第一話 青春スタートダッシュ

 春とは、出会いの季節。

 だけど今年高校に入る私たちにとっては、そんな気取ってる暇はない。高校生にとってこの出会いとは、自分のこれからの人生を決定づける、いわば戦争でもあるからだ。油断した奴から順に脱落していくよ、マジで。

 入学式が終わり、クラスメイトそれぞれの自己紹介と新学期早々の宿題紹介もつつがなく終了した。帰りのホームルームも済んだら、早速クラス内でロイン交換会の始まりだ。

 一見賑やかに見えるけど、その実みんな躍起になっている。これからのクラスでの立ち位置が決まってしまうわけだからね。そのうちロイン交換の集団がいくつかできて、早くもクラス内の派閥も固まり始めてきた。

 もちろん私もこの戦いに参加する。活発で発言力のある女子を見つけ、何とかイケてるグループの輪に割り込むことができた。

「私、佐藤楓さとうかえで。よろしくねー。てか、ここら辺佐藤さん少なくない? 日本一のはずなのにさあ」

 定番の話題で場を盛り上げ、第一印象はまずまずのところに持っていく。するとすかさず、別の女子が私の後ろから威勢よく顔を出した。

「あたし、火野ひのひかり! 家美容院やってっから、良かったら来てねー。髪染めもやってっからな!」

「いや先生にバレたら終わりだし」

 クラスでも一、二番目くらいにイケてる女子の柳川やながわがツッコみ、ドッと笑いが起きる。

「てか二人って中学同じなん?」

「そ。何なら保育園から一緒」

 私が答えると同時に、火野が懐いた大型犬みたいに抱き着いてきた。

「長い付き合いだかんね。この三つ編み、あたしが教えたんだよ!」

 と、火野は私の側頭部の三つ編みをカリカリいじる。

 私にはちょっとしたコンプレックスがあって、それがこの硬い髪質だ。長い髪は私には向かないって小さい時に親から言われたんだけど、小さいなりにまあまあ応えた。どうして私だけ、周りみたいに編んだり結んだりできないんだろーって。だけど火野が、親直伝のボブカットでもできる三つ編みを教えてくれたのだ。それにはすっごい感謝してる。してるけどさ。

「はいはい、分かったからあんましベタベタしないで!」

 火野を押しのけ、会話は一段落した。

 その後好きなアイドルとか音楽とかの話で十五分程度時間を潰し、徐々にそれぞれのタイミングで解散していった。そしてもう私達含め十人くらいしか教室にいなくなったところで、そろそろ帰ろうとリュックを背負った柳川がおもむろに口を開いた。

「あれ? ウチらのクラスって、三八人だよね?」

「え、なんで?」

 反射的に私はリュックを手に訊く。

「いや、クラスロイン、今三八人なの」

「合ってんじゃん」

「先生いんだから三九じゃないとおかしいでしょ」

「あ、そっか」

 火野のうっかりを訂正してから、私は黒板に貼ってあるクラスメイト表を確認した。クラス人数は三八人、自分のクラスロインを確認したが、やはり一人足りない。

「誰だー、入り損ねた奴ー」

 柳川はめんどくさそうに教室内に呼びかけたが、誰も名乗り出ない。

「ま、見つけたら入れといてやってー。ウチら近くのマイクで春限定シェイク嗜んでっからー」

 そう言うと柳川と周りの三人を引き連れて教室を出ていった。

「乗り遅れちゃったんかな? 楓」

「単に忘れてるだけかもよ」

 私はそう返し、ロインのメンバーとクラスメイト表を交互に睨めっこしていた。一番から順に、いるかどうか確認していく。たまにトリッキーな名前の奴がいて気を乱されたけど、それでも負けじと睨めっこを続ける。

「優しいねー楓」

「別に。ただ気になるだけ」

 これは別にツンデレってわけじゃなくて、本当に気になるだけだった。わざわざ探して入れてやろうとも思ってなかったし、そんな聖人みたいなことできるほど私は出来た人間じゃない。

「あ、いた」

 でも、まさか私が本当に見つけることになるなんてさ、縁結びの神は性根腐ってるとしか思えない。

「だれだれ?」

 私は、これから先一生、否が応でも覚え続けるであろう名前を口にした。



谷山葵たにやまあおい


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