか?」
「どうぞ。」
「この生徒会は俯瞰者を集めてどうするんですか?」
「ふむ、1番の目的は俯瞰中毒から症候群への悪化を防ぐ事。俯瞰をさせないよう教育する。そして未だ戻らない生徒会メンバー、その俯瞰症候群の治療方法を見つける事。これを東京臨海病院の担当医と依萌先生が連携している。先生も危ない橋を渡ってくれている。他の誰にも知られてはいけないんだ。いいね?」
頷く。頭がパンクしそうだ。
俯瞰はそんなに異常な事態になっていたのか。
「俺は、その何をすれば?」
「何簡単さ。今年度の生徒会選挙に書記でも会計でもいい、参加してほしい。もう一点最近俯瞰につけこみ有りもしない情報を見させる輩が出て来た。どうか気をつけてほしい。君が俯瞰で見る事ができる範囲を見誤らないでほしい。君を保護する目的で今日は来てもらったんだ。何かあればすぐ担任の依萌先生に報告してくれ。」
陰キャの俺が生徒会選挙に?冗談だろ……既にクラスに敵を作ってしまっているのに。
まぁでも、中学の時とは変わりたいと思う気持ちはある。
話しておくべきか。そう思い、この場のみんなに中学時代の虐めのすべてを話した。
「そうでしたか。私のクラスに居る以上そんなことはさせませんから、何かあればすぐ私に。俯瞰以外なら喜屋武先生でもいいですよ。力になりますし、虐めのの事実とその当事者がここに入学した旨は職員で共有します。」
「生徒会としても目配りしましょう。
話が進んでいく。俺を置いてけぼりにして。
時計を気にする。30分。待たせ過ぎだ。
「了解しました。真響君、毎日迎えに行くから教室に居てね?」
「あの、はい。わかりました。それとすいません、父と友達を待たせてまして……そろそろ良いでしょうか?」
すっかり忘れていた。3人も待たせているんだ。
「おっとすまない。詳しくはまた後日。思いがけない俯瞰に注意してくれ。それじゃあ今日は解散としましょう。」
失礼しましたと、生徒会室を後にする。
まずは急いで教室へ。
勢いよく戸を開く。
居た、弥生と依与吏だ。
「ごめん!お待たせ!」
2人は……そう、そりゃご立腹だ。
でも説明のしようがない。
「全く何やってたの?遅いわよ!」
「珍しいな真響が素直についてくなんて。」
「えっと、その。生徒会に入らないかという誘いだった。」
無言沈黙、そのとおりだろう。
なにせ俺だからな。
「真響が生徒会!?あの女に言われたの?」
「まぁまてって弥生。一体どういう経緯なんだ?」
俯瞰については話せないが生徒会長から生徒会選挙に出るように促されたと答えた。
「いや、訳解んない。」
「なんで真響なんだ?あの2年の先輩が関係してるのか?」
鋭い。が、何とか受け流す。
「去年の受験日、葛西臨海公園の砂場まで1年だった頃の勅使河原煌凛先輩に会ったんだ。その人がさっき迎えに来た人。その人の推薦でって感じかな。」
ふーんと、首を傾げる。誤魔化しきれなかったろうか。
「貴方も珍しい事あるのね。生徒会なんて。」
「それにあの日突然飛び出してったと思えばそんなとこに居たのか。」
一通りの事情を説明し、帰り支度をする。
父親が校門で待っているはずだ。
褒められたものでは無いが、駆け足でエントランスまで戻る。
靴を履き替えさらに階段をくだる。
居た、父さんだ。
「おーい、お待たせ。」
「長かったな。どうした?」
先程と同じように可能な範囲で経緯を答えた。
「いいじゃないか、生徒会。頑張ってみろ。」
「やだよめんどくさい。……けど、うーん。」
由比ヶ浜会長の言葉が思いを濁らせる。
面倒は嫌だ、でも、返らない意識を返してあげたい。
今まで不要と言われてきた俺にできることならば。
「さて、スマホ買いに行くぞ。弥生ちゃんと依与吏君は駅まで一緒に行こうか。」
「はい、おじさま。」
「りょーかいです!」
俺達はバスに乗り葛西駅へと向かった。
「お前はほんと、良くないことに取り憑かれるよな。」
「ほんとにだわ。貴方払って貰った方がいいんじゃない?」
「散々な言われようだな真響。父さんの知り合いの神主紹介しようか?」
生徒会も、父さんたちもどっちもどっちよ。
車窓からのビル群を眺める。
俺達が通い慣れた街で見知らぬ事件が起きてるもんなんだな。
俯瞰症候群……か。俺は知らずのうちにそれを発症し自身に戻ることを覚えていたのか。
だが戻ることが出来ない人がいるのも事実。
心に芽生えた歪な正義感。
俺は俯瞰中毒者として、事の終息に従事すべきだ。
面倒だけどやれることをやろう。
そう意気込んだ……まさにその時、意図せず俯瞰の感覚を得る。
それはバスの中俺たちではなく葛西駅の公園の一場面を切りとった様なもの。
一瞬の出来事だった。
俺の中で何かが弾けた。
事実を確かめることは危険だと脳が判断しているが、何故かそれを確認したい欲に駆られる。
バスは葛西駅に到着。
「ごめんみんな先に帰っててくれ!寄るとこ出来た!スマホもまた今度で!それじゃっ!」
おいこら真響!そんな声届いていない。
バスから飛び降り俯瞰を覚えた路地を目指す。
葛西はよく遊びに来ていた場所はわかる!
東西線沿線を走り続ける。
葛西健康サポートセンター横の公園。ここだ。
足を踏み入れた時、”ちゃりん”と音がした。
何かを踏んだ。
確かめるために足をどける。
拾い上げるとそれは血の様な物が付着したメスだった。
どっと吹き出す冷汗。これ以上は進んでは行けない、そう警告している。
でも俯瞰的好奇心が歩みを強制的に進める。
夕刻。仄暗くなる空。
静かだ。冷静になるとふと気づく。
葛西駅からそう遠くない。なのに誰1人としてこの公園付近に感がない。
そして追い打ちをかける。音。
ぽつり。ぽつりと、滴る波紋。
公園の奥の木にたどり着く。
そこには、
男性が木に磔にされていた。
無惨にも肩の骨は折られ、木を背中から抱くように曲げられていた。
両手のひらにはメス。
足首にもメス。
そして右脇腹にはシャツに血が滲む。
おそらく今俺が持っているメスが刺さっていたんだろう。
足元には血が滴っていた。
知っているこの刺さり方。
と、考えをめぐらしていると俯瞰を得る。
それは自身を映す俯瞰。
誰かが来る。
ばっと、左手を引かれる。
振り向くとそこには煌凛先輩がいた。
「会長が忠告したでしょう!自身を超える俯瞰に注意するようにと。逃げますよ来なさい。」
俺はメスを握りしめたまま煌凛先輩に手を引かれその場を後にした。
走る、走る。とにかく走る。
促されるままにバスに乗り、指定された停留所で降りる。
「ここです入りなさい。」
「ここは?」
「私の家ですよ。両親は早くに他界しているのでその遺産でこのマンションの1部屋を買い取りました。とにかく手を洗いましょう。血が着いています。」
「1人でこんなに大きな。あ、自分で洗えます。」
「今日は下手に帰らず泊まっていきなさい。必要なら依萌先生から連絡させますが。」
いきなり女子生徒の家に泊まるなんてレベルが、いや違う。親が許してはくれないだろう。
「多分親からダメ出しが出ます。今日は帰して貰えませんか?」
煌凛先輩はかなり苦い顔をしている。
「君の保身の為なんだよ。恐らく君が血塗れのメスを手にした所を、監視カメラが押えている。言い逃れできない。制服も着ているので警察が来ます。発見されるのも時間の問題でしょう。私の家を依萌先生は知っている。何かあれば助けてくれます。」
「……分かりました。少し父を説得してみます。」
「いや、依萌先生に任せましょう。下手に私達が話すより効果的です。」
それもそうだ。先生なら納得してもらえるかも。
俺は実家の固定電話の番号を紙に書き出し、煌凛先輩に手渡した。
煌凛先輩はそれを受け取りLINEだろうか、依萌先生にメッセージを送っているようだった。
「とりあえず筋書きは事件を目撃し、聴取の為遅くなる。先生が責任をもって1日預る。としています。本当は帰してあげたいですが、ごめんなさい。私達の力足らずで。」
違う。聞きたいのはそんな言葉じゃない。
悪いのは、悪いのは。
「煌凛先輩!」
咄嗟に煌凛先輩の両肩を掴んでいた。
ビクつく身体。
「落ち度は俺にあります。いつもと違う俯瞰に愚かしくも好奇心が勝ってしまった。由比ヶ浜会長の言うことを無視した俺が悪いんです。ごめんなさい。」
そっと煌凛先輩は抱き締めてくれた。
優しく頭を撫で耳元で呟く。
「いいのです、真響君が無事だったならそれでいいのです。……よかった。本当に良かった。」
俺を抱くその体は細く震えていた。
涙の雫が2つ以上零れ、俺は本当に愚かしいことをしたと自覚した。
柔らかい、いい匂い。ああこれはあの時俺がした俯瞰と妄想だ。煌凛先輩は手順はどうあれ叶えてくれた。
今日は先輩の家でゆっくり休もう。
――――――――――――――――――――
幕間。
「さて、朔峰君は帰ったが。勅使河原君が見つけたもう1人については?」
「はい、1年C組。名前を
「俯瞰関係に寄与出来るのは教師では私だけとなります。C組となると移動授業でもない限り会うことはありませんね。」
「では見守りましょう。既に自覚済み、発症済みならそう急ぐことも無いでしょう。先生は時間ある時にコンタクトを。今日は解散しましょう。」
――――――――――――――――――――
俯瞰、それは物事を広く大きく見下す事。
俯瞰に魅せられた者は共鳴し合いそして出逢う。
明らかになるは、俯瞰症候群。
肉体を解脱した意識は元の器に戻ることは無い。
それを克服した者。因果克服種。
幕を開けた怪死事件。異常俯瞰の餌食となる真響。
次回、《聖痕》
あなたさえ良ければあの日の言葉、取り消してあげますよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます